第21話 本物の荷物持ち 6/6 (sideモチュリィア)
「……みんな早いっすね」
「「「「「おはよう」」」」」
髪が短いくせに寝癖だらけのダニエルがゴソゴソとテントから出てきた。
潜ってる間は朝ごはんが楽しみになっている俺たちは朝起きるのが早い。
昨日は結局、肩慣らし程度しか出来なかったから疲れもないし。
ダニエルはぐっすり眠れたようだ。
リフレッシュポーションは快眠の効果もあるからな。
今日は昨日と違って朝から荷物が多いからな。
へばられると困るからゆっくり休めたのはいい事だ。
「飯だぞー」
「おおっー!」
寝ぼけ倒していたダニエルの目が開く。
「
バーグが頑張ってテンションを上げている。
「いい匂いだね。ロコモコ丼の方が良かったけど」
「ああ!
「えっ!? 米って大変なの!?」
バーグには感謝しかない。
「すげーっす! 穴蔵で、朝からこんなの出てくるなんて」
ダニエルは嬉しそうだ。
「「「「「……いただきます」」」」」
「うめぇっす!! めちゃくちゃうめぇっすよ! バーグさん、天才っす!!」
恐る恐る食べる。
期待値を下げるんだ!
これはダンの料理じゃないんだから!
普通に美味しいはずだ!
昨夜のホットドッグのショックが大きく、いまいちテンションが上がらない。
「……まぁこんなもんか」
「いや。美味しいよ」
「ああ。普通に旨いぞ、バーグ」
「大丈夫、悪くない、ございます」
「………」
そして、やはりハンバーガーは普通に美味しかった。
うまいうまいと口の周りをソースだらけにしながらハンバーガーをほおばるダニエルの歓声が響いていた。
◆◆◆◆◆◆
帰り道。
それぞれの荷物を抱えて歩く。
歩く速度はゆっくりだ。
鉱山のいい所は道がたくさんあるから、行きと帰りで違う道を選べる事なんだが……。
「いまいち出てこねえな」
「ワーッと来ればいいのにね」
「クッソつまんねえ、ございます」
「楽でいいけどな」
「楽はいいけど、来た意味が無くなるから困るね」
モンスターが少ない。
ポツポツとは出てくるが、数が少ない。
試したいことがあまり試せない。
ダン抜きの状態にもだいぶ慣れたので、今できることを試したい。
ダニエルの
土壇場、ギリギリの場面でほんの少しでも筋力が上がるというのはありがたいことだ。
ただ問題は強くなり方にムラがあって当てにはできないことだ。
コンディション把握の訓練にはちょうどいいが。
「なんかある、ございます」
ダラダラと歩いていたルラがピコンと立ち止まる。
「何がだ?」
俺には分からない。
「気配じゃないから
「魔力!」
「ということはモンスターね!」
「よし、行こう!」
「こっち、ございます」
水を得た魚のように駆け出……そうとして、ダニエルがいるのでペースを落として進む。
言いたくはないが、荷物を満載したダニエルの歩みが遅い。
「ここら辺、ございます」
少しイライラしながら辿り着いたのは何も無い坑道の何でもない場所だった。
「何も、いないな?」
「けど、微かに魔物の匂いはするわ」
ユリエがキョロキョロする。
「―――」
ルラが真剣な目で辺りを探り――
「ロッククエイク」
坑道の壁に手を当てると魔法を唱える。
「ちょっ!」
ダニエルが叫ぶ。
ロッククエイクは岩を振動させて壊す術だ。
当たり前だが鉱山で簡単に使っていい術じゃない。
だが、使うのはルラだ。
ルラが使うならまず大丈夫だ。
ゴゴゴ……と音がして壁が崩れる。
綺麗な真円を描いて壁にぽっかり穴が開く。
穴の向こうは空洞。
壁やら天井やらにびっしりと夥しい数の灰色の塊がぶら下がっている。
「「「「「
灰色の猿の体に白いコウモリの羽を持つモンスター、ホワイトブラッキー。
1匹が俺と同じぐらいの大きさがある。
「繁殖部屋か!」
「気持ち悪っ!!」
――キィシャアア!!――
俺たちに気付いたホワイトブラッキーが奇声を上げる。
ビリビリと洞穴が震える。
威嚇だ。
「ヒェッ!?」
ダニエルがドサッと尻餅をついたのが分かる。
ついでにグシャッガチャッバキッと音がした。
何か潰したな。
青い目に殺意の炎を燃やしてホワイトブラッキーが飛び掛かる。
「応!」
すかさずバーグが割って入り、盾でホワイトブラッキーを叩き落とす。
「出口が狭いから、少しずつ削ろう」
ハーマスが落ち着いて方針を決める。
「わた「私にやらせろ、ございます!」
何か言いかけたユリエを遮って、ルラがギラついて提案する。
「やり方は?」
「ケツの穴に氷柱をぶち込んでやる、ございます! 全力で詰め込む、ございます。5分作れ、ございます!」
「荒れてんな」
「全力はやめろ、死にたくねえ」
ルラはこう見えて、繊細な魔法が好きだ。
中級以上の魔力を詰め込んだ初級魔法の精密斉射で殲滅するのがいつもの手だ。
しかし、今回は中級魔法を放り込むらしい。
