第10話 寄生虫はおつかいしても寄生虫 1/6 (sideダン)

「緊張するっすね~」

オイラが来ているのは〖ブルームの森〗。

危険度Fランクの危険な森だ。


冒険者の方が活動する、遺跡や森、洞窟には危険度が設定されている。

設定しているのは冒険者ギルドで、最高のAランクを筆頭に、一番下がJランクの10段階評価。

H〜Jが初心者さん、E〜Gが中堅者さん、BからDが上級者さん向けと別れてる。


〖ブルームの森〗はFランク。

レベル的には中堅の冒険者さんが出入りするレベル帯だ。


そんな高難易度なこの森に、オイラはまさかの一人で来ている。

混色の曲刀ファルカンシェル〗の皆様とは別行動だ。

はっきり言って無茶だ。

オイラなんて、そこらへんで死にかけてる野良犬にも勝てない程度なのに、こんな危険なモンスターがうじゃうじゃいるような森に入ったら、あっという間に餌だ。

いや、オイラなんて食べたらお腹壊すから、ただ殺されるだけだ。


しかし!

オイラは行かなければならない。

なぜなら〖混色の曲刀〗の皆様方にこの森に生えるキノコ〖ヨコバイシメジ〗を取って来るよう仰せつかったからだ。


ハーマス様の言葉を思い出す。

『えーっと、あの、ほら! そう! そうなんだ! 僕達は、ほら、アレアレ! ちょっと前にさ、〖白の城跡〗で干し肉とリゾットにしてくれたあのキノコ……何て言ったっけ? え?チュリ何? あ、そうそうヨクバリシメジ? あってる? え?違う? まぁさ、あれが美味しかったからね。ダンにはぜひあの美味しかったヨクバイシメジ?を取ってきて欲しいんだ! え?違う? バーグ何? ヨコバイシメジ? それそれ何?ルラ? あれはヨコバイシメジじゃなかった? 色が黒? 黒いのは珍しい? 道理で美味しいと。まぁじゃあ別に黒じゃな?え?ユリエどうしたの青い顔して? ん?珍しいとかいうレベルじゃない!? え?うそ!? あ、それはダメ、あ、ダン? 待って! ダ……」


何か最後のほうに無理はするななどと温かい言葉をかけてくださっていたような気がしたが、皆様方から頼まれ事をされたことに舞い上がったオイラは飛び出してしまった。

いや、最後何か仰ってたような気がする?

話すら聞けないこんな耳そぎ落としてしまった方がいい。

まあ、皆様方のご命令が聞けないオイラなんて生きてる価値がないので、キノコを手に入れて役に立つか、モンスターに殺されて死ぬかの二択だ。


確かにヨコバイシメジというだけであれば大抵の森に生えている。そんなに珍しいキノコではない。

有名なところではIランクのその名の通り〖キノコの森〗にある。

あそこなら入って五分ぐらいで採れると思う。


しかし!

皆様方がご所望されたのはここ〖ブルームの森〗のヨコバイシメジだ。

オイラが〖白の城跡〗でアグーブルの干し肉とリゾットにしたのはここ〖ブルームの森〗でしか採れないヨコバイシメジだった。


同じヨコバイシメジでも採る場所によって味が変わる。

一番美味しいと言われるのがここ〖ブルームの森〗のヨコバイシメジだ。

ブルームの森にいる樹木型のモンスター〖アヴェリヘェル〗、こいつの枯れ木死体に生えるヨコバイシメジが絶品だ。


普通のヨコバイシメジが白い軸に茶色い笠なのに対し、アヴェリヘェルに生えるのは黒い軸に黒い笠。

市場ではその見た目から〖クロカサ〗の名前で呼ばれる。

普通のヨコバイシメジがどこでも買えるのに対し、クロカサは特別な免状を与えられた場所以外で取引されることがないし、そもそも取引されることが珍しい。

採取した物の買取なんかをしてくれる大店の店主さんが、『【混色の曲刀ファルカンシェル】の皆様にはいつも、お世話になっているので、くれぐれも【混色の曲刀ファルカンシェル】の皆様に。間違ってもお前にじゃないぞ』と分けてくれたのだ。



森の入口にある冒険者ギルドの関連施設で森に入る手続きを済ませ、入口に立つ。


『ずおおおーん』という効果音が聞こえそうな深い森。

ブルームカビという名前の由来になっているモヤモヤした不思議な霧が不気味さを更に醸している。


「やっぱり怖いっすね〜」

危険な森の迫力に改めて息を飲む。

いつもの巨大なリュックサックは背負っていない。

あれは『混色の曲刀』の皆様方の物で、オイラのものではない。

今日は、自分で買った小ぶりなウェストポーチタイプのマジックバックをつけている。


小ぶりでもマジックバックなので、キノコの200kgや300kgは充分に入る。


「さあ! 死ぬか殺されるかの冒険のた「どけや!おらぁ!」

「!? すいませんっす!!」

拳を握り気合いを入れようとした所で、後ろから声を掛けられる。


存在が邪魔だったらしい。


「なんだてめぇ?おらぁ!」

「辛気臭ェ面ァしてんなァ!?あぁっ!?」

「死んどけや!ボケェ!」

「口がくせえんだよ!こんタァコ」

「ゴミが目障り」

ぐうの音も出ない正論の方を見ると、5人の女性がいた。


青いほどに白い肌。

一目見て分かる。

不民族ナルトメア

綺麗な人、可愛い人、かっこいい人、凛々しい人、賢そうな人。


「なんでいきなり喧嘩売ってんだよ!!邪魔でも何でもないだろ! この人は道の端っこに立ってるのに!」

そう言ったのは、背丈はオイラの倍、横幅は4倍ぐらいありそうな巨人族ディグマルの男性。

その大きな体に相応しい大きなリュックサックを背負い、更にそのリュックサックにはそれを覆う程の盾が括り付けられている。


「ベッソン、てめぇ何口答えしてんだ!? おらぁ!」

綺麗な人がベッソンさんを殴る。

それを皮切りに、他の皆さんもベッソンさんを囲んで殴る蹴るの雨あられを降らせる。


「それで君は、1人かい?」

一通り殴って気が済んだ皆さんを横目にベッソンさんがいかにも優しい声を掛けてくれる。

筋肉の塊のようなベッソンさんは大して痛くないようだ。


「俺たちは〖5人の戦姫ペンティエメルジェ〗って言う痛っ」

「粗大ゴミが名乗るな」

賢そうな人が手に持った杖で後ろからベッソンさんの膝裏を叩いた。

賢そうな人は杖にも服にも青い宝石がたくさん付いている。


本気のルラ様程では無いけれど。


「私達は〖5人の戦姫ペンティエメルジェ〗。ゴミでも知っておくべき名前」

そう言って胸を張る。


「良かったら、一緒に行かないかい?」

そう言って巨人族らしい厳しい顔に人懐っこい笑顔を浮かべた。


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