第27話 お荷物荷物持ちには荷が重い 1/3 (sideダン)
「ど、ど、ど、ど、どうするんすかーっ!!」
「ファティ」
「いやね、じゃないっすよ! どうするんすか!?なんでそんな落ち着いてるんすかお前は!!」
「ファッティティー」
「仕方ないってなんなんすか!? 開き直るなっすよ!」
パーティハウスの台所の一角、オイラは鳥に怒っていた。
ブルームの森で捕まえたあの白い鳥だ。
絞めようとしたらユリエ様にいけません、と止められた。
本当に慈悲深い。
食わないのに持って帰っても仕方ないので森に捨てたけど、なぜか付いてきてしまった。
そのせいでパーティハウスの中がファティファティとうるさい。
トイレはトイレで出来るのがまだ救いだ。
「今日は大切な日なんすよ! なんてことしてくれたっすか!!」
そう今日は2ヶ月に一度ある〖
その大切な日に、あろうことかこの鳥は……
「どうするんすかーーっ!!って避けるなっすよ!!」
叩こうとしたら避けられた。
「ファッティー」
ふよふよと目の前を腹の立つ距離感で飛び回る鳥。
「えい! この! こら! 避けるなっす!」
腕を振り回すけど、ふよふよと避けられる。
「ファッティティー」
「こっちこっちってなんすか!? 遊んでるんじゃないっす! 怒ってるっす!」
「ファティ?」
「もういいっす! オイラは忙しいっす!」
「ファビイ〜」
「お前は飯抜きっす!」
「ファビ!?」
「知らないっす! 知らないっすよ! 反省するっす!」
「ファティー!!」
「酷い? 酷くないっす! お前が悪いっす!」
「ファッティ!」
「痛いっす! 逆ギレは止めるっす!」
頭の周りをホバリングしながらつついてくる。
ムダに器用な鳥だ。
「ファッティー!」
「ダメっす! グレープオレンジベリーを勝手に食った罰っす!今日の大事な大事なミーティングのおやつに作るそば粉クレープに使うつもりだったのに……メニューを考え直さないといけないっす!」
「ファティ〜〜ル」
「何を喜んでるっすか! お前が食うクレープはないっす!」
「ファッ!?」
「マジで、じゃないっす! 当たり前っす! さっき飯抜きって言ったっす!」
「ファッテぃファティパピーファティ〜」
「クレープはご飯じゃなくてオヤツ? そんな問題じゃないっす! 屁理屈こねるなッす!……って時間が無くなるっす!」
2ヶ月に一度あるミーティングではオイラがお茶請けを作らせて頂くことになっている。
味覚も超一流の皆様方なので、普段から素晴らしく美味しいものを召し上がっている。
それなのに大事な会議の最後を飾るお茶請けをオイラに任せて頂くのは、ハングリー精神を失わないためだ。
高級なものでは無く、オイラが作れる素朴というか……単に貧乏臭く、普通に臭いものを最後に食べることで駆け出しの頃を思い出し、更なる飛躍の礎とできるという算段だ。
しかし、普通にオイラ作れる程度のしょぼくて褒めるところのないお菓子を出すわけにはいかない。
なぜなら皆様方は食べ物をとても大切にされるのでオイラがうっかり生ゴミと危険物の境目みたいなものを作ってしまっても必ず召し上がられるからだ。
そのため少しでもマシなものが用意できるようにしていたのに……。
「買い物に行く時間はないっす……今あるもので何とかするしかないっす……どうするっすかねぇ……」
◆◆◆◆◆◆
「じゃあ始めようか」
「「「「はーい」」」」
1時58分に席に着かれた皆様方は2時ちょうどにミーティングを開始された。
時間におおらかな人が多い冒険者の中にあって、こういう所も超一流だ。
「先ずはこの2ヶ月の収支報告からしようか。ダン、頼むね」
「はいっす!」
緊張しながら収支報告書を机の上に置く。
「すみませんが、今回はこちらの書類にもサインを頂きたいっす」
「ん?いいよ」
オイラが差し出した余計な仕事にも嫌な顔1つされず受け取って下さる。
本当に出来た方だ。
「請求先変更申請? へぇー、後、こっちは? 違約報告? 違約? 支払い証明発行申請? と、請求書……係争証明? なんか物々しいのが沢山あるね」
「恐縮っす」
「いやいや、全然だよ」
そう言われると、パラパラと書類を眺めてサラサラとサインをして下さる。
オイラが丸一日かけて作った書類でもハーマス様にかかれば数秒で読めてしまう。
眩しい程に完璧な方だ。
「いや、どういう内容だったのよ?」
隣からユリエ様が尋ねられる。
「え?」
サインを終えたハーマス様がオイラを見る。
「あ!」
視線の意味は直ぐに分かる。
『お前の気が利かないから仲間が不安になってるだろ? 少しは働けこの無駄飯食らい』
ハーマス様の仰る通りで、オイラがちゃんと皆様方に聞こえるようにご説明しながら出さないといけなかったんだ。
「は、はいっす! 申し訳ないっす! ご説明させて頂くっす!」
慌てて話し始める。
「落ち着け、な? 大丈夫だから」
モチュリィア様が無能なオイラに優しくしてくださる。
泣きそうだ。
「えー、先日ダニエルさんが助っ人で入られた時の請求書の件っす」
1つはマリオンアーマーさんの支払いで、〖
ダニエルさんが装備を更新するついでに、他の皆さんも色々買われたようで、その支払いが全部〖
その請求をちゃんと振り分けて下さいね、という書類だ。
もう一つは、コレントリーさんの請求が来た件だ。
コレントリーさんはブランセルの街でも有数の高級娼館で、入る時に身元の確認が必要になる。その時にお貸ししていた〖混色の曲刀〗のシギルを間違えて出してしまったらしい。
この場合は、コレントリーさんには非が無いので、支払いはする必要がある。そして、ちゃんと支払ってもらったよという証文を出してもらわないといけない。
ただ、他パーティのシギルを、それも信頼の元に貸し出しているものを間違って使うというのは契約違反になるので、冒険者ギルドに違反報告を上げる。
その上で、コレントリーさんの支払いと契約書にある違約金を合算して請求をする。
助っ人さんの契約違反は冒険者ギルドの顔を潰す結構大事なので、係争証明という、こうこうこういう理由で手続きに踏み切りましたよ、という内容を交渉ギルドに認めてもらう。
こうしておくと、もし〖連なる剣呑〗さんから嘘八百だ!と異議申し立てがあったとしても、スムーズに交渉ギルドさんが間に入ってくれる。
まあ、今回の場合は異議申し立てしても、交渉ギルドさんが入るまでもなく冒険者ギルドさんから支払いは認めて貰える内容だけど。
念の為だ。
こじれると、皆様方も拘束時間が長くなってしまうので。
「アイツ、コレントリーに行ったのか……」
「一晩で金貨10枚以上ってぼったくりじゃないのか、ございます?」
「いや、何人かで乗り込んで1人が2、3人買って、好き放題やればこれぐらい行くぞ」
「うわぁ……」
「ユリエ、まぁそう引いてやるなよ…男ってそんなもんなんだから……」
「うわぁ………」
「ま、まあこれで話しがまとまるんだからもう良いにしよう」
「そうね。時間のムダだわ。ゴネてきたら……ま、その時はその時ね」
「……うん、じゃあ次に行こうか」
「はいっす! ありがとうございますっす!」
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