第13話 寄生虫はおつかいしても寄生虫 4/6 (sideダン)

テリブルシルフを倒し少し歩いた先、さっきの釣りが効いたお陰で、モンスターの襲撃はぴたりと収まった。

これが狙いだったのだろう。

釣ったモンスターはサイクロンでズタボロだったし、テリブルシルフもぐちゃぐちゃだったので回収していない。

だから素材集めではなく、安全確保だったのだ。この先に目的の何かがあるのだろう。


混色の曲刀ファルカンシェル〗の皆様方は、モンスターも大体一撃で仕留めるので、死体も綺麗なことが多い。

ハーマス様は真っ二つだし、モチュリィア様やユリエ様は急所を一突きだ。

ルラ様は頭を吹き飛ばすことがあるけれど、スピアーとかファイヤーボールで急所を貫いて終わらせることの方が多い。

バーグ様は壊さないと進めない時以外はあまりご自分から攻撃はされない。皆様方を守ることを優先される。


「お腹が空いたな。粗大ゴミ、食事」

痛そうに足を引きずりながらも盾を構えて先行するベッソンさんにユネさんが指示を出す。

「あ、ああ…」

ベッソンさんは流石のタフネスぶりでごそごそと荷物から食事を取り出す。

傷が痛むのか、しかめっ面をしている。

「クローダかよ…こんグズ」

「おい! もっと気の利いたヤツはねぇのかよ、ボケェ!」

ベッソンさんが出した食事にエナさんが渋い顔をする。

「……無茶言うなよ」

ベッソンさんが出したのは、クローダという煎餅みたいな保存食だ。


神陽族パルフェの伝統的な主食で、雑穀とか薬草とかをぐずぐずに煮込んで、それを一度発酵させたのをカッチカチに乾燥させて作る。


日持ちがして、腹持ちもして、これだけで生きていけるすごい食事だ。

ハーマス様も出会ったばかりのころは、このクローダだけしか召し上がってなかった。


あんまり美味しくないという欠点はあるけれど、嵩張らないし、乱暴に扱っても割れるぐらいのクローダは冒険者の食事として一般的だ。


でも意地汚く食い意地が張ったオイラは、クローダがあまり好きではないというだけの理由で、皆様方にわがままを言って色々な食材を持ち込み、料理をさせて頂いている。

そして本当であれば、オイラみたいなのが皆様方と同じように食事なんて許されるわけがないのに、卑しいオイラは皆様方に作らせていただいた料理の端っことか、余った食材とかを味見とか毒見とか言い訳をしてちょこちょこつまみ食いさせて頂いている。

こんなのハンマーで脳天から叩き潰してしかるべき行いだけど、皆様方はとても優しいので、見て見ぬふりをして下さっている。

皆様方に出会えてオイラは本当に幸せ者だと思う。

なんとしても〖クロカサ〗を持ち帰らなければ。


しかし、今日は一人なのでオイラもクローダだ。

ただ、普通に売っているクローダはやっぱり苦手なので、自分で食べやすいように作ったクローダもどきだ。


皆さんが適当に座る。

ベッソンさんは立っている。本当に逞しい。

皆さんが渡されたクローダの匂いをかぐ。

顔をしかめる。

お前の方が臭いんだよ、と言われれば謝るしかないが、クローダは独特の匂いもする。

ため息をついてかじる。

顔をしかめる。


「ベッソン、いつまで食ってんだよ! ちゃんと見張っとけよ、あぁ!?」

「……ああ」

「てめぇは荷物もって歩いてるだけなんだかんな、ボケェ」

「……ああ」

「粗大ゴミがもう少しまともなら、こんなに苦労してなかった」

「……すまん」

「ポーションも出しとけよ、おらぁ!」

「……ああ」

「んとに気が利かねぇんだよ、こんグズが。くせえから綺麗にしとけ」

「……ああ」

そう言って、外した手甲を投げつける。

テリブルシルフをタコ殴りにして血がついている。

ベッソンさんは自分用のクローダをもそもそと飲み込むと、手甲の手入れを始めた。

バーグ様は体格通りの大食漢だけど、ベッソンさんは少食なんだろう。

皆さんと同じぐらいの大きさのしか食べてない。


しかし、6人分の荷物に、倒したモンスターの死体を追加で運びながら、先行して道を探し、モンスターの攻撃をわが身を呈して受け止める。数が多い時はその身を犠牲にして魔物をひきつける。その後はほとんど休まず食事の準備をし、ポーション類を準備したり、装備の点検も怠らない。

それでもまだ出来てないと言われるし、それを本人も承知している。


本当の〖荷物持ちガルネージヤ〗というのはこれぐらいできないといけないのだろう。



翻ってオイラだ。

移動中は大体、適当な鼻歌を歌いながらチョロチョロしている。

死体はモチュリィア様が素材に解体して下さって、しかもその回収は空間魔法でリュックへ直行だ。

戦闘が始まればコソコソと離れていて、何もしないのは申し訳ない気がするので役に立たない魔法をボソボソ使って働いている振りをする。

しかも、ドジ踏んで怪我をしてもユリエ様が治して下さる。

食事は好きなものを作らせて頂く事が多いし、不満があるのにぐっと飲み込んで、あまつさえありがとうとお礼まで言ってくださる。


装備の手入れだって、せっかくの皆様方の栄光の軌跡を、魔法で無かったことにしといて役に立たったつもりだ。


やっぱりオイラはただの荷物だ。


少しぐらい役に立てるように努力しないと。


オイラはたくさんあるクローダもどきを2つ取り出す。

チーズと燻製肉で作ったスパイシーなクローダもどきと、フルーツの香りがする甘いクローダもどきだ。

「ベッソンさん、食べるっすか?」

手甲を磨きながら、周囲を警戒するという難易度の高いことをするベッソンさんに近付いて声を掛ける。


「どぅわあぁあっ!?」


「ベッソン! うっせーぞ! オラァ!」

「粗大ゴミでも見張りぐらいは出来て然るべき」

……もの凄くびっくりさせてしまった。

オイラはほんとに役に立たない。


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