第25話 凄腕荷物持ちはつけ込みたい 4/4 (sideダニエル)

「んあ?」

毛布が固い。

「すっげーよく寝たっす…」

疲れもあったのだろうが、穴の中とは思えないほど熟睡した。

辺りを見ると広めのテントの中は誰もいない。

あれ?寝坊か?

寝坊なら起こしてくれりゃいいのに。

「何時っすか?」

荷物に括り付けた時計に手を伸ばす。

「いててて!?」

背中が痛い。筋肉痛だ。

昨日あんな荷物担いで小走りみたいな速さで走り通したからだ。

その割には疲労感はあんまりないな……?

あ、あれか。

リフレッシュポーションか!

初めて飲んだが、すげぇもんだな。


高いから俺っちは買わないけど。


「6時過ぎ……遅くはないっすよね……?」

今日はほぼ帰るだけのはずだ。

行きであれだけモンスターを間引いてるから帰り道は早いし、採掘もアホかと思うほどしてるから用はないはずだ。

……なんでこんな早くから?

まあ、とりあえず外に出るか。



「みんな早いっすね……」

「「「「「おはよう」」」」」

外に出るとみんな揃ってた。

昨日あんだけ暴れたはずなのに疲労の欠片も見えない。

それに身支度も完璧だ。

何時から起きてんだ、コイツら?

女子組はともかく野郎3人は交代で見張りしてたんだよな?



にしても、朝からいい匂いがする。

バーグさんがジュージューとハンバーグを焼いている。

穴蔵には余りにも不似合いな匂いに、キーパーどもがチラチラと羨ましそうに見てる。

籠ってる間はクローダしか食べないだろうからな。

ドンマイ。



「飯だぞー」

「おおっー!」

バーグさんが作ったのはハンバーガーだった。

食う前から分かる。

絶対うまい!


エピトンのちょっとお高い卵で作った目玉焼きと、ハルクオクスの上等な肉で作ったハンバーグのハンバーガーだ!」

どうだ!と言わんばかりだ。


それより何より、リーダーのハミ君より先に俺っちに配られる。

昨夜、あの寄生虫が〖荷物持ちガルネージャ〗の基本たる荷物整理すらしてない本物のゴミカスだと分かり、ますます俺っちを欲しくなってるからな。

もう下にも置かない扱いってヤツだな。



ウェストンハズレのない店のデミグラスソースだ!ハンバーグはミレッツェ肉店人気な店謹製ハンバーグ一番人気だぞ」

ドヤ顔で説明するバーグさん。

「すげーっす! 穴蔵で、朝からこんなの出てくるなんて」

テンション上がりまくりで疲れも吹っ飛ぶ!

迷わずかぶりつく。

「うめぇっす!! めちゃくちゃうめぇっすよ! バーグさん、天才っす!!」

外でも食ったことねぇよ!

こんなうまいハンバーガー!



◆◆◆◆◆◆



で、なんなんだコイツらは?

頭沸いてんのか?

なんでせっかく昨日間引いたのに、別の道で帰ってんの?

またうじゃうじゃ襲って来てんじゃん?


既に、荷物持ちが持ち切れなくて、戦闘メンバーにまで分担しなきゃいけなくなってんのになんでまだ荷物増やしてんの?

大丈夫か?コイツら?


見ろよ、ルラちゃんまでカタツムリみたいになってんじゃん?不眠族ナルトメアだぜ?しかもあの体格だぜ?

体力とか筋力とか、子ども並だろ?

最大火力がバテて戦えませんとか本気でやめろよ!?


「いまいち出てこねえな」

「ワーッと来ればいいのにね」

「クッソつまんねえ、ございます」

「楽でいいけどな」

「楽はいいけど、来た意味が無くなるから困るね」

「………」

何言ってんだ?

朝から何匹倒したと思ってんだよ?

戦闘時間が短いだけで十分戦ってんだよ!

放っときゃ素通りするようなヤツらまで追い掛けて倒してんじゃねえかよ!


「なんかある、ございます」

ヨタヨタ歩いていたルラちゃんが突然立ち止まる。

「魔力の微動がある、ございます」

そして、とんでもないことを言う。

モンスターは大体魔力持ちだが、魔力が外に漏れるようなのは、そこら辺の雑魚とはワケが違う。

しかも、ここはEランクの危険な遺跡だ。

そもそも出てくるモンスターが厄介なんだぞ!?

こんな大荷物を背負って動きが鈍い時に勘弁してくれ!

「魔力!」

いやモッチさん、なんで嬉しそうなんだよ?

「ということはモンスターね…」

ほら回復専門のユリエが怖がってるじゃねえか!


「よし、行こう!」

いやいやいや!

行こう!じゃねぇよ!ハミ君!?

正気か!?


「こっち、ございます」

ほら、ルラちゃん素直だから指示に従っちまったじゃねえか!

こっちじゃねえよ!

焼き芋屋の屋台見つけたガキじゃねえんだから、ホイホイ近づくなよ!


てか、速ぇよ!

こっちは重いんだよ!


「ここら辺、ございます」

息……、息が……。

で、急いだ結果がただの道じゃねぇかよ。


ルラちゃんはキョロキョロしながら、フラフラと壁に手を当てる。

見ろ。無理して急ぐからヘロヘロになって……

「ロッククエイク」

うぇっ!?

余りに自然に唱えたのは、土属性の中級魔法。

道を塞ぐ大岩を砕いたり、城攻めで城壁を壊したりする魔法だ。


そんなもんを鉱山の中で使ったら、崩落しちまう!

