第16話 本物の荷物持ち 1/6 (sideモチュリィア)
「ワインは羽に残るよな〜」
「
〖マツィラ廃坑〗攻略のパーティーの翌日。
いつもなら飛ぶのだが、ワインを飲みすぎたせいで上手く飛べないので歩いている。
そうすると体の小さい俺、モチュリィアは歩くペースが遅い。
遅いと言われるのは心外だが、歩幅が小さいので仕方ない。
バーグがダラダラと歩いているのに俺は小走りになるのが、ちょっと腹が立つ。
そうこうするうちにパーティハウスが見えてくる。
宿ではなく、家を借りることが多い。最近はもう買い取ってしまうことの方が多いか。
安全だし、金に困ってる訳じゃないし、何より気が付いたらダンが掘り出し物件を探して来てくれている。
この家もかなりいい家だが、古くて曰く付きのせいで捨て値だったから買い取ったらしい。
害獣、害虫、害霊がびっしり住み着いていたが、その駆除ぐらい俺達には大した手間じゃないし、古いとかボロいとかはダンの前では新築と同義でしかない。
家に戻ると、ドアがピカピカに磨かれている。
ダンは先に帰っていたようだ。
そのまま、ドアを開けずに裏口に回る。
すると、裏口の傍にボロボロの毛布の塊が転がっていた。
「どうすれば中で休んでくれるんだろうね?」
「それを解決するより、Bランク遺跡のボスをソロ討伐の方が簡単な気がするわね」
「は!?」
「あ、起こしたな」
ダンが目を覚まし、いつも通り恐縮しきった感じでよく分からない理由の謝罪を繰り返す。
「大変申し訳ないんすが……」
一通りいつものやり取りが終わった後、ダンがおずおずと言った具合に話を切り出してきた。
「ギルドに?」
「はいっす。ハーマス様のサインがいるそうっす。ここに報告書は入ってるっすから、サインして頂ければ大丈夫かと思うっす」
そう言うと、ハーマスが見慣れない四角い棒みたいなのを渡される。
「なんだこれ?」
バーグが覗き込んで大きな手で小さな棒を摘む。
「おい、バーグ壊すなよ」
「魔道タイプのメモリースティックっす。その中に報告書のデータが入ってて、魔道タイプにそれを入れると、報告書が読めるっす」
「「「「「へぇー」」」」」
こんなのに報告書が?
「小さいっすけど、凄いっすよ! その中に報告書500枚分ぐらいの量が書けるっす」
「「「「「500!?」」」」」
「今、入ってるのは50枚分ぐらいですけど」
「へえー、そんなのあるのね」
ユリエが顔を近付けて棒を眺める。
絶対に触ろうとしない。
「魔道タイプは凄かったっすよ〜!」
事務的な事が苦手な俺たちにはよく分からないが、とにかく凄かったらしい。
魔道具が好きなルラだけがふんふんと頷いている。
「……てか、ダン、それはいいけどよ、おめぇ報告書っていつ作ったんだ?」
「「「「!!」」」」
「昨日っす。皆様方が子爵様の元でお務めをされている間に、作らせて頂いたっす」
「「「「「…………」」」」」
めんどくさい子爵は適当にあしらって、可愛いメイドさんとイチャイチャしながら高いワイン飲んでた間に、ダンは報告書を作っていたらしい。
全員が漏れなく気まずそうな顔になる。
「うん分かったありがとうすぐ行くよ今すぐにでも」
物凄く早口でハーマスが答える。
「僕達もね次どうするか昨日相談してたんだ。もちろんそれだけじゃないよファイアンテ商会の会頭さんにあいさつもしてたし子爵と報酬についての話し合いもしたし決してお酒飲んで喋って楽しかったななんてことだけじゃないんだ当たり前じゃないか、なあ?」
皆でブンブンと首を大きく縦に振る。
「それでこれからなんだけど」
勢いそのままにハーマスが話し続ける。
「僕達の実力も上がってきたと思うんだけどイマイチ分からないからさ今度はダン抜きの僕達だけでどこかに挑戦して実力を知ろうと思うんだダンがいると実力分かりにくいからさ」
