最終プロローグ~レベル0の真実~

「能力の変換? なんだそれは?」


 聞きなれない言葉に思わず問い返す。

 この世界で俺の知らない用語などないはずだ。

 しかし、マリンの口から出てきた言葉は俺の知識の中にはない。


(なんのことなんだ? 能力の変換……体力を代償に魔力を回復させるスキルならあるが……)


 俺が考え込んでいると、マリンは再び驚愕の表情を見せた。


「え……? まさかトール、そのまま食べようとしたわけ?」

「ああ、そうだが……」


 俺の返答を聞いた瞬間、マリンは肩を落として大きくため息をついた。


「信じられない……この料理なら絶対に付与効果はあるはずよ? 無駄にしないで」


 まったくもうと言いながら怒るマリンだったが、俺には意味がわからなかった。


「なあ、それってどういう意味だよ?」

「どういう意味も何も…………あれ? 私、説明しなかった?」

「聞く前にあの渦に巻き込まれたからな」


 睨みながら言うと、マリンはバツが悪そうに頭をかいた。


「あー……そんなこともあったわね……ごめんごめん」


 それからエールを一口飲んだマリンは木のジョッキを置いた。


「レベル0は制限のない職業。これは説明したわよね?」

「ああ」


 異世界召喚された際に受けた説明を思い出す。


(スキルや装備品、能力の補正などが一切ないという説明だけされたな……マイナス面ばかりではなく、プラス面もなかったが……)


 他の職業にはできない利点ばかりだ。

 今考えれば、そんな優遇をされてデメリットがないわけがないだろう。


「成長の方法も通常と違うのよね」

「……どう違うんだ?」

「レベルアップなんてまどろっこしいことしなくていいの。そうね……これを【みて】」


 マリンは皿に盛られた鶏のから揚げをフォークで刺して俺の方へ向けてくる。


「どう?」

「どうと言われても……唐揚げだよな?」


 カラッと揚がった鶏肉からは食欲を刺激する香りが漂ってくる。


(美味そうだな)


 口の中に唾が出てくるのを感じ、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。


「ねえ、ちゃんと【みて】る?」

「見てるよ。おいしそうだな」

「そうじゃなくて! こう、唐揚げの情報を表示させるように凝視するのよ!」


 少し怒った様子のマリンが俺の額を指で突いてきた。

 マリンの真面目な表情を見る限り冗談ではないようだ。

 ただ、食品の詳細情報は調理師という職業の者にしか見ることができない。


「俺にできるのか?」

「いいからやってみなさい。あなたにはそれができるのよ」

「わかった……」


 マリンの気迫に押されて、俺は差し出された唐揚げを凝視した。

 唐揚げの詳細を出現させるように強く念じていたら、半透明のウインドウのようなものが出現する。


------

名 称:唐揚げ(鳥肉)

効 果:筋力+1(1時間) 生命力+1(1時間)

詳 細:クローラ冒険者ギルド直営酒場の看板メニューの一つ。

    鳥の旨味を最大限に引き出している逸品。

所有者:マリン

------

(本当に出た……調理師だけが使える【料理鑑定】のはずなのに……)


 ウインドウの中に表示された内容を一通り読んだところで、視線を上げるとマリンと目が合った。

 マリンはにっこりと微笑むと口を開く。


「見えたかしら? そこに効果が書いてあるんだけどわかる?」

「ああ、体力と攻撃力が上がる効果があるな」

「その付与効果をトールの能力に変換できるのよ。すごいでしょ」


 えっへんと胸を張るマリンを見て、顔をしかめてしまった。


「どうやって? 食べるんじゃないんだろう? そこも説明してくれよ」


 能力の変換ができるのなら、能力上限の無い俺はこの世の誰よりも強くなれる。

 答えを急かすように質問すると、マリンは得意げに鼻を鳴らす。


「その横にトールのステータス画面を表示させて」

「自分のステータスまで表示が? ……マジか」

【名前】トール

【種族】人間族

【年齢】18歳

【レベル】0

【基礎能力値】

 体 力:1/1

 魔 力:0/0

 筋 力:0

 生命力:0

 敏捷性:0

 器用さ:0

 知 力:0

 幸 運:0

 スキル:なし

 俺のステータスが唐揚げ情報の横に映し出されてしまった。

 食品の詳細はスキルの制限がないというだけで説明が済んだが、これは違う。


(確かに、これはとんでもないことだな……)


 本来、ステータスはギルドの所有している鑑定水晶という魔道具でしか確認できないものだ。

 それをこうして見ることができるということは、道具の効果さえも俺が使えるという証拠でもある。


「ねえ! 私の話聞いてる!?」


 俺が呆けていると、マリンが怒りながら肩を叩いてきた。

 慌てて意識を戻し、説明を催促する。


「悪い、考え事をしてた。続きを頼む」

「まったくもう……」


 ブツブツ言いながらも説明を始めるマリン。


「さっき言ったとおり、食べたり飲んだりしても意味がないわ。でも、【自分のもの】にすれば話は別よ」

「どういうことだ?」


 意味が理解できずに首を傾げると、マリンはニヤリと笑った。


「これを持ってみなさい」


 そう言って、マリンは唐揚げが刺さっているフォークを差し出してきた。

 不思議に思いながらフォークを受け取り、何が起こるのか観察する。


------

名 称:唐揚げ(鳥肉)

効 果:筋力+1(1時間) 生命力+1(1時間)

詳 細:クローラ冒険者ギルド直営酒場の看板メニューの一つ。

    鳥の旨味を最大限に引き出している逸品。

所有者:トール

《能力値をステータスに変換しますか?》

------

「これは……」


 唐揚げの情報の下部にある文字が点滅していた。

 ゆっくりと視線を上げたら、にんまり顔でマリンがこちらを見ている。


「視えたわね? 変換してみなさい」

「あ、ああ……」


 言われるままに心の中で念じると、さらに唐揚げと俺のステータスの情報が変化した。


------

名 称:唐揚げ(鳥肉)

効 果:なし

詳 細:クローラ冒険者ギルド直営酒場の看板メニューの一つ。

    鳥の旨味を最大限に引き出している逸品。

所有者:トール

《能力変換済》

------

【名前】トール

【種族】人間族

【年齢】18歳

【レベル】0

【基礎能力値】

 体 力:11/11

 魔 力:0/0

 筋 力:1

 生命力:1

 敏捷性:0

 器用さ:0

 知 力:0

 幸 運:0

 スキル:なし


「これが……能力の変換……」


 唐揚げの効果が消え、俺の筋力と生命力が上昇していた。

 体力も生命力の上昇に伴い、連動するように上がっている。


「そうよ。その能力で私のために魔王を倒しなさい」


 ステータスを見て呆けていた俺にマリンはあっけらかんと言い放ち、ジョッキを持つ。

 ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干すと、ぷはぁ~っと満足そうな顔をする。


(これならいけるぞ)


 俺は自分が誰よりも強くなれることを確信し、拳を強く握りしめたのだった――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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