リベリオン・イン・ザ・ダークネス

Twitligher

第一部

第1話 一筋の光

 平凡な毎日。人々は皆、各々すべきことを全うして日々を過ごしている。


 この俺、大学一年生の月見里やまなし望兎みとも何気ない日常を過ごしていた。


 両親は高校卒業の前に交通事故で他界し、現在は一人暮らし。親が残した遺産で大学生活を送る気でいたが、そんな大金がある訳もなく。


 特に学びたいことも無いし友達もいないし、行く意味さえ分からなくなっていた俺は夏休みを境に大学を中退した。




 親しい友人もいなければ女性関係なんて以ての外。「月見里やまなし」って結構珍しい苗字だと思うけど、後世には継げられそうもない。すまないな先祖共。


 そんな終わってる人間関係だけれども成績は良い方だと思っていて、とりあえず偏差値は七十五程度だろうか。高校の頃は学年一位ばっかりでした!


 でも働きたいとも思わないしこのままダラダラと自堕落なニート生活をして余生を過ごそう。なんていう戯言ざれごとが通用する甘い世の中ではない。バイトします。はい。


 なんとなく通帳を開くと記されている残金は三十万。遺産込みで三十万。昔は五百円玉が大金に感じたのに今では三十万がはした金に感じちゃうんだもんなぁ。なんというか。ある意味感慨深いというか。


「頼むよ月見里くん、ホールは店の顔なんだからもうちょっと接客頑張ってくんないと」

「すんません」


 手軽なバイトを探して適当に飲食店に応募して受かったのは良いものの、人生において人間との関わりを極力避けてきたこの俺には不向きすぎるバイトだなとつくづく思う。




 帰り道。暗くなったはずなのにやけに明るい街を歩いて駅へ向かう。酔っ払ってる人もいればイチャイチャしてる輩もいる。


 別に俺はリア充爆発しろとは思わないけどなるべく見えないところでやっていただきたい。無意識に蔑んだ目をしながら。


「コンビニ寄って帰ろ」


 これでも節約のために自炊してるんでね。




 都内家賃七万のアパート。1Kの七畳。カーテンもない窓からベッドに向かって朝日が直接降り注ぐ。昼まで寝ていたい体に日光が当たることで強制的に脳が目を覚まさせる。変な体勢で寝ていたせいか肩こりが凄い。


「そろそろ二十肩かな……」


 冗談だけど、割と本気で二十代でも四十肩になるみたいだから気をつけてね。そんなことを呟きながら何となく枕元のスマホに手を伸ばして充電器を抜く。


 時刻は朝の八時半。通知を見ても友人からの連絡など無い。パッと目に入ったのはゲームアプリのログインボーナスの通知とSNSの通知、そしてニュースアプリの通知の三つと好きなアニメのヒロインの待受画面。そのニュースアプリの通知を長押しで拡大して記事を見てみる。


『【速報】国が秘密裏に制作していた機械兵器「遊徒ゆうと」が何者かによって盗難』


 俺は見出しを流し見した後、上へスワイプした。

 その瞬間、画面上部に新たなSNSの通知が登場。その見出しは新作iPhone発売というさっきとは雲泥の差で興味を引く通知じゃございませんか。


 そう、この俺月見里望兎は自分でパソコン作っちゃうくらいには機械オタク。まぁパソコン作る人は結構いると思うけど。気分は高揚。寂しげな部屋で一人舞い上がっている途中で思い出す。


「あ、そういや金ないや……」


 俺は振り返りふかふかのベッドに向かって手の中にある古い機種のスマホを叩き付けた。




 夕方。いつも通り窓の外の夕焼け空とだだっ広い都会を眺めながら電車に揺られてバイト先へと向かう。今日の出勤は苦手な店長がいるから憂鬱です。


「何回言ったら分かるかなぁ。人手も足りてないからもっと頑張ってくんないとさぁ。こっちも給料渡してんだから」

「すんません」


 また怒られた。てかバイトして稼いで、生活費に使ってまた働いて。何のために働いてるんだろう。世の中のみんなは凄いなと改めて思う。


 早く働かなくてもお金が貰える時代来ないかなぁ。来ないか。本当に人生が退屈で最近特に何のために生きてるのか分からなくなっている。もう死んでもいいんじゃないかとさえ思ってしまう。まぁ自殺だけはしたくないけども。明日もバイトだ。帰って寝よ。




