第14話 寄生虫はおつかいしても寄生虫 5/6 (sideダン)
――く゛ぇえ゛え゛えぇぇ――
「……な、なあ? 何か聞こえねぇか? あぁ?」
ハミさんが辺りをキョロキョロしながら呟く。
食事と休憩が終わった後、『進む』と言ったユネさんに、ベッソンさんが『戻った方がいい』と言った。
それを皮切りにアレコレと議論になった結果、そのまま進むことになった。
その後もベッソンさんが頭を押さえながら、はみ出したモンスターを5人で袋叩きにするという作戦で進んで来たけど、皆さん少し疲れているご様子だ。
コソコソと後ろを付いて歩いているだけのオイラに何を言う価値もないのだけれど。
――く゛ぇえ゛え゛えぇぇ――
「ほら! やっぱり何か気色悪い声が聞こえるって! あぁ!?」
オイラも耳を澄ましてみるけど、特に聞こえない。
ゲェゲェ鳴いてる黒い鳥が木の上からこっちを見てるが、アレは食事をしている時から居た。
だんだん近付いて来ている変な鳥だ。
――く゛ぇえ゛え゛えぇぇ――
「聞こえた! この不気味なのは何ゴミ?」
特にユネさんは、あのブリザードでかなり消耗したようで、魔法を使うのを控えている。
「どこだ、ボケぇ!」
「あそこっすよ」
木の上いる黒い鳥を指す。
「「「「「「うわぁあああ!!??」」」」」」
……驚かせてしまって申し訳ない。
「ゴミど――ってあ、え、あ、あ、あ、あああれっ! あれぁぇ、ああれっ!!あれあれ!」
黒い鳥を認めたユネさんが真っ青になってガタガタ震えだす。
「しし」
「しで、しだ、しで」
「くろくろ、あああかめの、たたたたくさんの」
それに続いて、皆さんもガタガタ震えだす。
「「「「「「シデノワタシ!!」」」」」」
息がピッタリだ。
「そ、粗大ゴミ!!」
ユネさん達5人が慌ててベッソンさんの大きな背中の後ろに回る。
「お、おい!?」
押し出されるような形になったベッソンさんが珍しく慌てる。
しかし、皆さんのベッソンさんへの信頼は厚い。
「何とかしろ! おらぁ!」
何もするなと言われるオイラとは雲泥の差だ。
「死んでも守れ! こんグズ!」
守ってもらうだけのオイラが言われることは絶対にない。
「むしろ、粗大ゴミが食われろ! 食われて私たちが逃げる時間を作れ!!」
ユネさんからベッソンさんへの信頼が厚い。
表現がとても
「ふっ、ふっ、ふっざけんなぁあ!!」
ベッソンさんが怒鳴る。
「やってられっかぁ!!」
森がビリビリと震えているような錯覚がする。
「てめぇらのお守りはもう終わりだ!! もう付き合ってられっか!!」
「なんだと! ベッソン!? あぁっ!?」
「そもそもてめぇらにEランクなんて無理に決まってんだろぉが!! 実力を弁えろ!!」
「誰に口聞いてんだ、ボケェ!?」
「てめぇらだ! 人のことなんだと思ってやがんだ!!」
ベッソンさん達の言い争いを見ながらハーマス様の言葉を思い出す。
オイラが皆さんと出会ってしばらく、皆様方の活躍が目覚しくなった頃、次、どこへ行くかという話になったことがあった。
バーグ様は難易度を上げるべきだと言われ、ユリエ様は今の難易度に慣れるべきだと言われた。
まるでケンカのように言い合うお2人を、オロオロと見ているオイラにハーマス様は笑いながら言われた。
『このくらいなら心配ないよ。自分の意見をちゃんと伝えるということは大切なんだ。命に関わることだしね。ダンはどうだい? やりたいことがあるなら聞かせて欲しいんだ』
『お、オイラっすか!?』
オイラの素っ頓狂で耳障りな声に、皆様方の視線が集まる。
言い合っていたバーグ様とユリエ様まで話し合いを止めてオイラを見ている。
顔が気色悪く赤くなるのが分かった。
『お、オイラは……』
『うん!』
ハーマス様がグイッと乗り出した。
『す、少しでみょ、み、皆様方のお役にたた立てるや、ように、なな、なりたいっす』
『『『『『…………うん』』』』』
『ヒェッ!?』
皆様方の生ゴミにハエが湧いていたのを見るような渋い視線が刺さる。
大それたことを言い放つ身の程知らずな空前絶後の身の程知らずに呆れてしまわれたのだ。
星の数ほどあるオイラの恥ずかしい失敗談の中でも、一二を争う黒歴史だ。
――く゛ぇえ゛え゛えぇぇ――
「はっ! 俺は逃げるぞ!」
「あ、待てゴラァ!」
「こ、この卑怯ゴミ!!」
「待てボケェーー」
黒い鳥の鳴き声をきっかけに皆さんがが走り出す。
あれやこれやと作戦会議を続けながら。
