第3話 無能なお荷物は見てるだけ 3/4 (sideダン)
喝采! 喝采!! 大喝采!!!
街道を進む【
まさに英雄の凱旋。
ヘルムを外し体格に見合った厳しい顔に、よく見れば愛嬌のある笑顔?を浮かべて手を振るバーグ様。
不機嫌にしか見えないが、実はこれが喜んでいる顔のルラ様。
邪気のない可愛らしい笑顔でふわりふわりと浮かべば天使にしか見えないモチュリィア様。
凛々しい姿に似合わず人前が苦手なユリエ様は、ギクシャクと手を振っている。
そして、流石の余裕を浮かべ、大歓声に応えるハーマス様。
英雄の行進の最後を飾るのは、威容を誇るドゥルベアズの死体。
陽を受けて煌めく鱗。
風にそよげば光の粒が漂う鬣。
1本が子供ほども大きさがある鋭い爪。
見るだに恐ろしい二対の巨大な雌雄の獅子の顔に、怖気を誘う3頭の毒蛇の尾。
激闘の痕跡を微塵も残さない巨大な魔獣は、死んでもなお、恐ろしい。
本来であれば目があるはずの場所がぽっかりと空洞になっているのが、なお恐ろしい。
その巨体は装飾の施された山車に乗せられ、皆様方の後ろから、ゴロゴロと引き摺られている。
指を刺し悲鳴を上げる者、息を飲む者、目の当たりにした怪物と、その怪物を屠った英雄の誕生に歓声を大きくする者。
問題はその歴史に残るであろう凱旋の中に、オイラみたいなゴミムシが混ざってしまっていること。
山車を曳く人が他にいないし、間違っても皆様方にそんな真似はさせられないのでオイラが曳くしかないんだけども。
もう少し小さければ後ろから押せばいいので、盛り上がる皆様の視界に入るような恥知らずな真似はしなくてもいいのだけども。
しかし、この大きさの山車を後ろから押すと前が見えないので皆様方の行進に障ってしまう可能性があって、それは許されないので、大変申し訳ないながら、オイラがこの怪物を載せた山車をガラガラと轢かせて頂くのだけれども。
皆様方の大手柄の前にオイラみたいなのがいると、それだけでアヤが付いてしまうし。
オイラを見てそんな勘違いをするような方はいないとは思うけれども、億が一にでもオイラまでこの偉業に何か関わったかのように思われでもしたら、申し訳なくて申し訳なくて、なるべく小さくなって轢いているのだけれども。
どんなに小さくなってもやっぱり見えてしまうワケで、あんな風にオイラのことを指さして、難しい顔でヒソヒソとお隣さんと話す方もいるわけで。
穴があったら入って、上から埋めて頂きたい……けど、そんなお手間を掛けるのは申し訳ないので、自分で穴を掘って自分で埋めてしまいたいというのが、オイラの今の心境なワケで。
つまるところ、こんな何の役にも立たないオイラみたいな歩く生ゴミを連れて下さっている皆様方は、本当に慈悲深いということだ。
◆◆◆◆◆◆
「〖
凱旋パレードの最後を締めくくったのは、ブランセルの街を治める領主様、【ハインケン】子爵様、自らのお出迎えだった。
子爵様は、50過ぎ程の
凄く声のいい方だ。
子爵様の後ろには、揃いの鎧と武器を持った騎士団の方々がずらりと規律良く並んでおられる。
個々人の生命力に溢れた魅力を持つ〖混色の曲刀〗の皆様方と、集団をして一つの個となる騎士団の方々は、方向性は違うがどちらも物凄くかっこいい。
「有り難きお言葉!」
ハーマス様がキリリと跪礼をし、皆様方もそれに続く。
オイラは子爵様が現れた時から馬車に轢かれた後にカラスに啄まれたカエルみたいに平伏している。
「斯様な怪物を、傷も残さず倒すとは……聞きしに勝る強さであるな!」
子爵様の言葉に、皆様方がピシリと固まる。
オイラの全身から血の気が引く。
「遠征、死闘を経たにも関わらず、その傷一つなく輝く武具!過去、ドゥルベアズを倒した〖
伝説に名を残す冒険者達ですら苦戦したと言われる怪物を無傷で倒すなど本当にあるのか?という子爵様の疑惑のお言葉。
「勿体なきお言葉」
皆様方は硬い声で言うと一段と深く頭を下げる。
オイラはもう吐きそうだった。
折角ならドゥルベアズに傷が無い方がいいかと思って修復してしまったのはオイラだし、パレードをするのに傷んだ鎧ではない方がいいかと修復してしまったのもオイラだ。
そりゃあそうだ。
死体の傷も、鎧の傷も皆様方の栄光の軌跡だ。
そんな皆様方の死闘の跡を消してしまうなんて、なんて考え足らずな真似をしてしまったのか!オイラは!
皆様方は『大丈夫』と優しく言ってくださったが、もうオイラには息をする価値も無い。
確かに、皆様方は『ありがとう』ではなく、『大丈夫』と仰っておられた。
これはそういうことだったのだ!
バカの考え休むに似たり。
無能の働き者は真の迷惑者。
小人閑居して悪をなす。
スライム以上に頭の悪いオイラが勝手なことをしたせいで皆様方の伝説に瑕疵を与えてしまった。
「斯様な大物、ブランセルの街では手に負えぬ。私が責任を持って、王国へ献上する故、ご安心なされよ」
しかし、子爵様は貴族様らしい寛容さで話題を変え、オイラをチラッと見る。
すると背後に控えた騎士の方々がガシャリガシャリと規則正しく音を立てて、オイラを取り囲む。
不敬罪でボコボコにされるかと身を固くした時、先頭の一番背が高い騎士の方が声を掛けた。
「下がれ。この車は我々が代わりに曳く」
「は、はいっす!」
飛び上がって場所を譲る。
「
騎士の方にオイラの手垢がつかないように、山車の取っ手を洗浄する。
「ここからは我々が責任を持って運ぶ。貴様は下がれ」
鋭い声で言われ、ワタワタと下がる。
「この後、宴を用意しておる故、鋭気を養ってくれたまえ」
子爵様の言葉にハーマス様がチラッとこちらに視線を配る。
『お前は呼ばれてないんだぞ? 分かってんだろ、このゴミクズ?』
視線の意味は直ぐに分かる。
生きてることが恥と言われるオイラだってそこまで恥知らずではない。
視線を受けて、小さく頷く。
オイラが理解したことを確認して、皆様方がホッとしたのが伝わる。
よし!今回はちゃんと出来たようだ。
オイラは皆様方のお邪魔にならないようにさっさと姿を消した。
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