第7話 神獣vs規格外 3/4 (sideハーマス)
眼前にはドゥルベアズの威容。
神話にも現れる魔獣。
しかし、僕達は恐れない。
僕達は強い。
自惚れではなく才能がある。
過信ではなく努力も積み重ねてきた。
その上更に、ダンがいる。
驚くがいい!
理解を超えた存在はお前だけの特権ではないのだ!
「うぉりゃあ!」
バーグが黒妖の盾で巨大な爪を弾く。
その直後、盾が戦鎚へと変わる。
ダンである。
空間魔法の基本術〖
自分の持ち物を任意の場所に飛ばす魔法だ。
もう一つの基本術〖
離れた場所にあるものを回収する魔法だ。
そして、ドレスアップという生活魔法。
まだ自分で着替えられない子どもの着替えを手伝う――袖が丸まらずに伸びたり、ズボンの口が広がったりする――魔法。
それを改良された
一瞬で装備を入れ替えることが出来る。
この3つの魔法を一瞬の内に使うことにより、パーティの装備をその瞬間、最善の物に変えるダンの得意技である。
配達は基本術だが、熟達した空間魔法使いでも、目標から30cm程度はズレると言われる。
動いている相手を目標にすれば尚更である。
それがダンの場合、戦闘中であってもミリ単位のズレもない。
盾で弾き、振りかぶったその瞬間に、全く違和感なく盾と槌が入れ替わる。
悩むことすらない。
弾いた後、振り下ろせば武器に変わっている。
バーグ必殺のカウンターだ。
しかし、流石はドゥルベアズ。
巨体に似合わぬ身軽さでその一撃を躱す。
「消し炭になりくされぇ、ございます!」
ルラの魔法が飛ぶ。
全身、赤!
随所に散りばめられた
ルラが全身に纏っている赤い幻玉――
こんな装備をするのは実力不足の駆け出し魔法使いが何とか火力を得ようと足掻く時ぐらいだ。
適応力も魔法使いの大きなアドバンテージだからだ。
様々な属性の魔法を全て上級以上使うことができる天才は、普通こんな装備はしない。
しかし、そんな天才でもルラは違う。
必要に応じて装備を全て変えることができる。
そう! ダンの力で!
魔法具と相性の悪い空間魔法使いに、遠慮の欠片もなく魔法具の塊を運ばせる。
ダンに一番甘えているのは間違いなくルラである。
五十歩百歩ともいうが。
しかし、天才が規格外のサポートを自重なく受けると、世の中の常識など彼方へ吹き飛んでしまう。
結果、ただのファイアーボールが神殺しの業火へと生まれ変わる。
消費する魔力は威力通りだが、ファイアーボールと変わらない展開速度で連射することができる。
ドゥルベアズが慌てて青い炎を躱す。
ドゥルベアズに効くのは超上級の魔法だけで、本来、それ以下の魔法は避ける必要すらないのだ。
これが天才と規格外を掛け合わた威力だ。
「チュリ!!」
邪咬の鎖は魔物の動きを束縛する。
しかし、この蛇は獅子の身体とは別の生き物らしい。
ドゥルベアズの蛇の毒は、〖
「ぐえぇ!」
しかし、蛇に噛み付かれたのはダンだった。
その少し上には大きなリュックサックがぷかぷかと浮かんでいる。
空間魔法の基本術〖
本人ともう1人の位置を入れ替える。
同じく基本術〖
対象を浮かせる。
「だ!」
「痛いっす~、痛いっすよ~」
ダン!と叫ぶまでもなく、大丈夫そうだ。
食らったことはないが、泣き叫ぶ間もなく絶命すると言われる猛毒を受けて、クワガタに指を挟まれたぐらいの反応しかしていない。
「ダンを離しくさらせぇ、ございます!」
黒い疾風が飛ぶ。
うん、ダンは大丈夫だ。
ルラの装備を入れ替える余力があるし、荷物はゆらゆらと浮かびながら蛇の噛み付きを躱している。
「ルフィール!」
ユリエの回復魔法がダンを包む。
解毒と治癒を同時に行う高位術。
「あ〜癒されるっす〜」
呑気な感想を漏らすダンからついでのように
これで僕達は蛇の毒は効かない。
ユリエが微妙な顔をしている。
気持ちは分かる!
とてもよく分かる!
でも難しく考えてはいけない!!
倒す!それだけだ!!!
「チュリの鎖が切れる前に決めるぞ!」
声を出して1歩前へ出る。
刀術は強力だが、大型の魔獣や魔法使いを相手にする場合、間合いの狭さが問題になる。
本来であれば、足運びやフェイントを用いて間合いを詰める。
しかし、僕はその場で居合の構えを取る。
限界まで剣速を高めた居合術。
間合いは気にしない。
神経を研ぎ澄ませ、無心に刀を振る。
初見殺しの技の名は〖
「「ドィギィジャアァアア!!」」
ドゥルベアズが悲鳴を上げる。
斬ったのは雄獅子の左目。
意外と浅い。
流石は化け物か。
居合切りする僕を、ダンが空間魔法の中級術〖
不可視のヒットアンドアウェイ。
首まで行くかと思ったが、相手の懐は予想以上に深いらしい。
厳しい戦いになりそうだ。
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