プロローグ⑥~冒険者登録~

 改めて渡された紙に目を落とすと、そこには氏名や年齢、性別などの他に特技なども書く項目があった。


(名前はトールでいいとして、年齢は……いくつだ? 転生前は35だったが……)


 今の身体は十代後半くらいに見えるし、前世の年齢をそのまま書いてしまってもいいものか迷ってしまう。

 ペンを持ったまま固まっていたら、シャルさんが微笑む。


「代筆いたしましょうか?」


 文字を書ける自信がなかったので、その申し出は非常にありがたい。


「はい、お願いします」


 シャルさんは俺からペンを受け取り、コホンと小さく咳払いをする。


「最初にお名前を教えていただけますか?」

「トールです。年齢は…………18歳ということにしてください」


 咄嗟に浮かんだ数字を口にしてしまう。

 するとシャルさんは不思議そうな顔をした。


「18歳……ですか? もう少し若く見えますけど……まあ、後で鑑定するので多少の誤差は構いませんよ」

「ありがとうございます」

(良かった……その流れはゲームと同じだな)


 自分の知っている状況にほっと胸を撫で下ろす。

 これでスムーズに進めることができるだろうと思いながら次の質問を待つ。

 しかし、次の質問はなかなか来なかった。

 不思議に思って顔を上げると、なぜかシャルさんと目が合った。


「どうかしましたか?」

「いえ、何でもありません……次の質問はなんでしょうか?」

「あ、えっと……もう大丈夫ですよ」

「名前しか答えておりませんが……よろしいんですか?」


 シャルさんの持っている用紙にはまだ項目が多数あったはずだ。

 それなのにこれだけでいいのかと思い、つい聞いてしまった。


「ええ、大丈夫です」


 シャルさんは頷いてから書類を置き、カウンターの下へ手を伸ばす。

 取り出したのは大きな水晶玉のようなものだった。

 それをカウンターの上に乗せて説明を始めた。


「この水晶に手をかざすことで年齢などのステータスを確認できます」

「便利な道具があるんですね」


 俺はこの水晶の存在を知っていたが、知らないふりをするのが普通だろう。

 その方が怪しまれないからだ。


「たまに虚偽申請をする方がいるので、こうしてチェックしているんですよ」


 苦笑しながら答えると、シャルさんが手をかざしてくださいと促してきた。

 俺は言われたとおりにゆっくりと水晶に手を当てる。

 次の瞬間、水晶の中に小さな光が灯る。


(おぉ! これがステータス判定水晶か!!)


 内心興奮しながら水晶から放たれる光を見つめてしまう。

 ゲーム内で見たことがある光景だったからだ。

 水晶内の光は次第に大きくなり、やがて文字のようなものが浮かび上がってきた。


【名前】トール

【種族】人間族

【年齢】18歳

【レベル】0

【基礎能力値】

 体 力:1/1

 魔 力:0/0

 筋 力:0

 生命力:0

 敏捷性:0

 器用さ:0

 知 力:0

 幸 運:0

 スキル:なし


「これがあなたの……ええっ!?」


 水晶に浮かび上がってきた文字を見て、シャルさんが思わず声が出す。

 その声は驚きに満ちていた。

 それはそうだろう。

 何故なら、表示された数値があり得ないものだったのだから。

 俺も表示された文字から目が離せない。


(体力以外の数値が0!? こんなことっ!?)


 心の中で叫んだが、俺にはこんなことになっている原因に心当たりがあった。


(あのマリンとかいう女神からもらった【レベル0】の特典か?)


 考えられる理由はそれしかない。

 どんな人やモンスターでも最低【1】はあるレベルが【0】なのだ。

 レベルに付随する能力値も0になるのは必然だった。


「驚いてしまい、失礼しました……」

「いえ、仕方ないですよ」


 申し訳なさそうに頭を下げるシャルさんに気にしないように伝える。

 正直言って、この結果には俺も戸惑っている。


(これがどう最強に繋がるんだ?)


 装備やスキルの制限がないといっても、肝心の能力値が0なら何の意味もないだろう。

 体力が1ではまともに戦闘もできないし、そもそも武器を持つことすらできない。


(俺はあの女神マリンに騙された?)


 そんな不安に駆られていると、シャルさんが顔を上げて口を開いた。


「これは困りましたね」

「……何が困るのでしょうか?」

「職業のことです」

「冒険者は通常、戦士や魔法使いといった自分の能力に合った職業を選ぶのですが、トールさんは…………」

「能力がないので職業を選べない。そういうことですね」

「申し訳ありませんが、そういうことになります」


 悲しそうな顔をするシャルさんに対して、俺は笑顔で首を横に振る。


「気にしないでください。この能力で自分に何ができるのか探してみます」


 俺にはアポカリプスオンラインの膨大な知識と経験がある。

 レベル0の縛りプレイという考え方に変えればなにか楽しめることもあるだろう。

 俺の返事を聞いたシャルさんはなんとか笑顔を取り繕うと、手元にある書類にペンを走らせた。


「それではこの情報で冒険者カードを作らせていただきます」

「お願いします」

「製作までの間に、この規約をお読みください……あ、読むのはできますか?」

「はい。それは大丈夫です」


 俺が頷くと、シャルさんは一枚を差し出してくる。

 一番上に『冒険者ギルド加入規約』と書かれているので、内容に目を通していく。

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