「ちょっ!」

慌てて止めようとしたが、遅かった。

ボゴンと音がして壁が崩れる。

慌てて逃げ道を探す。


「……あれっす?」

しかし、壁が崩れる以上のことは起きなかった。

しかも、崩れるというよりキレイにくり抜いて穴が空いたようになっている。

「なんだこ……ひぇっ!?」

穴の奥から覗く凄まじい数の目。

目。

目。

目。


ホワイトブラッキーアルビノコウモリ猿

またの名を〖立ち枯らし〗。

性格は獰猛で狡猾。

不規則な軌道で飛び掛って食い付き、麻痺毒で体の自由を奪う。

悲惨なのは、生きたまま食い散らかされるということ。


間違いなくフィーネル鉱山ここではダントツに最悪なモンスターだ。


しかも、それが繁殖部屋で大量発生。

繁殖期は更に凶暴性が増す。


コイツら薮をつついて蛇を出しやがった!


――キィシャアア!!――


「ヒエッ!?」

猿どもが一斉に咆哮を上げる。

洞窟全体が揺れるほどの衝撃に思わず尻もちを付く。

ヤバい!

ヤバい!

ヤバい!

どどどどどうする!?


飛びかかった1匹目をバーグさんがたたき落とす。

「私にやらせろ、ございます!」

ルラちゃんが楽しそうに宣言する。

全員でかからねえと無理に決まってんだろ!?

何言ってんだよ!?

「じゃ、わたしは時間を作るわ」

「ゆ、ユリエ!?」

スタスタと気負いなく歩き、バーグさんの横に立つユリエ。

回復役が前に出てどうするんだよ!?

ユリエ!?

危ないから戻れって!

刺突剣を抜き放つと何かを唱える。


ユリエの心のように真っ白く輝いていた刺突剣が不気味に赤黒く濁る。

その剣を見るユリエが薄く笑い、チロリと赤い舌が唇を舐める。


「おほぉっ?」

背筋がゾクっとする。

そこから先は圧倒的だった。


「口が臭いのよ」

「ジロジロ見ないでよ気持ち悪い」

「トロトロノロノロ鬱陶しい」

「汚い手で触ろうとしないで」

まるで壁のように迫る猿どもをバーグさんが弾き、その隙をユリエが貫く。

「壁のシミでも相手にしといて」

「私の視界に入らないで、汚物が」

「ブヒブヒ鳴かないで、耳障りなの、豚」

剣を振るう度に猿に浴びせる罵声を聞いていると、俺っちの中にある俺っちも知らない扉が開く音が聞こえた。


「凍えて眠れ。 ブリザード」

ユリエの罵声に痺れた頭にルラちゃんの呟くような声が届く。

ヒヤリとした風が吹く。

「………」

全てが音を失う。


たった今、いきり立ち、咆哮を上げていた猿どもが突然眠ったように静かになる。


「ば、化け物……」

細くなった喉から自然と言葉が漏れた。



◆◆◆◆◆◆



「コイツらを持って帰ろう。大漁だ!」

「後でフリーズをかけなくていいのは手間が省けて楽、ございます」

「ホワイトブラッキーは良い値がつくぞ!」

「完品だしな」

「いいお土産が出来たわ」

呑気な会話の後、視線が俺に集まる。

「!?」


穴の中には大量の猿。

1匹1匹がモッチさんほどもある猿が何匹いるのかも分からない。

俺っちの背中はずっしりと重い。


みんなの背中にも大量の荷物。


余裕は無さそうだ。

任せろ!と言いたいが……

「……こ、こ、こんなにムリっす」


屈辱だっ!

荷物持ちが荷物を持ちきれないなんて言わされるなんてっ……!

これじゃあのゴミと同じと思われちまう……。


「うーん……確かに少し張り切り過ぎたかもしれないね」

「!!」

ハミ君が荷物を見渡して苦笑いを浮かべる。

「中身を見直して安価な物は捨ててしまおう。ホワイトブラッキーは高いからなるべく持って帰りたい。軽くして積み直せば、」

「確かにな。これ全部ってのは欲張りだ」

バーグさんも山のような荷物を降ろす。


「せっかくプロがいるんだ。荷物の積み方を教わるいい機会だ」

「そうね」

「知っといて損はない、ございます」

「俺は荷物持てないけどな」

蚊トンボサホォール……ございます」

「仕方ないだろ! 飛べなくなるんだから!」

「まあまあチュリには期待してないから大丈夫だよ」

「おい!ハーマス! その方が酷いだろ!」

「モチュの分は俺が持つから気にすんな」


「そんなわけで、ダニエル君、悪いけど教えてくれるかな?」

「あ、ああ任せるっすよ!」


なんだよ!

分かってんじゃねぇか!

へへっ。

俺っちが荷物の持ち方の真髄ってやつを、こいつらに教えてやるかな。

ったく調子くれやがって。

だけどまあ、こんだけ素直なら悪くない。

だいぶ稼げそうだし、これからはコイツらが稼いだ分も俺のもんだしな。


俺っちに尊敬の眼を向けるユリエには特に優しく教えてやった。



そして、俺っちは分かった。

何故コイツらがあの寄生虫を置いてるのか。


まともなヤツはこんなのに付き合えないからだ。

ゴミでも一緒にいれるヤツじゃなきゃダメだったんだろうな。


だが、もう心配ない。

これからは俺っちが『適切』って言葉をしっかり教えてやるからよ。




◆◆◆◆◆◆



……いや、もう真っ直ぐ帰れよ!

『アセーラ再び!』じゃねえんだよ!!

お前らはよぉ!!


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