第18話 本物の荷物持ち 3/6 (sideモチュリィア)

「クッソダセぇ、ございます」

ダニエルとの待ち合わせ場所に向かう途中、ルラが自分の格好を見回して低いテンションで呟く。

今日はいつもの『いい所のお嬢さん風』ではなく、魔法使いらしい、地味な紺色のローブに、取り回しやすさ優先の短い杖を持っている。

ついでに飾り気のない胸当てに、肘当てと膝あて。分厚い手袋。

フードに隠れているがヘルムも被っている。

「禿げるほどダッセぇ、ございます」

ため息をつきながらブツブツと文句を垂らす。

普通の魔法使いが聞いたらブチ切れてもおかしくないレベルの上等な装備ではあるのだが――


――美的センスは皆無だ。


「じゃあ、いつもの格好で来いよ」

「死ぬよりマシだからこれでいい、ございます」

いつものドレス姿は攻撃力を優先した装備だ。

ルラの趣味色はかなり濃いが。


難易度の高い遺跡の場合、攻撃力や殲滅力を持っておかないと、いざという時打つ手が無くなることがある。

致命傷はダンが何とかしてくれる、という前提ではあるのだが。


今回は行先から考えてもそこまで攻撃力を求められる場面もないので、防御力優先の装備をしている。


「私も戦装せんしょうを着るのは久しぶりだわ」

ユリエが着ているのは白い軽鎧。

聖戦士の中でも最上等級・はくの位を認められた者だけが許される鎧で、特に奇跡の術を阻害する魔法に高い耐性がある非常にいい防具だ。

なのに、余り使わないのは、1つは目立つからで、1つは意外と重く動きにくいから。

そして……

乳牛マシャブが着るとただの痴女、ございます」

「そこまでじゃないわよ!!」

布地部分が意外とぴったりとしているため、体のラインが分かりやすい。

そして、ユリエは意外と肉付きがいい。部分的に。


それでも着ているのはやはり今回は防御力重視だからだ。

かく言う俺も、いつもより重装備で少し体が重い。


ヘルドシールド括り付けた盾はやっぱり心許ねぇな。鎧も軽いし」

しかし、今回、逆に軽装なヤツもいる。

バーグだ。

動きやすさと、両手が自由に使えるように、いつものような全身鎧に大きな盾ではなく、ハーフプレートに小さ目の盾を持っている。

装備が軽くなった分、大きな荷物を背負っている。


「体は抜群にキレてるし、何とかなるよ」

1人だけほとんどいつも通りのハーマスが爽やかに笑う。

違うのは、両腰に1本ずつ、二振りの刀を佩いている所だ。

「一晩でこんなに回復するとはな!」

皆、苦笑いだ。

一晩ゆっくり休んだら、体力も魔力も気力完全に回復した。

一月ぐらいリフレッシュしたように、体が恐ろしく軽い。

ダンが、掃除の時に使ったであろうあの超極限浄化ハイエンドクリーンというダン魔法の追加効果のお陰だろう。


油断は出来ないが、大きな不安が1つ解消されたのは確かだ。



◆◆◆◆◆◆



「お! 来たな! 頼むぜ!」

待ち合わせ時間から遅れること15分ほど、元気にダニエルが現れた。

時間には遅れる方が大物という慣習がある冒険者稼業の中では、充分キッチリした部類に入る。


俺たちはダンが15分前行動なので、時間に関しては冒険者にあるまじき正確さを持っているが。

必ず約束の2分前だ。

早すぎるとダンが更に早くなるからだ。


ダニエルは頭のてっぺんから足の先までレザー装備だった。

持久力が求められる荷物持ちガルネージャにはよく見られる。

艶のある暗い黄色で、所々にオレンジの差し色がしてある。

目立たないがちょこちょこと刺繍も入っていてなかなか華やかだ。

レザーはまっさらだと硬くて使いにくいため、敢えて魔法で熟らせることが多い。

そのため、パッと見は新品か愛用品か分かりにくい所があるが、これは一式新品だな。

要る物は買えばいいと言っておいたから、買ったんだろう。


それは構わないが、ブーツまで新品なのが少し気になる。

足元は慣れたものの方が安全ではあるが……。

まぁ言っても中堅パーティのメンバーだ。

その辺は大丈夫だろう。


にしても、どうせ買うならグラリゲータの皮そこそこではなく、グラトンリーダの皮上等なヤツを買えばいいのに。


「問題はないかな? ないなら行こうか」

「大丈夫っす!」

一通り挨拶をして、改めて少し確認した後、俺たちは目的地フィーネル鉱山へと向かった。



◆◆◆◆◆◆



馬車に揺られて半日弱、俺たちはフィーネル鉱山に着いた。

朝に出て、昼過ぎに付き、潜って一泊活動した後、明日の昼過ぎに帰路に付く。

今回はこんな予定だ。


無理するつもりはサラサラない。

ダンがいる時といない時、どれぐらい感覚が変わるかを知るのが目的だ。

ついでにキャラメル石を掘って来る。


鉱山に入る。

少し進めば暗くなる。

「灯りを点けるっす! ライ「ルラ、頼むよ」

「えぇー、ございます」

ハーマスに振られたルラが嫌そうな声を出す。

「いや、魔力はのこ「でも、まあ仕方ない、ございます。『ライト』」

たはーっと深くため息をついてルラが魔法を唱えると、

16個の光の玉がぽわぽわと浮かび上がり、前後を包むように照らす。


明るくなった鉱山内を見渡し、何となく視線がルラに留まる。


ヴィド、なんか文句あんのか、ございます!?」

「いや、大したもんだと思ってるよ?」

「あ、当たり前だ、ございます!? アイツと一緒にすんな、ございます!?」

ガンガンと足を踏み鳴らすルラ。

気持ちは分かる。

ルラの魔法は十分に凄い。


しかし、普段はダン魔法だ。

そう、ダン魔法だ。

あれはもうダン魔法と呼ぶべきものだ。


ライトから派生?しているのは主に2種類。

トラップなどを探し当てる『本当に探査する光クレイジーサーチライト』。

もう1つが、純粋な灯りとして使われる『白昼化デイライト』だ。


暗い場所が快晴の昼間の草原のようになる『白昼化』。

意味が分からないのは、光源がないのに明るくなるところだ。

影は出来る。

真上から照らしたように足元に。

しかし、真上に灯りらしいものはない。


しかも、前の方も、後ろの方も影が足元にできる。


遺跡探索において影というのは危険と同義だ。

何が飛び出してくるか分からない。

しかし、白昼化があれば安心だ。

影がほとんど出来ないから。


そんな謎現象に慣れていると間違いなく明るいが当然影が出来ているので、ちょっと怖いなと思ってしまう。


特に俺はトラップや奇襲を防ぐ斥候の役割も果たすから余計とだ。


「うん。ありがとう、ルラ。魔力は大丈夫かな?」

ハーマスが頷く。

「この程度、問題あるか、ございます!」

フン!と腕を組むルラ。


今回はこういう違いを探すためだからな。


なかなか大変なことになりそうだ。


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