第17話 本物の荷物持ち 2/6 (sideモチュリィア)

「お、俺っちを連れてってくれっす!」

「「「「「ん?」」」」」

振り返るとそこには只人族ヘルバトの青年がいた。

青年ってことは、まぁ俺たちと似たような歳頃なんだけど。

茶色い短髪。

垂れ目に茶色い瞳。

背は高くないが、がっしりとした体型をしている。



◆◆◆◆◆◆



ダンが消え去った後、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。


そこで、支部長以下、幹部たちに歓待を受けたり、ダンから預かったメモなんちゃらとかいう棒を渡したらギルド内がザワついたり、俺たちの即席サイン会が開かれ大騒ぎになったりしたが、割りとよくあることだ。


それよりも久しぶりにダン抜きで遺跡に潜るという話だ。


サイン会の熱狂が収まった後、改めてカウンターに座る。

行先について別にギルドを必ず通す必要があるわけではないが、目的地に関わる依頼があるなら一緒に受ける方が効率がいい。

ダンがいない以上、行って帰れば採集だけで一儲け、とはいかない。

後、万が一行方不明などになった時にどこに潜ったか?潜った目的は何か?などといった情報が残るので捜索隊などが組みやすくなるという保険の意味合いもある。



「また次へ行こうかと思いまして」

「えっ!?」

カウンターで対応したのはジェンチという森識人ヴェルディアの女性だ。

健康的な白い肌に、尖った耳、白い髪に、人形のように整った顔。

「も、もうですか!?」

Aランクダンジョンから帰還した翌日に次の目的地を探す。

控え目に言って、ただのバカだ。

「ちょっと性急かなとは思うんだけど、5人の内に試したいことがありましてね」

「あ!なるほど!」

ジェンチが得心したとばかりに頷く。


「どこかご希望はありますか?」

「うん、それでですね、エ」

「Aランクですかっ!?」

ハーマスがF中の中と言い切るより先に、食いつかれる。

「いやいや! さすがにそれは!」

5人揃って首を横にブンブン振る。

ダンがいても大変だった……のはボスだけだったけど、いや、ダンがいなければそもそも入ることすら出来なかったか……そのダンがいない間に試したいことがあるって言ってんのに、あんな人外の魔境に誰が行くか!


「えーっと、E中の上を」

B上の上ですか!?」

ダメだ。ジェンチは完全に頭が高ランクで埋まってる。

後、ハーマス、さりげなく勢いに押されてランク上げてんじゃないよ。


「あ、いえ、し、D上の下です。D!!」

おい!?

残りの3人も冷たい目で睨んでいる。

「あ、Dですか?」

なんでがっかりしてんだよ!

Dに挑めるヤツらだってそう多くはないはずだろ!

