荷物な荷物持ちは追い出されない 〜自分と世間からの評価は壊滅してるけど仲間からだけは実力を正しく評価されている規格外荷物持ち〜
石の上にも残念
第1話 無能なお荷物は見てるだけ 1/4 (sideダン)
「「ゴブュルビャアァアア!!」」
咆哮だけで石造りの部屋が揺れる。
危険度Aランクの遺跡【マツィラ廃坑】。
その遺跡のボス〖ドゥルベアズ〗。
一つの身体に雄と雌、一対の獅子の顔。
三本の長い尾は鋭い牙を持つ毒蛇。
その獅子を覆う光沢ある鱗。
優に人の5倍はある巨躯。
異形の魔獣は、神話にも語られる存在。
それに対峙するのは5つの人影。
比べれば余りにも小さい。
しかし、その顔は不敵に笑っている。
苛立ったように双頭の獅子が脚を振るう。
『俺は神だ! 平伏せ!』とでも言うように。
大木のような脚と、凶悪な爪。
オイラなら100人まとまっても埃のように吹き飛ばされ、跡形もなくなる自信がある。
しかし、その威容の前に立ち塞がるのはオイラの倍ほどの体躯を持ち、オイラの1万倍ぐらい逞しい大丈夫。
鈍く黒光りするフルプレートアーマーに身を包み、身の丈を超えるやはり黒光りする巨大な盾。
〖
腰を落とし両手で盾を構えるバーグ様の身体から闇が吹き出す。
――ガィイイイーン!!――
盾が爪を受け止める。
「ぬおっ!!」
衝撃で石畳が割れ、足が石畳にめり込む。
しかし、バーグ様は小揺るぎすらしない。
「うぉりゃあ!」
盾をかちあげ受け止めた脚を弾く。
獅子の巨体が浮く。
信じられない剛力。
「どりゃあ!」
その隙とも言えぬ瞬きすら許されない刹那に盾から持ち替えた戦鎚が振り下ろされる。
――ズコォーーン!!――
しかし、すんでのところで獅子は身を翻し鎚を躱す。
神にすら匹敵する化け物ですら躱さなければならない必殺の一撃。
空を切った鎚が地面に大穴を開ける。
「くそ! でけぇクセにはえぇぞ!」
戦鎚を引き抜くと、再び盾を構える。
「消し炭になりくされぇ、ございます!」
バーグ様が僅かにズレたその空間を抉るように、10個の青い炎の塊が疾る。
魔法の名前はファイアーボール。
火魔法の使い手ならば誰もが使える
しかし、その威力は
火魔法の威力は炎の色が示す。
赤に始まり、オレンジ、黄色、緑、そして青。
ファイアーボールで青い炎が出せるのは、世界広しと言えども、〖
ヒラヒラとフリルのたくさんついた赤いドレス。
高いヒールの黒いブーツ。
白い首を飾る赤いスツール。
赤い宝石のついた黒いシルクハット。
その手には顔よりも大きな赤い宝石のついた杖を持っている。
およそ魔境の遺跡に相応しくない物見遊山のお嬢様のような可憐な少女が赤い燐光を纏っている。
「避けんなてめぇ、ございます!」
獅子が空中で跳ねるという信じられない動きで青い炎を躱す。
ドゥルベアズに普通の魔法は効かない。
しかし、ルラ様の魔法は神にも届く。
故に凶悪な魔獣ですら逃げる。
「先ずは動きを縛る! サポートしろ!」
言うなり飛び出す小さな影は、バーグ様の腕ほどの大きさしかない。
背中の羽が震えると、身体から緑の光が溢れ――
その姿が掻き消える。
オイラの節穴では目で追うことすら出来ない、高速移動。
〖
いつの間にやら獅子の背後に回ると、白く輝く鎖を投げ付ける。
鎖は生き物のように動き、獅子の左後脚に絡みつく。
「よし!」
伝説の魔獣すらもその鎖の束縛からは逃れられない。
その時、獅子の尾を成す三匹の蛇がモチュリィア様に襲いかかり、3つの口が噛みつきにかかる。
「ぐえぇ!」
目にも止まらぬ速さで蛇を躱したモチュリィア様。
3つの口がウスノロなオイラに噛み付く。
肉を溶かす猛毒が首から。
骨を腐らせる猛毒が左胸から。
精神を蝕む猛毒が腹から。
3種類の猛毒がオイラの身体の中に流れ込む。
「痛いっす~、痛いっすよ~」
みっともなく泣きわめくオイラ。
「ダンを離しくさらせぇ、ございます!」
――ダダダンッ!――
黒い疾風が蛇を撃つ。
火魔法に特化した赤いドレスから、風魔法用の白いドレスに着替えたルラ様が透明な宝石のついた杖を掲げる。
カマイタチの3連撃。
不可視というメリットを捨てる代わりに威力を増した鋭刃が蛇の首をしたたかに打ち据える。
硬い鱗に阻まれ、切り裂くことは出来なかったが、その衝撃で蛇が揺れる。
「ぎゃあ〜」
その勢いで、無様に吹っ飛ばされるオイラ。
食い込んだ牙がしょぼいオイラの身体を引きちぎる。
「うわ~、体が食いちぎられたっす〜。毒蛇ダイエットでスリムに大変身しちゃったっす〜」
「ルフィール!」
戦場に響く凛とした声。
するとダラダラとだらしなく血を流しながら、ビチビチと情けなくはね回るオイラを清浄な光が包む。
「あ〜癒されるっす〜」
みるみるうちに出血が止まり、傷が塞がる。
傷だけでなく、オイラの醜い心まで洗われるようだ。
背が高く、スラリと長い手足。
黒目、黒髪の端麗な顔立ち。
白いハーフプレートに身を包み、宝玉のついた刺突剣を佩いた
〖
「チュリの鎖が切れる前に決めるぞ!」
その声は希望。
神に等しい魔獣を前にして、決して揺るがない自信。
その自信を超える実力。
金色の短髪、緑の瞳。
宝玉を散りばめた威厳に満ちた軽鎧に包まれた引き締まった身体。
2つ名は〖
薄く反りの入った宝刀に手をかける――。
――一閃。
「「ドィギィジャアァアア!!」」
軌跡すら置き去りにするハーマス様の極技〖
神速の一振は、間合いすら凌駕し全てを断ち切る。
雄獅子の左目から血が吹き出る。
「行くぞ!!」
初めて与えたダメージに喜ぶことも無く、冷静に仲間に指示を出す。
そして、混戦が始まった。
バーグ様の剛腕が唸り、ルラ様の魔法が火を吹き、モチュリィア様の弓が唸り、ユリエ様が獅子の鱗を貫く。
そして――
「トドメだぁ!!」
天より舞い降りるハーマス様が、大上段から宝刀を振り下ろす。
宝刀を振り下ろし、跪いた残心で佇むハーマス様。
「「グギャアァアア!!」」
獅子の牙がハーマス様に迫る。
「「うぎゃ?」」
しかし、獅子が縦に真っ二つに分かれ――
――ズーーン!!――
倒れ伏した。
余りに鋭いその一振には、斬られたことにすら気付かないと言われるハーマス様の最強技〖
現役最強と名高い冒険者パーティ【
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