第20話 本物の荷物持ち 5/6 (sideモチュリィア)

「そんなこともあるかと思ってな!」

ガハハと笑いながら、バーグが持ってきた大きな荷物から魔道コンロを引っ張り出す。

ちゃんと携帯用の一口しかない小さなコンロだ。

『おおっ!』と感心の声が上がる。

ダニエルは微妙な顔をしているが。


アルモレ評判の店のハードパンと、ベニアセック人気な店のピンクピッグソーセいいソーセージージ、乾燥玉ねぎ、仕上げは、ウェストン間違いない店のバーベキューソースだ!」

「「「「「おおっ!!」」」」」

ゾロゾロと出てくる有名食材にテンションが上がる。

ダニエルも持ち直したようだ。

「それは!あれだな!あの時の!あれだな!」

テンションが上がった俺もまともに喋れなくなっていた。


ソーセージの焼ける様にユリエの目は釘付けだ。

バーグがデカい手で器用に料理をする。


「食うぞ!」

「「「「「おおーっ!!」」」」」

出来上がったホットドッグにかぶりつく。


Jランク遺跡〖タルテの神殿〗。別名、宝くじ神殿。モンスターはおらず取れるものもなく、鎮座した宝箱が当たるか外れるかの2択しかない奇妙な遺跡で、別名寄付神殿。高い入場料を取られることでも有名だ。

見事ハズレを引いて空振りに終わりテンションだだ下がりの俺達が、来たかいがあった!と持ち直したのはダンが作ってくれたこのホットドッグを食べたからだった。

バーグも粋なことを考える。


「う、うまいっす!! すっげーうまいっす!! なんすかこれ!! なんなんすかこれ!!」

「「「「「………」」」」」

飛び上がらんばかりに喜ぶダニエル。


「うん、そうよね、そうなるわよね」

ドライなユリエ。

「よく出来たホットドッグだな」

「悪くない、ございます」

「うん、美味しいね」

「……まあ、こんなもんだよな」

逆にテンションの低い俺たち。


遺跡の中の食事と言えばダンが作ったものだ。

日頃から全部ダンに作って欲しいが――頼めば作ってくれるが――申し訳ないので、ダンに食事を頼むのは遺跡の中だけというルールがある。


遺跡に潜る楽しみの一つは間違いなくダンの料理だ。


その経験が長いため、無意識に体がダンの料理を受け止めるつもりになっている。


なのでどうしても肩透かしを食らった感じがしてしまう。


「同じ材料なのに不思議だね」

「ホットドッグなら差はないかと睨んだんだがな」

「いや、これはこれで充分美味しいぞ」

「そう、比べてはいけない、ございます」

「………」

「いや、なんか言えよ、ユリエ」

「うん……ソーセージとバーベキューソースとパンの味がするわ」

「丁寧にありがとうよ!」

「すげーっす! 穴ん中でこんなもん食えるとは思ってなかったっす! やべーっすよ!」


1人騒ぐダニエルを尻目に、とっとと食い終えた。



◆◆◆◆◆◆



「何してるんだ?」

男4人が寝るためのテントの前で荷物を広げるダニエルを3人で囲んで尋ねる。

せっかく詰めてた荷物を開いている。


ルラとユリエは自分たちのテントだ。

多分、持ってきたお菓子を摘みながら益体のない話をしてるに違いない。


「何って、整理っすよ、モッチさん」

「整理?」

荷物持ちガルネージャの大切な仕事っすよ! 荷物は整理して、要らないものは捨てるっすよ」

「要らないもんなんて持ってないだろ?」

「そりゃ選定はしてるっすけど。運搬中に傷んだり、壊れたりすることがあるっすからね。後、使い終わったりとか、状況が変われば邪魔にしかならないものもあるっす」

確かに砕けた鉱石とか、潰れたモンスターとか利用価値がなくなってそうなものがチラホラある。

「そうなのか」

「初めて見たね」

「結構入ってるもんだな」

「初めて…って、アイツもやってたっすよね?」

「「「……??」」」

ないな。

整理も何も、ほぼ無限じゃないかってぐらい入るし、空間魔法でリュックの中から直接出し入れするし。

「ダンがやってるのは見た事ないね」

ハーマスが広げた荷物を見ながら珍しそうに答える。

見た事ないものも多い。

「………」

ダニエルは何やら考え込んでいる。

「荷物を沢山、丁寧に、確実に運ぶ、それが荷物持ちの仕事っす! せっかく潜っても戦利品が持ち帰れなかったら意味無いっすからね! 優秀な荷物持ちはパーティに必須っす!」

