第25話 ~オルトンの街崩壊へ?~
俺の言葉を聞いてマリンの顔色は一気に悪くなるのだった。
(やっぱりか……まぁ……そうだよな。マリンも頭から抜けていたよな)
チュートリアルクエストを放置することがほとんどないため、このイベントの存在を知っている人の方が少ない。
俺はこのゲームに関してあらゆる可能性を模索したので辛うじて覚えていた。
動揺を隠せず「どうしよう」と呟くマリンを見ながら俺は椅子から立ち上がる。
「一応、冒険者ギルドには忠告をするけど、俺は街を出るぞ」
「逃げるってこと?」
「……ああ、そうだ。今の俺は魔王を倒せない」
能力値やスキルレベルに蓋をされている状態で魔王なんて相手と戦うことすらできない。
今の俺なら近づこうとしただけで魔王のスキルによって蒸発するだろう。
(本来ならステータスを完凸させた冒険者のパーティーが戦うような相手だからな)
魔王が来る前に逃げてしまえば俺の命は助かる。
もちろん、ここから始まりの村に戻ってから本格的に魔王を攻略するための準備をするつもりだ。
「時間が惜しい。とりあえず行くぞ」
俺はマリンに声をかけ、二人で部屋の外に出た。
「あ、そういえば、もう一つ質問があった」
冒険者ギルドのある一階に降りるために手すりを握ったとき、俺はマリンに聞きたいことを思い出し、立ち止まって振り返る。
マリンは嫌なことでもあるのか眉をひそめていた。
「……何よ」
「俺以外の転生者についてだ。あの魔方陣を出現させるのは、転生者以外にありえないからな」
この世界で普通に生活をしていて、隠れたように存在する始まりの村に立ち寄る人なんていない。
(十中八九、俺以外の転生者がいる。そうでなければあの魔方陣が出現した説明がつかない)
あの場所へ赴き、魔物を討伐するなんて人は【チュートリアルクエストを知っている人】だ。
「他の転生者? いるわよ? そんなことを聞きたかったの?」
俺の質問に即答で答えるマリンの口調が軽く、事の重大さを理解していないようだ。
嫌な予感が的中したと思い、俺は眉間に力を入れてしまう。
「何人? 俺のように何か特別な力は与えられているのか? どこにいる?」
「数はわからないわ。特典はトールさんだけよ。どこにいるかなんて私は知らないわ」
いつもとは違って淡々と答えるマリンは嘘をついているようには見えない。
マリンを信用するかは微妙なところではあるが、少なくとも今噓をつく理由もないだろう。
それにこのつまらなそうな表情から、他の転生者に興味がないことくらい読み取れる。
「現在地がわかる方法はないか?」
「ないわよ。どうしてそんなことを気にするの?」
「魔方陣を出現させたのはおそらく、俺が以外の転生者だぞ?」
「えっ? ……あっ、そうか……チュートリアルクエストを知っているから?」
ようやくマリンは俺の言いたいことがわかったのか、目を見開いて確認をしてきた。
「そういうことだろう。目的はまったくわからないけどな」
魔王軍が出現しただけでもストーリーは進むのに、魔方陣まで出現させる理由が本当にわからない。
この段階で魔王を倒したとしても全く意味がないからだ。
(前より強い新しい魔王が出張ってくるだけだからな。難易度を上げたい? マゾプレイか?)
今はそんな余計なことを考えている暇はない。
「受付の人に忠告をしてから出るぞ。さっさと行こう」
「え、ええ……わかったわ」
二人で階段を降り、冒険者ギルドの受付へ向かう。
受付の奥では職員たちが右往左往して、各所に連絡を取っていた。
冒険者たちの混乱も収まっておらず、ギルドホールの中は大混乱である。
「……なにこれ?」
マリンが目の前の光景が信じられずに呆然と立ち尽くしていた。
俺はそんなマリンを尻目に、この街から出る旨を伝えるためにカウンターへ向かう。
一番落ち着いて対応してくれそうな女性の職員に話しかけようとした。
「助けてやってくれ!!!!」
突如、ギルドに駆け込んできた人たちによって喧騒が静まり返る。
何があったのか知らないが、疲れた表情の女性と男性が二人で真ん中の女性を肩で支えていた。
(あれ? 真ん中の人……どこかで……)
肩で担がれている人の顔が見えないけれど、全身の装備品や背格好に見覚えがある。
「聖職者はいるか!!?? ヒールを使えるだけでもいい!!」
ゆっくりと床に置かれた女性の顔を見て、俺は息を呑んだ。
(この人、転生直後の俺を街まで護衛してくれたエルフの騎士さん!!??)
どうしてこの人がこんなところで倒れているのか考えてもわからない。
ただ、善意で不審者同然の俺を助けてくれたこの人を、見捨てたくはなかった。
「マリン──」
「退きなさい! ハイプリーストの私が治してあげるわ!!」
俺が頼むよりも早くマリンがエルフの女騎士の元へ駆け寄る。
治療のために進むマリンのためにみんなが自然と道を譲るので、俺も便乗して後に続く。
(ボロボロじゃないか……何があったんだ?)
近寄るとピカピカだった赤い鎧や銀色の剣が見るも無残な姿になっている。
所々に紫色になった深い傷すらあるので、みんなが心配していたのも当然だ。
「安心しなさい、私にかかればすぐに治るわよ」
エルフの女騎士の傍で跪いたマリンは両手をかざしながらヒールを使っている。
ほどなくしてエルフの女騎士の表情は一気に柔らかくなり、力が抜けたように気を失った。
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