そこまで一息に聞いた時、何故かキラキラした目で俺たちを見ていたダンから血の気が引く。
「やっぱり、お、オイラはもう要らないっすか……」
そのまま消え入るような声で呟く。
「え? なんで? あ! いや! そうか! そうなるか! いや! 違うんだ!」
相談したと言っても、Aランク遺跡攻略から帰って来てすぐだし、酒は飲んでるし、子爵の愚痴で盛り上がったし、で『とりあえずダン抜きで一度どこか手頃な場所に行ってみる』という程度のことしか決めてない。
細かな話が出来るわけがないのだ。
しかし、漕ぎ出した船だ。
何とか辿り着くしかない。
そこから皆でワイワイとフォローに入る。
入るが、相手はダンである。
前向きな意見はほとんど聞こえてない。
「おめぇには頼みてぇことがあるんだ!」
そんな中バーグの大声がダンに刺さった。
「俺たちが新しい穴に潜ってる間に、おめぇにはそっちをやって欲しいんだ! な?」
「そう、ございます!」
「そうね!」
「そうだな」
「そうなんだよ!」
皆が後馬に乗る。
絶対に落ちないという強い覚悟を持って。
『頼みたいこと』と聞いて、土気色をして、今にも吐き出しそうになっていたダンの頬が熱を帯びる。
さすがだ!バーグ!
「何をさせて頂くっすか?」
物凄く嬉しそうにダンが聞いてくる。
「えーっと、あの、ほら! そう! そうなんだ!」
しどろもどろと言うのがこれ程似合うこともなかろうというぐらいアタフタするハーマス。
俺も似たようなもんだが。
「僕達は、ほら、アレアレ! ちょっと前にさ、〖白の城跡〗で干し肉とリゾットにしてくれたあのキノコ……何て言ったっけ?」
「いや、オイ!」
「え? チュリ何?」
ダンの訝しげな目が俺たちを見る。
「ヨコバイシメジだな」
なんでもないように振る舞う。
「あ、そうそうヨクバリシメジ? あってる?」
「違う!」
「え?違う? まぁさ、あれが美味しかったからね。ダンにはぜひあの美味しかったヨクバイシメジ?を取ってきて欲しいんだ!」
「ヨコバイシメジだよ」
「え?違う? バーグ何?」
「ヨコバイシメジ!!」
「ヨコバイシメジ? それそれ」
「
「何?ルラ?」
「アレはただのヨコバイシメジじゃねえ、ございます」
「あれはヨコバイシメジじゃなかった?」
「黒かっただろ!」
「色が黒?」
「黒いのは珍しいんだよ!」
「黒いのは珍しい? 道理で美味しいと。まぁじゃあ別に黒じゃな?」
「いえ、ハーマス、あ、あのね?」
「え?ユリエどうしたの青い顔して?」
「アレは無理よ!無理!珍しいなんてものじゃないんだから!」
「ん?珍しいとかいうレベルじゃない!? え?うそ!? あ、それはダメ、あ、ダン? 待って! ダ」
やいのやいのとやり取りする俺たちを残してダンが目の前から消える。
「行っちまったな…」
「部屋の中から気配がするな。荷物作ってるぞ、こりゃ」
「ヤバい、ございます」
「よりにもよってクロカサ……」
「……そんなになの?」
「あ、居なくなった」
空前絶後の空間魔法の使い手であるダンが、動き出したらもう無理だ。
物理的に止める術が無い。
だって目の前から消えるんだもの。
「ま、ウチの規格外が動き出したんだ。俺達ものんびりってわけにゃいかねぇな」
バーグが緩く笑う。
「準備時間が無ぇとは言っても、Dら…E…いや、まあFか………Gぐらいならどうってことないだろ」
「まぁ、今しかないのは事実だね」
「もう少し休みたかった、ございます……」
こうして、Aランク遺跡攻略の翌日には動き出すことが決まった。
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