「ええ。戦力も足りてないですし」

「そうですよね! 流石に消耗されてますよね!」

後ろから『消耗しててもDかよ…』というざわめきが聞こえる。

いや、FとかGでいいんだが。


「そうですね、Dランクですと、〖ハギルの湖沼〗はいかがでしょうか? アンドゥガの討伐をして頂けると」

アンドゥガは、吸血虫の幼虫で成虫になると俺よりでかいトンボのような、なかなか厄介なモンスターだ。

確かに、幼虫のうちに潰しておくと、後が楽になるが……。


「〖ハギルの湖沼〗は勘弁だな」

バーグが割って入る。

「進むのが邪魔くせぇのは外してくれ。今回はそういう目的だからな」

流石に頼もしいな、バーグ。

ダンがいないのに、毒草が生え、毒虫が湧き、毒魚が襲って来る湖沼を進むのは嫌だ。

消耗が激しすぎる。

今回は俺たちの戦闘力を図りたいんであって、環境適応力はまた別の機会でいい。


「あぁ…そうですか……あ、ではバゲアラ洞窟はいかがでしょうか? キャラメル石を採掘して来て頂けると」

キャラメル石はその名の通り、キャラメルのような薄茶い石で、熱するとやはりキャラメルのように粘りが出て、ほかの鉱石同士を接着するのに使える。

魔力を通さないので、魔道具によく使われる鉱石だ。


「いいですけど、余り量は取れませんよ?」

ユリエが口を挟む。

ダンがいないと荷物の運搬量は激減する。

「うーん…量があるに越したことはないですが、キャラメル石は不足気味ですのであればそれだけでも助かりますけどね」

ジェンチが小首を傾げながら答える。

「じゃあ、大丈夫ですね」

ハーマスが頷いた、その時だった。


「お、俺っちを連れてってくれっす!」

「「「「「ん?」」」」」

俺たちの会話に後ろから割り込んで来たのだった。


「そうですね!」

「「「「「ん?」」」」」

今度は俺たちの前に座っていたギルド職員のジェンチがパンと手を叩く。


「ダニエルさんはいいかと思います。彼の所属する〖連なる剣呑グレーピーフィズ〗でしたらDランク攻略実績もありますし、ダニエルさんは優秀な荷物持ちガルネージャです」

「そうなんですか?」

「ええ。〖連なる剣呑グレーピーフィズ〗は只人族だけで結成されてまして、まだ若い…と言ってもハーマス様方とはそんなに変わりませんけど、期待の若手です」

ジェンチの言葉を受けてハーマスが俺をちらりと見る。


普通の荷物持ちがどんなものか知っとくのもいいかも知れない。


俺は小さく頷いた。


「ええ、ではダニエル君にお願いしましょうか」

ハーマスも頷く。

「ありがとうございますっす!!」

拳を握るダニエルの後ろで、恐らく彼のパーティメンバーが何やら話している。


「ただ、行く場所を変えましょう」

爽やかな笑顔を浮かべてハーマスが提案する。

「場所ですか?」

「ええ、〖バケアラ洞窟〗ではなく、〖フィーネル鉱山〗へ」

「フィーネル鉱山ですか? キャラメル石は取れますが、Eランクですよ? 石の純度も下がりますし」

「ええ。知ってます。しかし、Dランク攻略実績がある、ということは、彼らは普段、E、F辺りに潜っているんでしょう?」

「えー、ああ、そうっすね…。まあ、そうっす!」

「慣れないパーティで普段より難易度を上げるのは危ないですから。僕達の目的はフィーネル鉱山でも叶いますから」

ハーマスの言葉に、俺たちが力強く頷く。

子爵との交渉もそうだが、爽やかな顔をして、結構強かなのがハーマスのいい所だ。

D上級よりE中級の方がやりやすい。


「そうですね。では、そう致しましょう。ダニエルさん! チャンスですよ! 頑張って下さいね!」

ジェンチが拳を握り、強く頷く。

「はいっす!」

ダニエルも強く頷き返した。


「では、明日の朝出発します。僕達の分の荷物は僕達で準備しますので、ダニエル君は自分に必要なものを揃えて来て下さい。パーティシギルを渡しておきます。買ったものがあれば支払いは〖混色の曲刀〗に回して下さい」

報酬のこと、持ち寄るもののこと、あれやこれや。

軽く打ち合わせをして帰った。



◆◆◆◆◆◆



「久しぶりで緊張するわね」

「今から緊張してたら保たんぞ」

パーティハウスの3階、通称『ダンの間』。

そこで明日からの採掘に必要なものを揃える。


ここはいわゆる物置部屋なのだが、管理しているのはダンである。

そのため、まるで宝物殿のようにパーティの備品や財産が並んでいる。


ズラリと並んだ色とりどりのルラのドレス。

劣化を防ぐ特殊な処理がされた棚に並んでいるのはハーマスの刀。

改めて見てもやっぱりでかいダンの魔道コンロなど。

塵一つ、埃の一欠片も見当たらない。


ポーション回復薬類は多めにいるね」

「ポーションの効き目があやふや、ございます」

「上級ポーション使ってもいいだろうか?」

「いいだろ。安全には変えられねぇよ」

「汎用装備も久しぶりだわ」

「本当にダンには感謝だね」

「ただやっぱAランク明けはキツそうだな」

「6割ってとこかしらね」

「事故はないようにしないとね」

「あの発情猿バギリュゲはどうなんだ、ございます?」

「ルラ、本人のいる前でその呼び方は止めてね」

「……頑張ってダニエルって呼ぶ、ございます」

「中堅パーティでやってるんだから、そこそこはやるんだろ」

「ギルドがああ言ってたんだから、能力はあると思うよ」


ワイワイ言いながらダンの間を漁り、その後各々仕上げをし、その日は早めに休むことにした。


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