第12話 寄生虫はおつかいしても寄生虫 3/6 (sideダン)

「何? この埃?」

ユネさんが勇ましく杖を振るう。しかし、テリブルシルフはふらりふらりと躱してしまう。

「おらぁ! ってクソがァ!」

ハミさんの拳が空を切る。

「ベッソン! ちゃんと押さえろ! こんグズ!」

モネさんが怒鳴る。

「押さえてるだろ!」

7匹現れたテリブルシルフの残り6匹を必死に盾で押さえ、棒を振り回してこっちに来ないようにしているベッソンさん。


ふらふらと宙を舞っているのはこの森ではレアなモンスター、テリブルシルフ。

精霊がモンスター化したテリブル達は魔法の効きが悪い。

特にテリブルシルフは魔法に強い。

しかも空を自在に飛び回るので、攻撃が当たりにくい。


魔法が主体で、リーチが短かい〖5人の戦姫〗の皆さんとは相性が悪い気がする。

全てに相性が悪いオイラに言われるのは不満だろうけど。


ベッソンさんを囲むテリブルシルフたちの目が怪しく光る。

「ぐわぁ!?」


足元から突風が吹き上がり、ベッソンさんの体が浮き上がる。

「どぅわっ!! ぐべぇ! ぐぼぉ!」

そこにシルフが一斉に体当たりをかけてくる。


ここらのテリブルシルフは使える魔法のレベルが低いようで、魔法は補助、攻撃は体当たりらしい。

生活魔法すらまともに使えないのがオイラだけどね。


Bランクぐらいの所のになると、ブレードとかスピアーとかの攻撃魔法を使ってくるから当たると痛い。

風魔法は目に見えないから避けにくいし。

見えててもオイラには避けられないけどね!



「粗大ゴミ! 魔力ポーション出せ! 早く!」

ユネさんはさっきのブリザードでそこそこ魔力を使ったらしい。

自分が持っていたポーションだけでは足りなかったようで、ベッソンさんに追加を頼んでいる。


でも、ベッソンさんはテリブルシルフに袋叩きにされていて、とてもポーションが出せそうにない。


『手伝っていいんすかね?』

オイラもポーションは持っている。

渡すのは簡単だ。

バカなオイラでもそれぐらいはできる。

ただ『何もするな』と言われているので、どうしたものか迷う。


皆様方の時は、手元に出せばサッとカッコよく飲んで下さるけど、普通はいきなり目の前にポーションが現れたら迷うだろう。

なので直接渡すためにちょこちょことユネさんに近付いていく。

「ユネさん、ポーションいるっすか?」

ポーションを手に声をかける。

「うわぁああ!!」

「!?」

もの凄くビックリさせてしまった。


そりゃあそうか。

いきなり目の前に生理的嫌悪感を引き起こす気持ち悪い有機物が現れたら大抵はビックリするし、嫌な気持ちになる。


「すみませんっす。ポーションっすよ」

そのままだと気持ち悪いと思うので、手袋を嵌めて、ポーションの瓶を綺麗に拭いて渡す。


「全っ然当たんねぇぞ! あぁ!?」

ユネさんがポーションを受け取ったところで後ろからヤイさんの怒鳴り声が聞こえる。


後ろを見れば、砂礫を拳にまとったハミさん達がブンブン腕を振り回すけどテリブルシルフはひょいひょいと躱している。


『テリブルシルフは』

モチュリィア様の言葉を思い出す。

以前、かなり大規模なテリブルシルフの巣に入ってしまった時のことだった。

『実は目が悪い。その代わり、風と魔力を感じる力に優れている。だから、弓や槍、刺突剣などの音が静かで速度の早い武器で貫く方がいい。魔法は当てるのがむずか『アハハハハハッーー! 首チョンパ、超楽しい、ございます!!』

言い掛けたモチュリィア様をルラ様の高笑いが遮る。

『コバエは家に帰ってママのクソにたかっとけ、ございまーす!』

ルラ様は言いながら、テリブルシルフの群れに中級の風魔法・スピアーをビュンビュン発射する。

見えないが、スピアーはテリブルシルフの首へ直撃しているらしく、次々と胴と首を切り離している。


『テメェラごときじゃ、射的の的にもなりゃしねんだよ、このザコどもがぁ、ございまーーす!!』

新しく手に入れた風魔法の威力を上げるドレスと杖を装備して、ご満悦だった。

最初は『思ったほどじゃなかった…ございます…』としょんぼりされていたけど、体に馴染んできたのか期待通りの効果を発揮するようになったらしい。

楽しそうで何よりだと思う。


『……普通はな…』

遠い目をしたモチュリィア様がその光景を見ながら弓に矢を3本番えて放つ。

3本の矢は一本も過たず、3匹のテリブルシルフの眉間を貫いた。

『おい、ルラ! 俺の分も残しとけ!』

言うなり飛び出して行かれた。

『ま、楽でいいんじゃないか?』

ハーマス様はすでに刀を鞘に納めて腕を組んでおられた。



殴る時だけ魔法を纏わせるとかすれば当たりやすいのかもしれないけれど、魔法を纏った拳をブンブン振り回している。

手伝うというのもおこがましいながら、このままだと疲れてしまいそうだ。

向こうではベッソンさんが6匹のテリブルシルフにボコボコにされいているし。


「ぎ?」

「おらぁ!!」

「ぎゅえっ!?」

ハミさんの拳を躱そうとしたテリブルシルフを、空間魔法で拳の前に移動させる。

テリブルシルフの顔面に土魔法を纏ったハミさんの拳が当たる。

「今だ、こんボケェ!!」

動きが止まったテリブルシルフを5人が囲んでボコボコにする。


「トドメだ! あぁっ!?」

ヤイさんが泥を纏ったブーツでテリブルシルフの腹をガンガンと踏みつけると、テリブルシルフは動かなくなった。


目の前に現れると驚かせてしまうと思うので、ふらふらと自然に近づいてきたように見える感じで、ベッソンさんにたかっているテリブルシルフを5人の方へと運ぶ。


こうして1匹を5人でボコボコにして仕留め、仕留めたら新しい1匹を運ぶ、を繰り返すこと6度、テリブルシルフがようやっと片付いた。


ベッソンさんの盾はべこべこになっているし、顔も腫れている。

多分、身体中痣だらけなんじゃないだろうか?


「何とか……何とかなったな…」

ベッソンさんが仰向けにひっくり返ったまま、そう呟いた。


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