第20話 ~空中に浮かぶ魔方陣の意味~

「こうしちゃいられない……」


 俺は空を見上げながら呟いた。

 ギルドの中も外も騒がしくなってきている。

 誰もが混乱しており、泣き叫ぶ声や怒鳴り声が聞こえてくるくらいだ。

 しかし俺にはそんなことを気にしている余裕はない。


(あの魔方陣は破滅世界の始まりだ! マリン!!)


 俺は布袋を握りしめ、マリンがいるはずの宿屋へ急いだ。

 人をかき分けながら併設されている宿屋の受付に到着し、マリンのいる部屋を尋ねる。


「すみません、私はトールと申しますが、マリンという女性の部屋はどこですか?」


 俺の問いかけに、カウンターにいた男性が窓の外と俺を見比べてから答える。


「あ、ああ……トールさんだね? マリンさんの部屋は二階の一番奥だよ。鍵はこれね」

「ありがとうございます」


 男性に礼を言ってから階段を駆け上がり、奥の部屋へ向かった。


(ここだな……)


 扉をノックしても中から返事が返ってこない。

 鍵を開けて中に入ると、豪快ないびきが聞こえてきた。


「ぐぉぉぉぉおおおおぉおお……すぴぃぃぃいいいっ……」

「……はぁ……こいつは……おいマリン」」


 ベッドの上で大の字になって、気持良さそうに眠っているマリンを見てため息を吐く。

 気持ちよさそうに眠っているマリンの肩を揺すり起こすと、眠そうな目を擦りながら起き上がる。


「ふぁぁ……どうしたのよ……? 換金終わったの?」

「あれを見てみろ」


 寝ぼけているマリンを窓から見える景色を見せると、一気に目が覚めたようだ。


「え……? 嘘!!?? 破滅紋じゃない!!?? どうして!!??」


 慌てて窓に張り付くように外を見たマリンが驚きのあまり叫んだ。

 マリンも俺と同様にあの魔方陣について知っているようだ。


「やっぱりあれは破滅世界の召喚陣だったのか……」

「ええ、間違いないわ……でもどうしてこんなことに……? 私たちほとんど倒さなかったわよね?」

「倒したのはゴブリンだけだ。あれで魔王軍が半壊になるなんて思わないさ」


 俺も窓に近づき、外の様子を観察する。

 予想通り破滅世界の魔法陣が浮かんでいた。

 あの魔方陣は始まりの村に出現した魔王軍のモンスターが半数以上倒されると出現するものだ。

 そのため、俺とマリンはあそこでモンスターを倒すわけにはいかず、逃げるしかなかった。


「あっ!? もう光ったわ!!??」


 魔法陣が赤く輝きだすと同時に、無数の魔物がそこから飛び出してくる。

 これは現在も魔王軍と戦っている【誰か】がいるということを表していた。


(一体……誰なんだ? あんな僻地の村に?)


 そんなことを考えている間にも、次々と新たな魔物が出現する。


「でも、早くない!? 破滅モードはつまらないのよね!」

「まあ……それは言えてるな……」


 魔方陣が浮かんでいる間、この世界は非常事態が宣言され、不要不急の外出は禁止されているのだ。

 飲食店などはすべて閉鎖され、人々は家の中で待機することが義務付けられる。

 ただ、モンスターと戦う職業に就いている人は例外だった。

 冒険者ギルドや騎士団などの組織に所属している者は戦う義務があるからだ。

 その影響で冒険者ギルドでは、討伐クエスト以外の仕事がなくなってしまう。


(遠征クエストに出るのが一日遅かったら詰んでいたな……ん?)


 俺とマリンが誰も受注しなかった遠征クエストをこなすために始まりの村を発見した。

 それなら、今戦ってる人は何の目的であの村に行ったのだろうか。

 始まりの村は特になにもなく、特に用がなければ冒険者は近寄らないはずだ。


(……あそこに魔王軍がいると知っている人がいた……ということか?)


 もしそうだとしたら、その人物は俺と同じアポカリプスオンラインのプレイヤーである可能性が高い。

 真実を知っていると思われるマリンへこの疑問をぶつけることにした。


「……なあ、マリン。この世界に転移してきたプレイヤーって俺の他にもいるのか?」

「いるわよ」

「そ、そうなのか……?」


 あっさりと答えたマリンに俺は拍子抜けしてしまう。

 まさか本当にいるとは思っていなかったからだ。

 聞きたいことが多すぎて俺が言葉に詰まっていると、マリンが俺の肩に手を乗せてきた。


「安心しなさい。トールさんは特別枠で色々特典があったけど、ほとんどの人は装備品一つだけよ」

「……そんなこと全く心配していない。それに特典っていうけど、レベル0のせいで冒険に出るのが一ヵ月も遅れたんだからな」

「仕方がないじゃない! 最強の能力にはそれなりの代償が必要なのよ!?」

「あと数日クローラの街を出るのが遅かったら、満足に買い物ができなくなるところだったんだぞ!?」

「こんなことになるなんて私にわかるはずないじゃない!!」


 お互いの主張をぶつけ、俺とマリンは睨み合ってしまう。

 しかし俺はすぐに冷静さを取り戻した。


「すまん、少し言い過ぎた! それに、今は言い合いをしている暇なんてないんだ!」

「えっ!?」

「このままだと鉱山ダンジョンが封鎖される! その前に少しでも金を稼ぐんだよ!!」


 俺はお金が入っている布袋をマリンへ押し付けるように渡す。

 そしてそのまま部屋から飛び出したのだった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私も行くから!!!」


 後ろからマリンの声がするが無視をしてダンジョンに向かって走り続けた。

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