第6話 神獣vs規格外 2/4 (sideハーマス)

迷宮封印ラビリンスシーリング〜っす」


ダンが生活魔法を唱えるごとに、ブシュブシュと吹き出していた瘴気が弱まっていく。

本来はシーリングという、壁などのヒビを目立たなくする便利魔法だ。


これをダンが使うと、ダンジョンの罠を一時的に無効化するという奇跡のような効果になる。


「オイラの目〜は〜節穴〜〜 節穴〜 ただの穴〜」

コメントに困る変な歌を歌いながら、額にセットした本当に探査する光クレイジーサーチライトで廃坑を照らしながら進む。


ライトというただの明かりを灯すだけの魔法を魔改造したこの魔法は、罠や異変を調べて照らす。

普通の光が真っ直ぐ照らすのに対し、罠や異変のある方にくにゃくにゃと曲がり、その場所を照らすのだ。

生き物みたいで面白い。


その効果は面白いとかいうレベルではないが。

ミミックや転移魔法陣など、熟練のスカウトでも見破ることが難しい罠であっても、この魔法を前にして隠れることは不可能である。

少なくとも僕が知っている範囲ではない。

以前、宝箱部屋というタチの悪いトラップルームに閉じ込められてしまったことがあった。


部屋の中に100を超える大小様々なトレジャーボックスがあるのだが、そのほとんどが凶暴なミミックかトラップボックス。その中に一つだけ部屋を出るための鍵が入っているという凶悪な罠部屋だ。