拳を握り情熱に溢れている。

「なるほどね。そのための工夫なんだね」

まあダニエルが5人がかりでもダンの足元にも及ばないが。


俺も似たようなものだが。


言いながら、荷物を選別し、何かルールがあるのだろう、詰め直す。

「俺たちにも余裕はあるし、ある程度は分担して持つぞ?」

歩くのが遅くなると帰るのが遅くなるし、とは言わない。

「いや、でもっす……」

「そうだな。水やら何やら軽くなった分もあるしな」

「そうっすけど……」

「確かに。皆で持てばいいね」

「そうっすか?」

「ああ、大丈夫だ。一人で肩肘はる必要は無い」

俺たちの言葉にダニエルが頷いた。

「じゃあそうするっす!」

「はは、じゃあ荷物を分けよう」

ハーマスが爽やかな笑顔で締めた。



◆◆◆◆◆◆



「飲むかい?」

「これは!?」

「リフレッシュポーションだよ」

ハーマスが薄ピンクの液体が入った瓶をダニエルに渡す。

「いいんすか!?」

リフレッシュポーションは、休息の回復効果を高める作用がある。

効果は覿面だ。


「体調管理をケチるのは良くねぇからな」

そう言いながら3本まとめて栓を開けるバーグ。

「ありがとうっす! てか、道具使いトエボージェみたいなポーションホルダーっすね」

そう言われた俺たちは、腰をぐるりと包むポーションホルダー――その名の通りポーションの瓶を挟んで持ち運ぶ道具――を着けている。

腰と、左腕と右足の3箇所だ。


「いつもは腰は着けないけどな。今回は多めに持ってるんだ」

「12スロットルの2本巻っすか!? それでも多いっすね!」

「そう? ポーションは多めに持っといた方が安心だからね」

「動きにくくならないんすか?」

「慣れてるからな。少しでも阻害されると不安がある時は外してるが」

「へぇ〜。俺っちのメンバーは3スロットル1枚っすよ」

「「「!?」」」

3本!?

体力、魔力、傷薬、各1か!?

「いや、普通っすよ。多い人でも6スロットルっすからね。使った分は補充していけばいいっすから! そのための俺っちっすよ!」

「………勇敢だな」

「戦闘中にそんな抱えててもポーション取り出す暇なんてないっすからね! まぁ、ここのみんなは余裕があるっすから出来るんすけど」

「「「そうか!!」」」

ダンがいないから!

ダンがいれば浮遊ニャトでホルダーからスポッと手元まで運んでくれるから、取り出す手間はない。

ダンがいるのにたくさん抱えているのは、距離の離れる配達ディよりもダンの負担が少ないからと、万が一ダンが動けない時にも自分たちでなんとか出来るようにするためだ。


「なるほどな」

バーグが頷く。

「他のパーティの話を聞くと参考になることが多いね」

「俺たちもそれなりに長いからな」

「モッチさん、年寄りくさいっす」

「うるせぇよ」

「さ、片付いたし寝ようか」

「そうだな。明日も朝から動きたいしな」

「了解っす。ありがたくもらうっす!」

薄いピンクの液体をクイッと飲み干す。

「やっぱ高いヤツはうまいっす!」

「良かったよ」

同じく飲み干し、空き瓶をホルダーに戻す。

それだけだと間違えて空き瓶を取る可能性があるので、並び替えをする。

いつもは飲み終わったらダンが回収してくれるし、気が付けばスロットルの整理もしてくれている。


空間魔法使いは恐ろしい。

いや、ダンだからか。


「……ずっと気になってたんすけど、何してるっすか?」

「「「ん?」」」

「いや、なんで空を戻すんすか?」

「「「ん?」」」

ダニエルに何か言われた。

なんでって空だからだろ?

「何がだ?」

「何がって、ポーションの空き瓶を戻すなんて普通はしないっすよ!」

「いや、でも、空き瓶は売れるんだろ?」

ダンが言ってた。

ポーションに使っている瓶は、瓶とは言っているがガラスではなく、ビネルという材質だ。

硬度があって衝撃に強い。

後、表面に薬剤が塗ってあって、ポーションの劣化を防ぐ効果がある。


ビネルもその薬剤も常に品薄なため、空き瓶をポーショネルポーション屋に持っていくと下取りしてくれるらしい。


「売れるって……」

ダニエルが分かりやすく呆れている。

「ケチくさいっすよ!」

「「「……」」」

いや、ダンがやった方がいいって言うんだから、やった方がいいんだよ?


「上級ポーションやリフレッシュポーションをポンポン開けられるのに、空き瓶売りなんて駆け出しの小銭稼ぎみたいなみみっちい真似するのはダサいっす! 俺っち達もやらないっす」

「えーと、じゃあ空き瓶はどうしてるんだい?」

穏やかにハーマスが訊ねる。

「こうっす!」

――パリーーン――

言うなりダニエルは瓶を壁に叩き付けた。


「「「………へぇ……」」」

「瓶は砕いときゃ勝手に消えるっす。だからこうやって叩き割るのが正解っす!」

「「「……へぇ………」」」

顔を見合わせる。

いくらぐらいになってるのか知らないが、売れる物をわざと壊すのはどうも……。

後、他のヤツらが破片で怪我とかしそうだし。


「ま、まあ、俺たちはこっちに慣れてるから持って帰るさ」

「そうだね」

「嵩張るモンでもないしな」

「そうっすか?」

「「「ああ」」」

「まあ、いいっすけど」

「いや、色々教えてくれてありがとう」

「ああ、助かるよ」

「ま、今日はもう寝ようぜ! 明日も早いしな。あっちも寝たみたいだし」

ルラとユリエのテントは明かりが消えている。


「見張りは3人で回しとくから、ダニエルはゆっくりしてくれ」

キーパーはいるが念の為に見張りは立てる。

そういうものだ。

3人なのは、ダニエルの見張りが不安だから、とは言わない。


「ありがたいっす! じゃあ寝るっす! おやすみっす!」


こうして1日目が終わった。


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