プロローグ⑦~冒険者として~
シャルさんから手渡された紙には冒険者として活動していく上での注意事項が書かれていた。
1.ギルドの不利益になる行動を禁止する。
2.クエスト中に起こった出来事について自己責任とする。
ただし、他の冒険者を巻き込んだ場合は処罰対象となることがある。
3.ギルド員同士の争いは原則として禁止
4.依頼者とのトラブルに関しては自己責任
5.他のパーティーへの加入を強要するような言動の禁止
6.以上の規約に違反した者は除名処分となる場合がある
(全部知っている内容だ、この辺りは変わらないんだな)
ゲームのプロローグでは、この用紙へ名前を記入して冒険が始まる。
ここまで到達するのにこんな苦労をするとは思わなかった。
(まあ、これも貴重な体験だしな)
そう思いながら視線を上げると、シャルさんが心配そうな顔で見ていた。
「どうでしょうか?」
「みなさんに迷惑をかけなければいいんですよね?」
「はい! その通りです! 何か困ったことがあったら遠慮なく相談してくださいね!」
笑顔を見せてくれるシャルさんに手のひらほどの金属製の薄い板を渡された。
「こちらがトールさんの冒険者カードです……紛失された場合、再発行には手数料が発生しますのでご注意ください」
「分かりました……ん?」
受け取った冒険者カードに書いてある俺の名前の下に職業名の記載があった。
【職 業】無職
能力値がない俺に就ける職業がないということはこういうことらしい。
ゲームでも目にしたことがない【無職】という文字に若干心が躍る。
(本当に俺は無職なのか、それはそれで面白い)
ニヤニヤしそうな顔を必死に抑えながら、冒険者カードを眺める。
「このカードには持ち主の名前とレベル、基礎能力値が書かれております」
表と裏を交互に見ていると、シャルさんが説明を始めてくれた。
「レベルが上がった際は更新いたしますので、定期的にお持ちくださいね」
「はい」
受け取ったカードをポケットに仕舞い込むと、シャルさんがカウンターの上に置かれた水晶を片付け始めた。
どうやらこれで手続きは終わったようだ。
「さて、これで終わりですね。この後はどうされますか? お食事でしたら隣の酒場がおすすめですよ」
シャルさんが善意でそう言ってくれているのはわかるが、俺はお金を全く持っていない。
本当はチュートリアルクエストである程度のお金を手に入れる予定だった。
しかし、登録終了と同時に始まるチュートリアルクエストが始まらない以上、他の手段を考える必要がある。
それをシャルさんへ正直に話すことにした。
「実は俺お金が無くて……」
「あー……そうですよね。えっと……」
何かを考え込んでいたシャルさんはやがて顔を上げると、こう提案してきた。
「もしよろしければ今日はギルドのお手伝いをしていただけませんか? もちろん報酬もございます」
それは俺にとって渡りに船の提案だった。
正直言って、今の状態でモンスターを倒せるとは思えない。
何より、お金稼ぎができるこの機会を逃すわけにはいかなかった。
「是非やらせてください!!」
「ありがとうございます!! それではこちらへどうぞ」
こうして、俺の冒険者生活が始まったのだった。
◆◆◆
「さて、どうしたものかな」
今は冒険者ギルドに併設されている宿の一室にいる。
部屋の中心には大きなベッドが一つあり、他には小さな机と椅子があるだけのシンプルな部屋だった。
(これからどうするかなぁ)
シャルさんの紹介で冒険者ギルド内の清掃を行い、1000
一泊300Gなので、三日間ここに宿泊することができる。
ただ、シャルさんから次は紹介できないと言われたので、ベッドに横になりながら今後のことを考える。
(とりあえず当面の目的はレベル上げだな……上がるのか?)
アポカリプスオンラインではレベルが上がることでステータスポイントとスキルポイントを得られる。
そのポイントを振り分ければ強くなっていくのだが、俺のレベルが上がらなければ意味のない話だ。
(レベル0……この能力でどうやってレベルを上げるんだ?)
スキルもないし、能力も0でモンスターを倒せるビジョンが全く見えない。
冒険者カードを眺めていると、ふと視界に青い光が見えた気がした。
「なんだ!?」
異変を感じてベッドから飛び起きて青い光を観察する。
俺の横になっていたベッドの上に発生した青い光は徐々に渦となっていった。
「これは転移門か? なぜこんなところに?」
この世界で青色の光による渦は転移門以外にありえない。
それが突然俺の部屋に現れたことに驚きを隠せず、好奇心に負けて観察を続ける。
すると、しばらくして渦の中から人影が現れた。
「よっしゃー!! 私の勝ちよ!!」
現れたのはこの世界へ転生する前に合ったマリンだった。
マリンは部屋に入るなりガッツポーズを決めるて、満面の笑みを浮かべている。
「あれ? ここはどこ?」
そんなマリンは不思議そうに部屋を見回した後、ベッドのそばで固まっている俺と目が合った。
「……え!? なんであんたがここにいるのよ!!」
「なんでいきなり現れたんだ!!」
お互い同時に叫ぶと、そのまま数秒間見つめ合うことになった。
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