熟練の冒険者でも絶望的なこの罠を、ダンは本当に探査する光クレイジーサーチライト一つで無傷でクリアした。

中にあるかもしれないと噂されていた本物の宝箱も見つけるというオマケ付きで。

本人は『さすがバーグ様っすね〜!!』なんて宝箱の鍵を力任せに叩き壊したバーグにキラキラした目を向けていたけど。



そんなダンが操る能力はこの生活魔法らしき何かだけではない。

他に2つもある。



その一つが――

「「「「ギャアアアアア!!」」」」

角の向こうからモンスターの悲鳴が響く。


角を曲がるとテリブルノームが4匹絶命している。

廃坑に住み着く魔物で、とにかくタフな魔物だ。

ダンが仲間にいる僕達が苦労する相手ではないが、4匹同時となると予想外の事態が起こる可能性はある。

そんな魔物が寝ているように死んでいる。


「ユリエ様の結界石はすげーっすね〜」

すごいすごいとユリエを褒めちぎるダン。

褒められたユリエの手には、結界石が握られている。


しかし、普通の結界石がただの青い石なのに対し、ユリエが今握っているのは静謐に青い光を湛えている。


今の結界石の効果は、使用者の半径30m以内に侵入するモンスターを問答無用で無力化させるというものだ。


結界石にそんな力はない。

本来は。


そう!これがダンの2つ目のぶっ飛び能力だ。

パーティメンバーの使用するアイテムの効果が爆発的に上がる。

物によっては上がるを飛び越えて別物になるレベルのものもある。


これは、サポーターと呼ばれるパーティ内の役割ロールが持つ能力〖応援チアフ〗の効果だ。

サポーターの個性によって能力は変わるが、普通はパーティが少し足が早くなったり、気持ち疲れにくくなったり、力持ちになった気がしたりする。


どれにしても目に見えて効果が爆上がりするなんて聞いたことがないし、アイテムなので持てば持った分だけ効果が重複するなんてことも聞いたことがない。


対象となるアイテムの条件は確定ではないけれど、使用者がそのアイテムの効果に満足してる間は対象から外れ、不満を持つと対象になるような気がしている。


事実、廃坑に入った時は結界石は普通だった。

ダンの速報クイックレポートで結界石がただの石になってしまってユリエがしんみりすると、このとんでも機能が発現した。


大体、こんな感じである。


「ありがとう」

そう返すユリエは、結界石が活躍して嬉しそうだ。

「オ、オイラがゴミムシみたいな悪臭を放つせいで、モンスターを引き寄せて、ユリエ様のお手を煩わせてしまって申し訳ないっす〜」

ユリエの礼を受けたダンが、訳の分からない謝罪をし、ユリエが戸惑っている。


ちなみに、ダンの能力の対象となるアイテムには装備品も含まれる。


僕の愛刀〖成業なりわら〗など、ただでさえ類を見ない業物なのに、ダンの能力のおかげで、作り話みたいな斬れ味を誇っている。

これも、ソードブレイカーというめちゃくちゃ硬いゴーレムと戦った際に、『もっと斬れれば』と歯噛みした途端、もっと斬れるようになった。


多分、条件は合ってあるはずである。



「豆腐〜の角〜はどこにあるぅ〜。オイラの頭をかち割って〜おくれ〜」

ユリエの結界石と、ダンの生活魔法の力、つまりほとんどダンの力で、危険度Aランクの廃坑をただの洞窟のように進んでいく。


――ぐぅううう〜〜――

気の抜けた音がすると、みんなの足が止まり、視線が真ん中に向く。

お腹を押さえて顔を赤くするルラだった。

「お、お腹が空いた、ございます……」


危険度の高い遺跡に潜ってまだ時間は経っていない。

本来なら緊張で空腹を感じる暇は無いはずだが、まあ、仕方がない。

仕方がないのだが……。


鼻歌を口ずさみながら、危険なトラップを無力化していたダンが消える程の勢いで身を翻すと、ルラの足元にひれ伏す。

ルラがビクッとなる。

「皆様方の大切なお荷物を持たせて頂いているのに〜!!」

とそのまま、泣きながら頭をゴンゴンと地面に叩き付けている。


こうなるのが問題だ。



◆◆◆◆◆◆



危険な遺跡の只中に絨毯と椅子を並べて優雅にサンドイッチを食べる。

ダンが用意してくれていた食材を、ダンのリュックサックから出し、ダンが作ってくれた。


ダンの作る料理は物凄く美味しい。

ビックリするほど美味しい。

よそで食べると大体がっかりするほど美味しい。


ダンの3つ目の能力、それは料理。

ではなく空間魔法だ。

いや、料理もなのだが。

ダンが背負っている巨大なリュックサックは、パーティ以外からはただのリュックサックだと思われているが、実際はマジックバックである。


空間魔法使いだけが使える魔道具の鞄は、容量以上の物が入り、重量も緩和される。


便利な代物だが、これ程大きな物は滅多に使われない。

理由は燃費の悪さである。


マジックバックは、中に物が入っている間、継続的に魔力を消費する。

その魔力は、入れる物の大きさと重さに比例する。

更に、空間魔法は魔力干渉の影響が大きい。

簡単に言うと、魔道具や魔的な処理をされた装備や薬品を入れると、更に消費魔力が大きくなる。


空間魔法のことなど何も知らなかった昔の僕達は、『どうせなら大きい方がいいですよ!』という商人の口車に載せられて、この巨大なリュックサックを買ってしまった。


魔力消費を緩和する処理がされた鞄もあるが、そういうものは桁が変わる。

当時の僕達に買えるような代物ではなかった。


初めの頃は、ほとんど荷物が入れられず、魔力切れで倒れては首を吊ったり、腹を切ったりするのを慌てて止めていたのだが、そこはダンである。


段々と使いこなすようになり、今では、信じられない物量を放り込んで何日間にも及ぶ旅程をひょいひょい歩いている。


鞄の中には僕達の装備類も大量に入っており、魔力干渉を考えると、どれだけの魔力を消費してるのか、もう想像すら出来ない。


魔法使いとしてトップクラスの魔力量を誇るルラから見ても『信じられない、ございます』というダンである。

ダンが背負うのが普通のリュックサックだと周囲に思われているのはダンに申し訳ないのだが、こんな化け物じみたアイテムを使いこなすことが知れてしまうと、引き抜きやスカウトが殺到してしまうので、ただのリュックサックだよ、ということにしている。

それを抜きにしても〖混色の曲刀ファルカンシェル〗の遺跡攻略を支える凄腕の荷物持ちとして注目を浴びているダンなのだから。



そんなダンは、僕達が食事をしている間は食べない。

というか食事をしている所を見たことがない。

僕達の料理をした時に出た余り物をちょいちょい摘んでいるのを見るぐらいだ。


何度か強引に一緒にしたことがあるのだが、緊張でガタガタ震えていてとても食事にならなかった。


とにかく扱いが難しいのがダンである。

甘えているのはみんな充分に自覚している。


歩く安全地帯製造機となったユリエがいるので、休憩場所も寝る場所も全く困らない。


廃坑は広大で複雑だが、それだけならば時間だけの問題だ。


こうして僕達はほとんど苦労することなく、4日間掛けて廃坑を踏破し、ドゥルベアズの居座る遺跡の最奥へと辿り着いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る