 翌日。天気は曇り。目を擦りながら起き上がり時刻を確認すると朝の十一時。今日のバイトは朝の十時から。


 ん? 十時!? そういや入れなくなった人の代わりに入るって言ったんだった。マズい寝坊した。とりあえず連絡を。スマホを付けて連絡しようとするとニュースアプリの通知がピロン。


『【速報】盗まれた機械兵器「遊徒」が都内全域にて暴走。なるべく外出を避け、万が一目にした場合は速やかに避難すること』


 そんなこと知らんわ。警察がどうにかしろ。とりあえず急いでバイト先へ向かう。


 電車の中ではスーツ姿のサラリーマンたちが世間話に機械兵器の話題を挙げている。しかしあまり危機感を感じていない様子で俺と同様警察にお任せのようだ。つくづくこの国の人間は危機感があまり無いなと自分を含めて思う。


 そんな世間話に耳を傾けていると駅に到着。急いで下りてバイト先へ走る。駅を出て街が視界に入った瞬間。


「なんだよこれ……」


 そこには現実とは思えないほどの地獄絵図が広がっていた。ビルから火が吹き出し、朝より晴れたはずの空を黒煙が支配している。信号や電柱はへし折れ、道路上の車は全て原型を留めていない。


 人々の悲鳴が飛び交う中、一際目を引いたのは堂々と徘徊している謎の機械。大きさは推定三メートル程。人型で腕からビームや火炎放射を放ち、明らかに人を狙っている。夢じゃないのかと錯覚してしまう。


 そう。何気ない当たり前の日常だったこの世界はある日を境にして一瞬で混沌の暗闇と化した。


「逃げなきゃ……」


 そう思った時、右の方から集団が逃げてくる。何かに追われているのか? 巻き込まれないように自分も逃げようと振り返ろうとした時。


「邪魔よ!」


 走ってきた先頭にいるおばちゃんのタックルを食らい、その場に倒れる。ふざけんなよおばさん、せめて避けて行けよ。


 立ち上がろうとした時、背後に嫌な気配を感じる。黒煙の隙間を掻い潜って降り注がれた日光が地面に俺の背後にいる何かのシルエットを映し出す。


 つくづく日光には絶望させられる。反射的に振り返るとそこには先程遠目に見ていた巨体の機械兵器が俺を見下ろしている。怯えながら本能的に逃げなきゃと思っていた時にふと記憶が頭を過ぎる。


『何のために働いてるんだろう』

『もう死んでもいいんじゃないかとさえ思ってしまう』

『すまないな先祖共』


 もういっか。もしかしたらこんな生活してるより死んだほうが幸せになれるのかも。もしかしたら異世界に転生しちゃうなんてことがあるのかも。元々いつ死んでもいいやって思っていた。なら。


 俺は覚悟を決めて目を閉じる。その俺に機械兵器の腕にある放射口が向けられる。さよなら月見里望兎。そして。


 ──バゴーン。


 鈍い音が鳴り響いた。俺は死んだのだろうか。あまり実感がない。意外と死とはこんな感じなのかと思ったが妙だ。風を感じる。俺はそっと目を開く。


 生きてる。そして目の前には粉々になって倒れている機械兵器。そして俺と鉄くずの間に立っている黒のスウェットパンツ越しでも分かる脚線美。


 見上げるとそこには黒のキャップにサングラス。艶やかな黒髪はキャップの後ろの穴から一つに纏められ、さらっと背中まで伸びており風に靡いている。両耳にはイカついピアスをたくさん付け、上は黒のスポブラのみというワイルドな服装にショットガンを携えた女性が立っていた。


 女性は唖然としている俺に肩越しに振り返り、余裕そうに口角を上げながら一言放った。


「ご無事かな? 少年」

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