珍しい。
「じゃ、わたしは時間を作るわ」
ユリエが刺突剣をスラリと引き抜くと、嗜虐的な笑みを浮かべる。
異種族ながら背筋が凍るほど美しい。
昨日は回復中心だったから暴れたりてないらしい。
じゃないと、聖戦士のくせに冒険者なんてやらない。
「抱け! ギャスティア!」
ユリエが呪文を唱えると白い刺突剣に赤い光が混じる。
血が滲んだようで不気味だ。
見た目は不気味で、その効果はえげつない。
ギャスティアの効果は、痛覚の増幅。
つまり、刺された傷がとても痛むということだ。
簡単に言うと拷問用だ。
穴の入口に構え、迫り来るホワイトブラッキーを捌くバーグの横で、踊るように剣を振るう。
哀れな猿は悲鳴を上げてのたうち回る。
滾っていた戦意が萎み、這う這うの体で逃げ惑う。
ギャスティアの効果を受けた武器の恐ろしい所は、貫かれた場所、全てが急所になるということ。
「口が臭いのよ」
穴の入口で痛みにのたうち回る猿を後頭部から貫く。
「ジロジロ見ないでよ気持ち悪い」
同じくのたうち回る猿を目から頭蓋まで貫く。
「トロトロノロノロ鬱陶しい」
敢えて急所を外して貫けば、猿が悲鳴を上げる。
「汚い手で触ろうとしないで」
暴言が猿ではない方へ向いているような気がするが、それは気のせいかもしれない。
俺たちで怒らせてはいけない1位は多分、だんとつでダンだが――怒る姿は想像できないが、怒ったら何が起こるか分からない――2位はユリエだ。
容赦と躊躇がない。
後、えげつない技が多い。技の発想に悪意と残虐性しか感じないものが多い。
聖戦士の術だと言ってたが絶対にオリジナルが混ざってると俺は睨んでいる。
絶対に食らいたくない。
数ある種族の中で最も本質が残虐だと言われるのが
聖戦士はその中の最精鋭と言える。
慈悲のために無慈悲を貫く戦士。それが聖戦士だ。
……言ってて怖くなった。
「
静かなルラの声。
バーグがドサッと、ユリエがするりと避ける。
「凍えて眠れ。 ブリザード」
呟くような詠唱。
――ヒュッ――
小さな風切り音。
肌をヒヤリと冷気が撫でる。
――…………――
「「「「「――――」」」」」
訪れたのは無音。
まるでその一瞬で穴の中のホワイトブラッキー全てが生き方を忘れたようにポトリと落ちる。
文字通り全滅。
「うん。初級に中級並を注ぐより、中級に上級並を注ぐ方がやりやすい……発動に時間がかかりすぎるのが難点……狭い場所以外だと効果が薄いか……」
もたらした結果に興奮すらなく、ブツブツと分析と反省を独りごちる。
「何が起こったの?」
さっきまでの嗜虐心丸出しで凄惨な笑みを浮かべていたとは思えない怯えた声でユリエが呟く。
目の前で突然、モンスターが静かに全滅すれば誰だって恐ろしい。
俺も怖い。
「ん?」
ルラがふと我に帰る。
「バカでも分かるように簡単に言うと、ミアレス理論を元にアレブリアベクトルをリーセランサ方位に転換したんだ、ございます。ああ、ミアレス理論とハナ・ユニアスタ理論は並行ではなく交差しているってのが分かりやすい例だな、ございます」
「「「「…………」」」」
全員バカだと言われてしまった。
「ブリザードで使う風魔法の作用も氷魔法に組み込んだってことかな?」
ウソだ。全員じゃなかった。
我らがリーダーは今ので意味が分かったらしい。
お前、魔法ほとんど使えないのになんで分かるんだよ?
「うーーん……全然違うけど、それで分かった気になるならそれでいいにしといてやる、ございます」
「「「「雰囲気は分かった」」」」
あっちの方を向いて4人が頷いた。
「ミレアスは大魔法使いっすからね!」
「「「!?」」」
まさか、ここにも知ってるヤツがいやがった。
「……
「「「「「…………」」」」」
ダニエルの顔が赤くなる。
「うん。それは置いといて、コイツらを持って帰ろう。大漁だ!」
「後でフリーズをかけなくていいのは手間が省けて楽、ございます」
「ホワイトブラッキーは良い値がつくぞ!」
「完品だしな」
「いいお土産が出来たわ」
5人でダニエルを見る。
「!?」
ダニエルがびくっとした。
なんだ?
ダニエルは下を向き、洞穴の中を覗き、また下を向いた。
「「「「「…………」」」」」
先程とは違う沈黙が降りる。
「……こ、こ、こんなにムリっす」
泣きそうな声で絞り出すようにそう言った。
いや、無理って言われても困るんだが……。
さて、どうしたもんか……。
ーーーーーー
こんにちは。
いつもありがとうございます。
先日、少し前から書いてた作品が完結しました。
ご声援頂いていた皆様、ありがとうございました。
もし未読でしたら、ぜひ、こちらも遊びにお越し下さい。
【追放されたテイマーはもう死にたい】
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