第11話 寄生虫はおつかいしても寄生虫 2/6 (sideダン)

「ワシらの邪魔すんなよ、あぁ!?」

「何もすんじゃねえぞ、こんタァコ!」

「ゴミでも近くを歩くぐらいなら許してあげる」

5人の戦姫ペンティエメルジェ〗の皆さんも、温かくオイラを迎えてくれた。


綺麗な人がハミさん、可愛い人がヤイさん、かっこいい人がエナさん、凛々しい人がモネさん、賢そうな人がユネさん。

で、ユネさんが〖5人の戦姫〗のリーダーだそうだ。


ベッソンさんはかつて、ユネさんたちに命を助けて貰って以来、サポーターとしてパーティに参加している。ベッソンさんはサポーターの中でも〖荷物持ちガルネージャ〗というポジションだ。

ポーションや装備、食料などの冒険に必要なものの他、倒した魔物の素材や、採掘した鉱石、採取した植物なんかを運ぶ大切な役割だ。


実はオイラも皆様方には〖荷物持ち〗として扱っていただいている。

オイラの場合は〖荷物持ち〗ではなく荷物そのものだけど、皆様方はお優しいので、対外的にそういう風に言って下さる。


そんな皆様のご慈悲にも関わらず、クソザコナメクジのオイラがただの荷物だなんてことは、知れ渡ってしまっているのだけれど。



『何もするな』という足手まといにはこれ以上ない命令を頂いたオイラは、〖5人の戦姫〗の皆さんのお邪魔にならないように、隅っこをこそこそと付いていく。


「しっかし、Fランクがどんなもんかと思ったけど、大したことねぇぞボケェ!」

エナさんがご機嫌に拳を振るい、緑色の狼、グルブの頭を燃やして仕留めた。


〖5人の戦姫〗は、ユネさん以外の4人が纏幻士まとうしという戦士だ。

纏幻士は、手足に魔法を纏うことで、攻撃力を底上げする格闘家。

魔法が得意だが、筋力が少ない不眠族ナルトメアでよく見かける。

素早い立ち回りからノータイムかつ接触状態で叩き込まれる魔法の威力は凄まじいの一言に尽きる。


数回だけれど、ルラ様も敵の接近を許したときに使われたのを見たことがある。

バーグ様より巨大なミスリルゴーレムに囲まれてしまったことがあって、その一体が前衛をかいくぐってルラ様に接近したことがあった。

その時、ルラ様の青い炎を纏った――非常に失礼ながら――子供の猫パンチみたいなのがゴーレムの右膝辺りに当たった瞬間、ゴーレムは顔の一部だけを残して一瞬で溶けてなくなった。


その反動は凄まじいの一言で、オイラはだらしなくも右腕が炭になって、体の前側がデロデロの火傷になった。熱かった。

ルラ様が火傷にならなくて本当に良かったと思う。

後、リュクサックが無事で本当に良かった。


オイラの火傷はユリエ様が治してくださった。

真っ青な顔で必死に治してくださった。

本当にお優しい。

お見苦しい姿で皆様方の目を穢してしまって本当に申し訳なかった。


別の時は氷漬けになったこともあったし、石像になったこともあった。

ルラ様の魔法は本当に凄い。


「もっと歯ごたえのあるやつ出てこいや、こんザァコ!」

モネさんが叫ぶ。


「生ごみごときじゃ私たちの相手は務まらない」

ユネさんが杖を振るうと、ゲルブが氷柱の中に閉じ込められる。


「ベッソン!さっさと回収しろや! おらぁ!」

「すぐ行くから、叫ぶなよ! 囲まれるぞ!」

ヤイさんの怒鳴り声に、先行していたベッソンさんが巨大な盾を手にどしどしと駆け寄ってきて、巨大なリュックサックにゲルブを片付ける。


混色の曲刀ファルカンシェル〗では、新鮮な状態の方が買い取り価格が高くなるからと、モチュリィア様がその場で必要な部分だけ取り出して下さるので、オイラはそれをマジックバックに放り込むだけだ。


嵩張らない方がいいからというお心遣いがあることをオイラは決して忘れない。


並の腕ではモンスターひしめくところで素早く解体などなかなかできないので、普通はこういう風に凍らせたり、魔法使いがいない場合は傷み防止の薬をかけたりして死体ごと運ぶ。


ベッソンさんは荷物を背負いなおすと、またどしどしと先行してモンスターに急襲されないように盾を構えれば、叫び声に誘われてやってきたモンスターを盾で弾き、腰に持っている柄が長く、先端が丸く膨らんだ棒と槌の真ん中のような武器でモンスターを叩く。


