第15話 寄生虫はおつかいしても寄生虫 6/6(sideダン)
鬱蒼と生い茂る森の中。
フワフワと漂う霧。
「何にもいないっすね〜」
「ファティー!」
オイラの独り言に、肩に止まった白い鳥が機嫌良さそうに答える。
やっぱり1人より、2人の方が楽しい。
鳥にしか相手にされない辺りが、人として終わってるけど。
辺りにモンスターの気配はするけど、オイラが近付くと、コソコソと逃げている。
そんなに臭いんだろうか……。
植物型のモンスターも、息を殺したように普通の植物のフリをしていて、近付いても顔を逸らして見ないようにしている。
そんなに醜いんだろうか……。
「ファッティファティー」
「痛いっすよ! なんなんすか!」
鳥がオイラの耳に噛み付いてくる。
怒ると、しょんぼりしたように下を向く。
「腹でも減ってるんすか?」
「ファピィー!」
聞くと頷くように鳴く。
「何か厚かましいヤツっすね」
ゴソゴソと鞄からクローダを取り出す。
小魚と木の実のクローダで、正直ちょっと失敗したヤツだ。
小魚は下処理をしくじって生臭さが残ったし、木の実はローストを失敗して少し苦くなった。
捨てるのは勿体ないから持って来たけど、鳥にやるぶんには十分だろう。
「ほれ、有難く食うんすよ」
くちばしに持ってくると、ファビファビ鳴きながら、啄む。
「ファピョーール!」
一口啄むと、上を向いて高らかに鳴いて、バクバク食い始めた。
「旨くて食ってくれるなら有難いっすけど………てか、よく食うっすね!」
大人でも1枚食べればそこそこいいお腹になるクローダを、小さな体でみるみる平らげて行く。
「ファビィ!ファビィ!!」
もっと寄越せと言うようにまた耳に噛み付く。
「止めるっすよ!そんな事するヤツにはやらないっす!」
言うと、ピタリと止まって、しょんぼりしたように下を向く。
「いいっすか? 何かを頼む時は、乱暴なことはせずに丁寧に頼むっす! 分かったっすか?」
「ファティ」
こくんと頷く。
「ウンウン。鳥頭のくせに賢いっすね」
冠羽をそろりと撫でて、鞄から新しいクローダを取り出す。
フルーツを使ったほんのり甘いクローダだ。
これはなかなかよく出来ている。
「鳥には勿体ないっすけど、鶏肉やスパイスを食わせるのは体に悪そうっすからね。仕方ないっす」
そう言って嘴に近付ける。
「ファティ……ファ!?」
「どうしたっすか? 大丈夫っすか?」
一口啄んだところで、ピタッと固まる。
全身の白い羽毛がぶわっと逆立っている。
「不味いっすか? じゃあ止めとくっすよ」
しまおうとすると、慌てたようにクローダに噛み付いて、離さない。
「何すか? 食うんすか?」
「ファティ! ファティ!!」
「まあいいっすけど、食いすぎは良くないっすよ」
「ファッティッ!!」
一声鳴くなり、すごい勢いで食べ始めた。
◆◆◆◆◆◆
「ファティ。ファティ」
「どこ行くっすか〜?」
パタパタと軽快に飛ぶ白い鳥を追い掛ける。
相変わらずモンスターは逃げるし、〖クロカサ〗も見付からない。
歩きながら鞄にポイポイ放り込んだ採取物は結構な量になって来た。
白い鳥は足を縛っていた紐を解けとうるさかったので、解いたら嬉しそうに飛んでいる。
とりあえず逃げるつもりはないらしく、少し進んでは止まって待ち、少し進んでは止まって待ちを繰り返している。
逃げようとしたら、また地面に叩き落とす上に、次からは餌を上げないと強く言っている。
畜生だけあって、餌をくれる人には従順なようだ。
「なんか段々霧が濃くなってるっすね」
「ファティ!」
「離れすぎると、迷子になるっすよ〜。迷子になっても探さないっすから、餌は食えなくなるっすからね〜」
「ファッティー!」
一声鳴くと、木の枝に止まる。
追い付いて木の下に着くと、白い鳥が肩に降りてくる。
まるでここにいるのが当たり前のように止まってくる。
そして、少し先に拓けた場所が見える。
「ん? 何すか? ここは?」
そこに違和感を覚える。
「ファッティ?」
何をやっても人として最低限のレベルに届かないオイラだが、道にだけは人並みに強い。
それはほんの少しだけ空間魔法っぽいものを使えるからだ。
空間魔法を覚えることを勧めて下さったバーグ様には感謝しかない。
そんなオイラには、この木の下から一歩先の空間が、〖ブルームの森〗ではない事が分かる。
