第21話 ~破滅モード~

 空を見上げる人をかき分けて鉱山ダンジョンに向かう俺は、これからのことを必死に考えていた。


(戦っている人が誰かなんて関係がない! 生きるために資金稼ぎだ!)


 破滅モードに入ると回復薬などの必需品がどんどん値上がりしてしまう。

 食事代も同じように高くなり、魔王を倒すまで天井知らずで上がっていくのだ。

 そのうち、お金を工面できなくなったプレイヤーは借金奴隷となり、返済が終わるまで冒険することができなくなる。


(そんな未来を避けるためにも少しでも金を稼がないと!)


 考え事をしているうちに鉱山ダンジョンに到着した。

 ダンジョンの入り口でも冒険者たちが何事かと空を見上げていた。


「すいません、通ります。失礼します!」

「トールさん! 待って!! 痛っ!? 誰、私の足を踏んだ人は!?」


 後ろにマリンがいるのを声で確認しつつ、受付にいるダンさんのところへ急ぐ。

 カウンターにいたダンさんは俺の姿を見つけると目をぱちくりさせた。


「お前たち……休みに帰ったんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんですけど……事情が変わったんです」

「そうなのか? じゃあ、また入るのか?」


 首を傾げるダンさんにはまだ立ち入り禁止の連絡が来ていないようだ。

 ゲームなら破滅の魔方陣が現れた瞬間に全ダンジョンの入場が禁止になる。

 だが、現実となったこの世界ではそうではないらしい。

 これは俺にとって嬉しい誤算だった。


(まだ入れる。明日には閉鎖されるだろうな)


 俺は急いで手続きを済ませて、ダンさんへ入場申請書と帰還札代の200Gを渡す。

 ダンさんは書類とお金を受け取り、二枚の帰還札を手渡してくれた。


「ん。問題ない……が、本当に行くのか?」

「はい。行かなきゃ生活できませんからね」

「そうか……気を付けていけよ」

「ありがとうございます!」


 軽く会釈をすると、俺はすぐにダンジョンの入り口へ向かう。

 後ろではギルド職員がダンさんに話しかけており、閉鎖をするという話をしていた。


「おーい! 二人とも待つんじゃ!」

「トールさん、呼ばれているような気がするんだけど……」

「振り向くな。気付いたら止められるだろ」


 俺たちはダンさんの声が聞こえていないふりをして、足早にダンジョンへ入った。

 しばらく進んでから立ち止まり、大きく深呼吸をする。


「はぁ~~……よし、これで大丈夫だな」


 俺は振り返って入り口を確認する。

 幸いにも誰もついてきていなかったので安堵して胸を撫で下ろす。


(危なかったぁ~!)


 もし振り返っていたら間違いなく止められていただろう。

 そうなったら探索どころではなく、強制的に帰されていたに違いない。


「どうするのよ? 私、道覚えていないわよ?」

「そこが問題なんだよな……まあ小さい鉱脈でもいいから探してみよう」


 俺とマリンは再び歩き出し、坑道内を進むことにした。

 道中では魔物が出ることはなく、鉱脈も見つからない。

 疲労だけが蓄積されていき、時間だけが過ぎていく。


「ねえ、トールさんもう帰らない? もう疲れたわ……」

「成果があれば俺だって帰りたいさ……ん? あれは……」

「どうしたのよ?」


 俺が気になった場所は通路に埋め込まれている大きな岩だった。

 マリンを無視してペタペタと岩に触っているとあることに気付いた。


(これ、もしかして……?)


 俺は期待を込めて大岩を横にスライドしてみる。

 すると岩が動き出し、その先にぽっかりと空洞が現れる。


「おおぉ~! トールさんすごいわね!!」

「たまたま見つけられたよ。こんな感じの岩だったなって」


 俺が見つけたのは大きな隠し扉だ。

 鉱山ダンジョン第一層にある【ご褒美部屋】への入口である。


「やったじゃない! お宝部屋よね!?」

「ああ、そうだと思う」

「早速行きましょう!! お宝お宝~♪」

「あ、おい! 待てよ!!」


 先に行ってしまったマリンを追いかけるように俺も走り出した。


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 俺たち二人が通路に入ると、隠し扉の岩が勝手に元に戻ってしまう。

 まるで閉じ込められたような錯覚に陥る。


(あれ?)


 ゲームでこんな仕掛けがなかったような気がしなくもない。

 俺と同じことをマリンも思っているのか、閉じた岩を見て首をかしげていた。


「あれぇ~? なんで閉まったのかしら?」

「さぁ……?」

「まあいいわ。行きましょうよ」

「そうだな」


 二人で首を傾げつつ、とりあえず先へ進んでいくことにした。

 この先は大きな空間のある部屋が一つだけあり、一番奥に宝箱が置かれているはずだ。


(誰も取っていないといいんだけど……)


 マリンは先に誰かが取っているということを気にせずに先へ進んでいる。

 それは横顔がほころんでいるのを見れば一目瞭然だった。


「お宝♪ お宝♪ 宝箱♪」


 鼻歌を歌いながらスキップをする姿は子供のようだ。


「楽しそうだな……」

「当たり前でしょ!? こんな機会めったにないんだから!」


 スキップをしながら歩くマリンの後を追っていると前方に広い空間が見えてきた。

 どうやら通路が終わったようだ。

 俺とマリンはそのまま洞窟を抜けると広い空間に出た。


「……えっ?」

「なんで?」


 そこには予想外の光景があった。

 三体のスカルワーカーが待ち構えており、一斉にこちらへずり寄ってきたのだった。


【名 前】スカルワーカー

【種 族】不死

【レベル】32

【基礎能力値】

 体 力:2,400/2,400

 魔 力:25/25

 筋 力:21

 生命力:25

 敏捷性:6

 器用さ:36

 知 力:3

 幸 運:1

 スキル:急所攻撃Lv5《5%の確率で即死》

     状態異常耐性Lv1《10%の確率で状態異常を無効化》


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

現在カクヨムコン9に参戦しております。

ぜひ、応援よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る