そして弱った所を、他の方が蹴ったり殴ったりして仕留めていく。


殴るたびに『うらぁ!』とか『おらぁ!』とか『ざまぁみろ!』とか勇敢な声を上げるので、そこそこな数のモンスターがわらわらと寄ってくる。


〖ブルームの森〗には狼のような素早さと一撃の強力さを活かしてヒットアンドアウェイで襲ってくる獣型のモンスターと、その場に留まっていてエリアに入ってくると突然襲いかかってくる植物型のモンスターが多い。


ベッソンさんはアクティブに襲い掛かってくるモンスターは得意なようなだけれど、待ち伏せ型のモンスターを探すのは不得手なようでうっかりエリアに飛び込んで、不意打ちを食らったりしている。


ただ体が相当強く、多少、不意打ちを食らっても気にせず叩き潰している。


安全を優先する〖混色の曲刀〗の皆様方とはずいぶん違う進み方だ。


オイラはダンゴロゴロムシの死体未満の存在価値しかないので、植物型のモンスターのエリアに踏み込もうが、獣型のモンスターの目の前を通ろうが、スルーされるんだけど。


ホテホテと後ろをついて歩きながら、見つけたキノコや果物、薬草などを採取していく。

目的である〖クロカサ〗が生える〖アヴェリヘェル〗の枯れ木も何度か見つけたけれど、クロカサは見つからなかった。

クロカサが簡単に見つかるわけがないんだけれど。



『それはいいっすけど、皆さんはいつまで同じところをぐるぐる回ってるんすかね?』

声に出さず心の中で思う。

さっきからテリブルシルフの巣の中を周っている。

もう5週目だ。


テリブルシルフは寝ているようで出てこないが、代わりにこれ幸いと巣に迷い込んだ餌を狙って結構な数の獣型のモンスターが集まっている。

『なるほどっす! 釣りっすね!』

あえてモンスターを呼び寄せて一網打尽にしてしまうやり方だ。

確かにずっと叫んだり足音を立てたりと、モンスターを呼び寄せるやり方をしていた。


ちょうどいいところに巣があったから辺り一帯のモンスターを集めようという寸法なのだろう。


〖混色の曲刀〗の皆様方は大物狩りが主流で小物との戦闘はほとんど避けるので、滅多にないけど、巣穴ごとの駆除とか頼まれた時はやっておられた。


空前絶後の小物であるオイラに小物呼ばわりされるのは業腹かとも思うけど。


真っ黒で巨大なアリ、タツノヨニゲに四方八方をぐるりと囲まれた時は凄かった。

ノコギリみたいなアゴが奏でるギチギチという不協和音はかなり怖かった。

怖かったし、実際、脇腹を噛まれた時は痛かった。

アゴから出される蟻酸が傷口にチクチク染みて泣きそうになった。


戦い自体は皆様方が一方的に駆逐しただけだったけど。



ざっと見た感じグルブの群れが3つほど、吸血熊ことハベロアの親子が5組ほど集まってきている。


大小合わせて60頭ほど。

まだ集めるんだろうか?

「ベッソン! 囲まれてるじゃねえか! 何してんだぁ! おらぁ!」

「クソっ!数が多いぞ、あぁっ!?」

「ベッソン! ちゃんと受け止めろよ!」


テリブルシルフは眠りが深いので、滅多なことでは起きないと思うけど、起きて来たら魔法攻撃主体の〖5人の戦姫〗の皆さんは苦労しそうな気がする?


「生ゴミが臭い。まとめて処分する」

ユネさんが静かに詠唱を始める。

杖を握る手が真っ白になるほど力が入り、足は武者震いしている。


ゴウゴウと杖に魔力が集まる。

テリブルシルフの巣で大きな魔法を使うと起きると思うが……。

敢えてなんだろう。


「凍れぇ生ゴミぃ!ブリザぁあード!!」

テンションが上がりすぎて裏返った声で呪文を唱えると、辺り一面を鋭利な吹雪が吹き荒れる。


――ゴォオオオオオーーッ――


轟音が響き、集まっていた魔物が巻き上げられ、千切れていく。

白い嵐は、巻き上げた泥と魔物の血肉で赤黒く染まる。


――オオォォォーー…………――


やがて吹雪が収まる。

「倒した…?」

ハァハァと肩で息をし、膝を付くユネさん。

青い宝石のいくつかが砕けてサラサラと崩れ落ちた。

「ざまぁみやがれ、こんザコどもが!!」

快哉を上げる皆さん。

危なかった。

もう少しで巻き込まれる所だった、よく熟れたモモイロリンゴが。


モモイロリンゴの実は珍しいから、収穫出来て良かった。

バーグ様はこのモモイロリンゴのジャムがお好きなんだ。



「あ! 起きたっすね」

木々をなぎ倒し見晴らしが良くなった森の真ん中に、ぽつりぽつりとテリブルシルフが浮かび上がった。


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