ここから、ちぎれているように見える。
霧が立ち込め、鬱蒼と生い茂る森なのは変わらない。
でもこの先、正確にはその拓けた場所はブルームの森ではない。
何か別の場所だ。
「……変な感じはするっすけど、危ない感じはしないっすね?」
「ファティ!」
鳥が肩を掴んで引っ張ろうとする。
「行ってみるんすか?」
とりあえず踏み入ってみる。
数本の木を躱し、奥へと進む。
「やっぱり何か違うっす……ねぇっ!?」
息を飲んで固まる。
その足元に広がるのは、光沢のある黒い絨毯。
「ま、まさか、こ、こ、こ、これ全部〖クロカサ〗っすか!?」
「ファティー!」
肩に止まった白い鳥がバサバサと羽ばたく。
すると、鼻腔を香ばしくくすぐる柔らかな風。
「あ、あ、あれは! アカサママツタケ!!」
紅色の傘に、軸には逆さまに付いたヒダ。
キノコの中で最も香りが良いと言われ、クロカサ以上の希少価値を誇る正に幻のキノコ。
「あ! あっちのはホウセキナメコ!」
超大金持ちが、全力で見栄を張る時には絶対に欠かせないと言われるスープの具。
キラキラと光る様から、別名は森の宝石。
「シャ、シャ、シャルボントリュフも見えるっすよ!」
岩の影にひょこっと頭を出しているのは、珍味中の珍味、あまりの珍しさに一口食べると寿命が1年縮むとまで言われるキノコ。
「な、な、何なんすか!? 何なんすか!? ここは!!??」
どれもこれも数株見つければ1年は遊んで暮らせると言われる超絶高級激レアキノコ。
それが競うように群生している。
「ファティ〜。ファッティ、ファティー!」
バサバサと何故か白い鳥が自慢げだ。
「初めて見たっすよ〜。ふぇ〜」
余りの光景に変な声が出る。
「ファティ?」
呆けるオイラの頭をつつかれる。
「は! そうっすね! キノコを採るっす」
空間魔法で採って傷むといけないので、手で採る。
目的のクロカサを採る。
5人分なので、こんなもん……もうちょっと貰うか。
せっかくなのでアカサママツタケも5に……6人…いやいやこれは多めの5人分。バーグ様はたくさん召し上がるから。
ホウセキナメコと、シャルボントリュフ、シロガネクリタケ、ホウオウモンショウゲンジ……あれやこれや。
「採れたっすね!」
全てオイラの分まで採ってしまうとは、なんて欲深い。
でも、まだたくさんあるから許して貰えるだろう。
そう思うオイラは自己中のクソ野郎だな、ホントに。
「ささっ! 用は済んだんで帰るっすよ!!」
「ファティ!?」
白い鳥が驚いたような声で鳴く。
「何すか? もう要るぶ……要る分は採れたんでだ大丈夫っすよ!? これは要る分を採ったんすからね!!」
厚かましく自分の分を採ったことが見抜かれたみたいで居心地が悪い。
「さ、さあ! ここはキノコの楽園っすから、邪魔しないように出るっすよ!!」
腕を振って大きな声を出して誤魔化す。
「ファッ!?」
鳥の首を掴んで、さっさとブルームの森の中に戻る。
「全く、オイラは必要な分しか採っ……あれっす?」
振り返るとさっきの広場が消えている。
あるのはブルームの森だ。
「夢でも見たっすか?」
しかし、鞄の中には、皆様方の分のキノコがちゃんと入っている。
少し多い気がするのは、たまたまに違いない。
「ダーーン?」
「この辺にいるのか、ございまーす?」
「ん?」
オイラを呼ぶ声がする。
ユリエ様とルラ様の声だ。
やっぱり夢でも見てるんだろうか?
「Eランクの森をソロでどこまで進んでんだよ、ダンは!」
「採取痕が無かったら俺でも分からん。採取痕以外全く形跡が無いからな」
「刀の斬れ味が上がったね。ダンは近いよ」
バーグ様と、ハーマス様と、モチュリィア様の声もする。
「お、オイラは、こ、こ、こ、ここっすよ〜」
返事をして駆け出す。
「あ!いた、ございます」
声の先には、のんびりとピクニックするように歩いてくる皆様方がいた。
Eランクの森を気負いなく歩く姿は、いっそ神々しい程だ。
オイラを見つけると、皆様方がブンブンと手を振る。
何が起こってるのかよく分からない。
よく分からないが……。
「御足労かけて、申し訳ないっす〜!!」
とりあえず、ジャンプアンドスライディング土下座をした。
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