第4話 無能なお荷物は見てるだけ 4/4 (sideダン)
祝賀パーティー。
それは一種の戦闘。
剣が閃く代わりに燭台が煌めき、魔法が飛び交う代わりに酒杯が行き交う。
皆様方が華々しくも苦々しい戦闘に身を投じる間、アホなオイラはチマチマとアホでもできる事務仕事をする。
〖マツィラ廃坑〗攻略の華々しい冒険譚は、芸術分野にも明るいモチュリィア様が語られるだろう。
芸術のげの字も分からない原初生物未満の教養すら持たないオイラにできるのは、あったことをただ並べるだけだ。
報告するのは、〖
この報告の精度によって、冒険者としての信頼度が大きく変わる。
その重要性を考えれば、本来であれば、オイラみたいな生ゴミにたかる蛆の糞がすべきではないのだけれど、優しい皆様方は、こんなオイラにも仕事を与えて下さるのだ。
ギルドの扉をくぐる。
時刻は遅めだが、勤勉な職員さんは仕事をされている。
視線が集まる。
〖混色の曲刀〗の寄生虫、オイラのことはそれなりに知れている。
職員さんはオイラを見ると一瞬、手を止め期待を込めた目をした。
しかし、その次にはオイラしかいないことを察すると舌打ちして、立ち上がりかけた人は大きな音を立てて椅子に座り直した。
〖マツィラ廃坑〗を攻略し、そのボス【ドゥルベアズ】の死体を轢いて盛大なパレードをした〖混色の曲刀〗の皆様が来ることを期待したのだろう。
オイラでも期待するし、オイラなら手元のインク壺を投げ付けるに違いない。
同業者さんも何とも言えない顔をしている。
本来であれば、からかったり、蹴飛ばしたり、切りつけたり、燃やしたり、罵声の200ぐらい浴びせたい所だろうが、オイラは〖混色の曲刀〗の皆様方に良くして頂いていて、皆様方は筋の通らないことが嫌いなので、面倒を見てる以上、たとえそれがオイラであっても、抗議をして下さる。
正に虎の威を借る狐。
なんて言うと狐に失礼だから、〖混色の曲刀〗についた錆。
それがオイラである。
オイラが報告のため窓口に行こうとするが、職員さんはバタバタと忙しそうだ。
申し訳ないながら、オイラも〖混色の曲刀〗の皆様方にはご迷惑が掛けられないので、窓口の一つに向かい、声を掛ける。
「すまないっすけど、〖マツィラ廃坑〗攻略の報告がしたいっす」
オイラに声を掛けられた不運な男性職員さんは、舌打ちしてため息をつき、盛大に肩を落とす。
本当に申し訳ない。
「あっち」
顔も上げず、他所を指さされる。
返事をしていただけてありがたい。
「……どっちっすか?」
指の方向に何かあればより助かったのだけど。
「あっち。タイプでレポート作って。それから」
指を指した方向を8時だとすると、5時ぐらいの所に、最近、導入された魔道タイプという魔道具があった。
ペンと紙を使わなくても、文章が作れるという魔法のような道具だ。
そういうのを魔道具と呼ぶんだけど。
「使ったことないっすけど?」
最新魔道具に触れる機会など無かった。
使ったことがある人の方が少ないかと思う。
実際、ドーンと神々しく鎮座している魔道タイプの周りは、聖域のように誰も近付いていない。
「取説もあるから」
「はぁっす…」
「あ!壊したら弁償」
「……はいっす」
男性職員さんは忙しく、オイラの方を見ることもなく一方的に告げた。
少し茫然となるオイラ。
「おい!そこどけよ、グズ!」
「はい!すんませんっす!!」
反射的にぴょこっとどける。
後ろにいたのは同業者さんだった。
血錆が浮き年季の入った鎧に身を包んだ見るからに逞しいお兄さんだった。
「報告だ」
「はい。では、こちらで伺います」
どかっと椅子に座る。
職員さんも、手元の書類をササッと退けて新しい報告用紙を取り出した。
「やってみたら分かるっすかねぇ……?」
不安になりつつ、とりあえず魔道タイプへ向かった。
◆◆◆◆◆◆
これはすごい!
魔道タイプに向き合ってしばらく。
オイラは驚いていた。
カチカチとタイプを操れば、スイスイと文章が打てる。
鈍器にするには持ち上げるのに苦労するから向いてないほど丁寧に書かれた取り扱い説明書があれば、昼寝中のイワモドキナメクジみたいに血の巡りが悪いオイラでもサクサク使える。
文字だけでなく、図や、絵まで描ける。
世の中には凄いものを発明する人がいる。
生きてるだけで、技術の進歩を遅らせるようなオイラが同じ生き物で申し訳ない。
〖マツィラ廃坑〗で起こったこと。
罠の場所や種類。
現れたモンスターの種類と現れた場所、数、組み合わせ。
それに地図。
ドゥルベアズの攻撃方法や、皆様方の攻撃とその効果。
ひたすら事実だけを淡々と書き連ねる。
「おぉ〜、出来たっす〜!」
後は、この書き上がったレポートを魔道メモリースティックにコピーすれば……っと。
バカなオイラでもこんな簡単にレポートが作れるなんて、魔道タイプはすごい。
「あの〜っす」
魔道メモリースティックを持って窓口に行く。
さっき魔道タイプのことを教えてくれた職員さんはもういなかったので別の女性職員さんに声を掛ける。
「あ、もう、今日の受付は終わったんで」
書類にカリカリと手書きしながら言われる。
「明日以降で」
シッシッと手を振られる。
「すみませんでしたっす」
遅くまでお仕事ご苦労様だ。
また明日来よう。
「あ! レポートの受付にはパーティリーダーのサインがいるの! 代筆は不可よ!」
「そうなんすか!?」
初めて聞いた。
「あれよ! その! そう! Aランク遺跡の報告には必要なのよ!? 」
そうなのか。
「そうなんすね」
「そうなのよ! ちゃんとお越しいただくのよ!」
「……はいっす」
ハーマス様にご足労願わねば。
事務報告すらままならないオイラは本当に役に立たない。
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