第5話 神獣vs規格外 1/4 (sideハーマス)
「もう〜無理ぃ〜」
バフっと音を立てて、分厚いソファに倒れ込むユリエ。
危険度Aランクの遺跡〖マツィラ廃坑〗を攻略した記念のパーティーを終えた僕達【
現状の確認と、今後の予定について話し合うためだ。
「とりあえず、みんなお疲れ様」
危険度Aランクの遺跡〖マツィラ廃坑〗の攻略、そして、その功績を讃えるパーティー。
正直、パーティーの日程はもう少し配慮しろよと思ったけど。
横槍が入る前に子爵様が自分達だけでやりたかったのだろう。
「しっかし全部持っていきやがるとは思わなかったぜ」
バーグがデザート代わりの太い骨を齧りながら愚痴る。
廃坑のボスにして、神獣に片足を突っ込んでいる怪物、ドゥルベアズの死体のことだ。
「まあ、アレだけ大体的にパレードなんてやった以上、セコい真似は出来ないだろうよ」
パーティー会場からさらってきたワインのボトルをラッパ飲みしながら
あのサイズの魔物は普通なら、その場に残して後で人員を手配して取りに戻るか、今回の廃坑のように手配できる人員がいない場合――近寄ることすら危険だからだ――その一部だけを解体して持って帰ることになる。
それが死体をそのまま運び出すことが出来た。
「全部、ダンのお陰だね」
苦笑いしか出来ない。
「どっちみちあんなの私たちじゃ扱いきれないわよ。子爵様がやって下さるって言うんだから有難く任せましょ」
ドゥルベアズの完体。
王国に献上すると言っていたが、その査定は難航するだろう。
責任を持つと言ったのだ、責任を持ってもらおう。
運ぶための人員の数、必要な日程、それらを守る護衛。
必要な経費は青天井だろう。
「一番いい所は貰ってるしな」
チュリが胸に付けた飾りを触る。
純度の高い透明な真球がはめ込まれた艶やかな紺色の台座。
銀色の金属質の糸が周りを飾っている。
ユリエ以外の4人が同じものを付けている。
ドゥルベアズの瞳、鱗、鬣を用いた装飾品だ。
聖戦士のユリエは魔物から作った武具、宝具が身に付けられない。
「しっかし、あの騎士団長の顔、くっそおもしろかった、ございます」
ルラがニヤニヤしている。
パレードの最後、ダンから荷車を奪い取った騎士団は、揚々と荷車を引こうとして――
――ピクリとも動かなかった。
ダンが軽そうに曳いてたから、何とも思わなかったんだろうな。
その慌てっぷりは、正しく痛快だった。
「しっかし今回もウチの規格外は、規格外だったな」
脂のついた指を舐め取りながらバーグが笑う。
「もっと実力に相応しい態度を取ってくれるとやりやすいんだけどね」
ペコペコとすぐに頭を下げる仲間の顔を思い出す。
そして、彼の活躍を。
◆◆◆◆◆◆
「では、封印を解きます」
門番が神妙な顔で魔法陣に触れる。
「一度中に入りますと、3日は出れませんのでご覚悟下さい」
マツィラ廃坑の入口にある門。
この危険な廃坑は、常に毒ガスを発しており、放っておくと辺り一面が死の砂漠と成り果てる。
その毒ガスが外に漏れ出ることを封じるため、厳重な封印がされている。
遺跡と呼び習わしているが、本当に遺跡な訳では無い。
何となくこういう危険だが得るものが多い場所を遺跡と呼ぶ習慣がある。
「だ、だ、だ、大丈夫っすかねぇ?」
巨大なリュックサックを背負ったダンがカタカタ歯を鳴らしている。
僕達が無理だったとしても君は大丈夫だと思うよ?
「結界石があるから大丈夫よ」
ユリエが拳大の青い石を握っている。
結界石というこの石は、辺りの不浄を祓う貴重な魔石だ。奇跡の術の使い手にしか扱えない難物でもある。
「さ! さっさと行くぜ!」
黒妖の鎧に身を包んだバーグが勇ましく踏み出す。
その後ろで封印の門が閉まる。
遠くには遺跡の入口が見える。
「行こうか」
「……瘴気の濃さが尋常じゃないんだけど……」
入口を前にユリエが引き攣る。
それはどう見ても『漂う』などという生温いものでは無い。
ゴウゴウと吹き出し、ビュービューと旋を巻いている。
余りに誰も近寄らな過ぎたため、瘴気の密度が上がったようだ。
ユリエの顔を見るに、結界石のキャパシティを超えているらしい。
まあ、そうだろう。
「「「「「…………」」」」」
固まる僕達。
踵を返したいところだが、入口は再封印された入口が空くのは早くても3日後。
簡単に言うと『どうしよう』という空気が流れる。
「とりあえず死んだ方がいいオイラから行ってみるっすね」
そんな中、ダンだけがひょこひょこと瘴気の竜巻の中に歩いて行く。
「あ! ダっ!」
慌ててユリエが止めるが止まらない。
躊躇いなくするすると洞窟の中へと入って行く。
追いかけることも出来ず、呆然と見守るしかできない。
そうして待つこと暫し。
「目が痛いっす、コレ。チクチクするっす」
目を赤くしたダンが行く時と同じくひょこひょこ帰って来た。
「
ダンが生活魔法のファーストエイドを改良した魔法を唱える。
ファーストエイドは、擦り傷などができた時に痛みを緩和するおまじないみたいな魔法だ。
それがオイラが使うとなんか変になるっす〜と言い切る最終処置は、あらゆる毒に完全な耐性を作る。
これでもう、ダンにはこの瘴気は効かない。
意味がわからない。
「バシュテル!」
ユリエが慌てて解毒の術を使う。
問題があるとすれば、2回目に効かないのであって既に効いている毒を無効化は出来ないことだろう。
ユリエに解毒をしてもらったダンがいつものように頭を地面に叩き付けてお礼を言っている。
まあまあ、とユリエが取り成している。
彼の自己評価の低さは病的で何をどう言っても悪くしか聞いてくれない。
どうにかしなければならないのだけど、とりあえず今の所は何もしないというのが一番拗れない方法で落ち着いている。
「
頭からぽたぽたと血を流しながらダンが次のびっくり生活魔法を唱える。
彼はあくまで生活魔法の出来損ないだと言い切る。
元はレターという魔法だ。
レターは会議などの時に自分の考えるイメージをぼんやりと相手に伝えるというあれば役に立つ、という程度の魔法だ。
やはりレターを身の程知らずにも使ってみようとしたんすけど、オイラが使えるのはこんな出来損ないっす…と本気で言っていた――泣きそうな顔だった――速報は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など、自分が得たの極めて精緻な情報そのものと、その情報の分析結果、考察、今後の展望などの主観を仲間に完全に共有することが出来る。しかも、共有する情報は制限することもできる。
これだけでもとてつもないのだが、速報のビックリな所は、何と最終処置でダンが得た耐性まで共有することができることだ。
つまり、これで僕達にはこの瘴気はもう効かない。
ダンと違って半月ほどで耐性は消えるが、そんなもの、だからどうした、という程度のことだ。
レポートを見るに、瘴気は致死性の衰弱毒のようである。
少なくとも目がチクチクするとか言うレベルでは無いはずである。
本当に意味が分からない。
「結界石……」
ダンに頼りっぱなしは良くないと頑張って買った結界石を見下ろしながら、ユリエがぽつりと呟いた。
「ま、まあ! その! さ! さっさと行こうぜ!」
ポンポンとユリエの肩を叩いてバーグが歩き出す。
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