第22話 凄腕荷物持ちはつけ込みたい 1/4 (sideダニエル)

「お、俺っちを連れてってくれっす!」

冒険者ギルド。

俺っち、ダニエルは勇気を振り絞って声を上げた。


カウンターに座っているのはAランク遺跡を攻略したばかりの〖混色の曲刀ファルカンシェル〗。

たった5人でAランク遺跡に乗り込んだクレイジーなヤツらだ。

しかも、昨日、帰って来たはずなのにもう次の遺跡に行くらしい。

マジでクレイジーだ。


しかし、チャンスだった。

疲労があるからという理由で普段より難易度の低い遺跡に潜るという話。

更に、採掘をするという話。

何より、あの混色の曲刀ファルカンシェルの温情にしがみついている気色悪い寄生虫がいないということ。


何かの理由であの寄生虫が離れているらしく、その間に試したい事があると少し焦っているようだった。


間違いなく寄生虫の切り捨てを考えているはずで、いない間にいらない理由と実績を作ろうとしているのは明白だった。


だからチャンスだった。


ここでデカいリュックだけ背負ってりゃいいとか考えてるバカの無能ではなく本物の荷物持ちガルネージャの実力を見せれば、〖混色の曲刀〗に一気に近付くことが出来る。


「おい、ダニエル! どういうことだよ?」

俺っちのパーティ〖連なる剣呑グレーピーフィズ〗のリーダー、ウェンが小さな声で聞いてくる。


「ここで上手く潜り込めたら、俺っち達が〖混色の曲刀〗の兄弟パーティになれるかもしれないっす」

「「「!!」」」

その言葉でメンバーが驚く。

「そうっす! 〖混色の曲刀〗の兄弟パーティと認められれば俺っち達の信頼も上がるっす!」

「なるほど!」

「それに、弟分を引き上げるために色々融通してくれるようになるはずっす! あれやこれややりたかったことが出来るようになるっすよ!」

「「「おおっ!!」」」

目の前に広がった未来視にテンションが上がる。


「でもDランクなんて大丈夫か? 合同パーティでクリアしただけだし、実際何も出来なかったぞ?」

サブリーダーのヘンリーが肩を叩く。

「いや、大丈夫だろ。あのクソみたいな足でまといがいてもAランクを無傷でクリアするバケモン達だぜ? ダニエルに危険なんて回ってこねぇよ」

さすがウェン。良く分かってる。


その間にも話は進み、DではなくEランクの〖フィーネル鉱山〗へキャラメル石を採りにいくということでまとまった。


キャラメル石はそんな量が採れないから荷物としては軽いもんだし、Eランクならまだ何度か行ったこともある。

俺っちに都合のいい方へ話が進んでる。


「パーティシギルを渡しておきます。買ったものがあれば支払いは〖混色の曲刀〗に回して下さい」

「「「「!!」」」」

マジか!?

〖混色の曲刀〗のリーダー、ハミ君が軽く渡してくれたのは、首からかけられるように紐の先にコインぐらいの金属板が付いたアイテム。

〖混色の曲刀〗を表すパーティシギルだ。

これを見せれば混色の曲刀の支払いで持って帰ることが出来る。

つまり、ツケで何でも買っていいってことだ。


普通は現金を渡す。

この予算内で揃えろよ、って話になるのに。


Aランクをクリアするクラスになると、余裕がすげえ。


俺っち達を見てた他のパーティのヤツらが羨ましそうな顔をしている。


ばーか、てめえらとは一瞬の行動力が違うんだよ。


はしゃいでるのがバレると舐められるから、何食わぬ顔をしてシギルを受け取る。

簡単な打ち合わせをして終わった。

禁止事項とか、ルールの強制とかも何もない。

フリーハンドで入れるとか、マジで余裕がすげえ。



◆◆◆◆◆◆



「これもいいんじゃね?」

「どうせならこっちにしとこうぜ?」

「いや、俺っちは迷わず、これっすよ」

「マジか!?」

ギルドから出た後、俺っち達は迷わず買い物に行った。

真っ先にやるのは装備の更新だ。

荷物持ちは戦闘がほとんどないから装備がどうしても後回しにされる。


しかし、『俺っちが必要だと判断すれば』、混色の曲刀の金で買っていいんだ。

仲間と普段入れない高級武具店『マリオンアーマー』に行き、アレコレと物色する。


憧れだった『キャセルシリーズ』を選ぶ。

高品質なだけでなく、センスもよくかっこいい人気ブランドだ。

凶暴なワニ型モンスター、グラリゲータの皮を使った高級品だ。

店の奥の鍵の掛かったショーケースには、その上位種グラトンリーダの皮を使ったキャセルSシリーズもあるが……さすがにこれはな……。桁が違うし……。



胸当て、肘当て、膝あて、ブーツ……一通り選ぶ。

ついでに少し古くなってたポーションホルダー、予備のバックに、消耗品のスコップやロープ……普段なら予算の都合で後回しにする物を全部選ぶ。


「俺、剣新しくしたいんだよなぁ」

「あ、俺も。もっとイイヤツ欲しい」

「……俺っちのってことにしとくっすか!」

「「「いいねー!!」」」

山ほど選ぶ俺っち達に少し胡乱な目を向ける店員。


「これで頼むっすよ」

そんな店員に〖混色の曲刀〗のパーティシギルを見せる。

刃が虹のようになったマークは今、この街どころかこの国で最も有名と言っても過言ではないパーティシンボル。


店員が目を見開き、慌てて頭を下げると奥へと下がっていく。


そして暫く、奥からいかにも雰囲気のある品のいいオッサンが出てきて、丁寧に頭を下げる。


………ニヤニヤが止まらねえ。



◆◆◆◆◆◆



「パーッと景気付けするっすか!」

「お!」

「いいね!」

「だ、大丈夫か?」

マリオンアーマーを出て、マルテティでクローダの予約をした後、俺っちが提案した。


「大丈夫っすよ! 上位ランクの冒険者は細かな金勘定なんてしないのが普通っすから! ちょっとぐらい多めに使ってたって分かりっこないっす!」

ポンとシギルを渡したんだ、多少派手にやれってことだ。


「あそこ行こうっす! あそこ!」

「どこだよ?」

「ふっふっふ……あそこっすよ! あ、そ、こ!」

「おい! まさか!」

「今なら行けるっすよ!」

「「「「コレントリぃっ!!」」」」

快哉を上げると靴音高く歩き出した。


普段なら立ち寄れない高級娼館『コレントリ』。

只人族ヘルバトを相手にしたお店で、一晩で一月分の飯代が吹っ飛ぶし、そもそも身元が怪しいヤツらは入れすらしない。〖連なる剣呑グレーピーフィズ〗の名前だとまだ無理だ。


その分、可愛い子ばかりで、サービスも凄いらしい。

人生が変わると聞いたことがある。





その噂は本当だった。

VIPハーレムコース……こんなの知っちまったらもう戻れねぇよ……。


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