――く゛ぇえ゛え゛えぇぇ――
黒い鳥の濁った赤い目が、6人を捉えて妖しく光る。
――く゛ぇえ゛えぇえ゛――
バサりと翼を打つとふわりと浮かび上がる。
「く゛ぇえ゛ええ゛ぇえ゛ーー」
「あ、邪魔しちゃダメっすよ」
明らかに鳥は皆さんを狙っている。
作戦会議を邪魔するのは良くない。
「
鳥に向かってポンコツ生活魔法を放つ。
「ぐえ?」
大地の抱擁を受けた黒い鳥がポトリと落ちてくる。
この魔法は、そもそもウェイトという魔法で、洗濯物を干す時に使うと軽い錘になってシワにならないという、生活の知恵が詰まった素晴らしい魔法だ。
それをオイラが使うと、浮いてるものが地面に落ちて浮かび上がれなくなるというヘンテコなポンコツ魔法になる。
まぁ今回は皆さんの作戦会議の時間を作れたので良しとしよう。
この黒い鳥を捕まえられたのも良かった。
珍しいモンスターは美味しいことが多い。
この黒い鳥が珍しいかどうか無知なオイラは知らないけど、何か珍しそうな気がする。
この鳥をバターソテーにして、〖クロカサ〗を添えたらいい料理になりそうな気がする。
落ちてる鳥をとっとと捕まえて足を縛りながら、調理法を考える。
◆◆◆◆◆◆
「どうしたもんすかね〜」
「く゛ぇえ゛え゛え〜」
オイラの問い掛けに黒い鳥が答える。
頭からしっぽまで真っ黒で、光の欠片さえ弾かない。
「〖クロカサ〗がまだ見つかってないんすよね〜」
「く゛ぇえ゛え゛え〜」
オイラの独り言に黒い鳥が答える。
赤黒く濁った8個の目がオイラを見ている。
赤黒い目がチカチカと明滅している。
「どこにあるんすかね〜」
「く゛ぇえ゛え゛え〜?」
黒い鳥も知らないらしい。
オイラの肩に止まれる程の大きさしかないくせに脚は太く、それ以上に太く歪に歪み、それでいて鋭く尖った爪が地面を噛んでいる。
「……ちょっとお前臭くないすか?」
「く゛ぇえ゛え゛え〜?」
自覚はないらしい。
黒い鳥からモヤモヤと立ち昇っている紫色の煙が何か臭い。
「ちょっと綺麗にした方がいいっすよ」
「ぐぇえ……え?」
「
「え゛え゛え゛ぇ゛〜〜!?」
黒い鳥が光に包まれる。
「「………」」
「汚いままっすね〜?」
「く゛ぇえ゛え゛え〜?」
え?綺麗になったよ?と言わんばかりに首を捻る黒い鳥。
捻った首は、180度を超えて曲がり、上下逆さまになる。
嘴の裏では、ブツブツした何かがうねうね動いている。
「いや、汚いままっすよ」
「ぐぇえ〜?」
鳴く度に嘴からも紫色の臭い煙が出てくる。
「やっぱりオイラのポンコツ生活魔法じゃだめなんすかね〜?」
「く゛、く゛ぇえ゛え゛え〜?」
黒い羽をバタバタと動かす。
「いや、諦めちゃダメっすね。もう一度やるっすよ〜! 閃け、オイラのポンコツ生活魔法〜っす」
うぉおおお!!と気合いを入れる。
「あ、何かイケそうっすよ?」
「ぐ、ぐぇ?」
「
鳥の頭を両手で掴む。
「ぎぃえええええーーー!!??」
すると、手が虹色に光り、黒い鳥を包む。
「え゛え゛えぇぇ………」
鳥の断末魔みたいな鳴き声が止まる。
ビックリしたらしい。
両手を離すと、光がゆっくりと消えた。
「あ! 綺麗になったっす〜」
光が消えると黒く汚れていた鳥は、真っ白になっていた。
「……綺麗になったというより、何か色々変わったような気がするんすけど……そんなこともあるっすよね!」
頭からひょこっと伸びた柔らかそうな冠羽は銀色に光り、ひょろっと短い尾羽は目の覚めるような赤。
8個もあった目は、普通に2つになったし、脚はシュッと細くなり、爪は変わらず鋭いが、白く小さく丸くなりキラキラと透き通っている。
「元は綺麗な鳥だったんすね〜。きっとすっげー汚れてたんすね! あんなに汚れるまで放っといたら病気になるっすよ〜……って死んでないっすよね?」
意識を失ったのか、白い鳥はぐったりしている。
動かない鳥に耳を当てると、不思議な温かみがあり、トクントクンと穏やかな心音が聞こえる。
「まだ生きてるっすね! 良かったっす〜。死ぬと肉が硬くなるかもしれないっすからね〜。生きたまま持って帰って、食べる前に締める方がいいっす!」
ウンウンと大きく頷く。
「ま、先に進むっすかね! 森はまだまだ広いっすから」
鳥を肩に担いで森の奥へと進み始める。
ーーーーー
【お知らせ】
明日から公開時間を12時頃に変更します。
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