第25話 ホームセンター
俺とアリスはホームセンターに居た男性に案内されながら防寒具の調達へと向かう。その時に少し交流を交わす。
「あなた方は何故出歩いているんですか?」
「ちょっと目的が各々ありまして、そのついでにあの機械兵器を壊すっていう名目で旅してるんですよ」
「なかなかロックですね」
「ロック? 鍵? それとも石かしら?」
「うーんと、まぁ反社会的でかっこいいみたいな」
「ふーん、よく分からないわね」
「すみません……」
お兄さん困らせてんじゃないよ。でも確かにロックですねってどういう意味か説明しろって言われるとちょっとムズいかも。
「お兄さんはおいくつなんですか?」
「僕は19です」
「おぉ、俺もです。同い年ですね」
「そうなんですか! かなり落ち着いてらっしゃるので年上かと思ってました」
「まぁ俺がしっかりしてないとマズいことが多くてですね……」
毎日大変なんですよ。保護者ってのは中々しんどいです。
「ところで貴方の名前は?」
「あ、僕は
「
「アリス・レビリアよ。で、あなた達はいつまでこんな薄暗いところに引き籠っているつもりなの?」
「……分かりません。いつか情勢が落ち着くまで、ですかね……」
落ち着くまで、か。そうだよな。普通そういう考えになるよな。
■
「では誰があの機械兵器を止めるんだい?」
■
あの時の菲針さんの言葉がやけに刺さって今まで付いて来てるんだよな。菲針さんに出会っていなくて、且つ俺があの時逃げ延びていたら。俺もここに居る一人になっていたのかもしれない。なんだかあの時、死を選んで正解だったような気もしてくる。じゃなきゃ菲針さんにもアリスにも逢えていないのだ。
「であれば私たちが落ち着かせてみせよう」
「え?」
「私たちが遊徒を倒し、再びこの世界に平和を取り戻し、君たちを元の生活へと戻してやる。それが私たちが出歩く理由だ」
そう。誰かがやらなければこの状況は変わらない。だからこそ俺たちが遊徒を仕留めるんだ。
そんなことを考えていると、無事に防寒具を見つけた。
「手袋にニット帽、マフラーにコート。耳当てもいいな」
「ねぇねぇ見て見て! このニット帽、ポンポンが付いてるわよ! それに雪だるまの刺繍があって、これならいつでもゆきまるちゃんと一緒だわ!」
アリスはたまたま見つけたニット帽を気に入って燥いでいる。三人分の防寒具をそれなりに入手した俺たちは先程菲針さんと別れた場所へと戻る。アリスはお気に召すニット帽を見つけたせいかスキップで帰っていく。さっきのかっこいい一面とは真逆だな。
「ねぇ望兎! これ変身できるベルトらしいわよ!」
急に振り返ってきたアリスが目を輝かせながら男児向け特撮作品の変身ベルトのおもちゃの箱を手に持って駆け寄ってくる。
「これを使えばこのヒーローに変身出来るみたいなの!」
「へぇ。凄いね」
「やってみてもいい? 友樹!」
「え、あぁあのそれは──」
「友樹君お黙り。アリス、俺が許可するからやってみるといいよ」
「ほんと! やってみるわ!」
これはカップ焼きそばマヨネーズビームのデジャヴですな。
「え望兎君あれって」
「いいのいいの。アリスはヒーローに憧れてるんだから」
「それ解決案になってる?」
アリスは箱を開封すると、説明書に目を通すことなく、ガチャガチャと組み立てて早速腰に巻く。どうやらベルトに好きな組み合わせでアイテムを差し込むと、そのタイプに変身出来るヒーローらしい。こういう収集要素入れてこられると集めたくなっちゃうんだよな。
「行くぞ望兎! とくと見ておけ!」
「あいよ」
「光の戦士となり、この世界に平和をもたらす正義のヒーロー。ついに成れるのね……」
アリスはキレッキレのポージングを決めた後に迫真に叫ぶ。
「変身!」
『ライトニングエレメント! レッツゴー! ライト! シャイニング! 勝利の光はすぐそこに!』
するとベルトから劇中で流れるのであろう変身シーンで鳴る変身音と、ヒーローの決め台詞が響く。アリスは、アリスのままだった。
「なんだこの不良品は! まったく変身出来んではないか! おもちゃか!」
「おもちゃだよ」
「こんなもので世の男児たちは満足しているのか? 物足りなすぎるだろ! もっと開発してちゃんとスーツを見に纏えるようにしろよ!」
「無理だろ。出来ても誰も買えねぇよ」
アリス様のテンションはいつも忙しないです。激おこプンプン丸のお嬢様を引きずりながらようやく戻ってくるとまだ菲針さんは帰ってきていないようだった。こいつの機嫌直すためにもちょっと料理するか。
俺はリュックからいつもの料理セットを取り出して室内ではあるが、天井高いし上の方の窓も開いてるので調理する。みんなでつつけて温まれると言ったらあれでしょ。
「はい、豚汁出来ました。皆さん食べてください」
「「おぉ〜!」」
流石ホームセンターであるだけあって、割り箸や紙皿などは揃っている。みんなで分け合って食べる。十数人も居たら遊徒じゃなくても体温感じれるし暖かい。
「君たちは救世主だよ。なんせこのところずっと保存食に頼っていてね。今までの当たり前の生活が幸せだったことに気づいたよ」
「早く元の生活に戻れると良いですね」
「あぁ」
「う〜ん! 望兎! このThe庶民的なスープも中々いけるな! この肉が特に美味い!」
珍しくお嬢様からも好評で、アリスのテンションはすぐに元通りとなった。すると。
「なーんーだーかー美味そうな匂いがするじゃないかあああ!」
遠くから物凄いスピードで走ってくる脳筋姐さんが居た。
「はいはい菲針さんのもあるから。案内人の方もどうぞ」
「うん! 体の芯から温まる素晴らしい料理だなこのトンチン汁とやらは」
「豚汁な。豚汁とけんちん汁混ざってトンチンカンになってるよ」
そんなほのぼのとしていたのも束の間。
「そうだ望兎。飴と食料も調達してきたぞ」
「あぁありがとうございます」
菲針さんはそう言うとビニール袋を差し出す。中身を確認っと。……ん? よく分からない缶詰が入っている。
「これなんですか?」
「あぁ、なんかいろいろと物色していたら見つけたんだ。世界一甘いお菓子とやららしい」
世界一甘いって……もしかしてこれインドのグラブジャムン? 甘すぎるって一時期ネットで話題になってたけど。
「この間のマッシュメロンが美味かったからな。別のにしてみたんだ」
「マシュマロな」
「お! スイーツ! 食べていい?」
「あぁ。甘い物好きなアリスに食べて欲しかったんだ」
アリスはプルタブ式の缶を開けると、プラスチック製のフォークで一つ取って頬張る。
「お、おい大丈夫か……?」
「う……うっっへぇぇ……甘すぎて、気持ち悪い……」
アリスが青ざめた顔をしながら潰れた声でそう言うと、口を両手で抑えながらトイレへと駆け込んでいった。まぁそうなりますよねぇ。これ一個食べるのでも相当辛いって聞いたしな。トイレから勢いよく飛び出してきたアリスは鬼のような形相で走ってくる。
「望兎! 豚汁をくれ! あとしょっぱい物をありったけ!」
「わ、分かった……」
その後アリスは残りの豚汁を飲み干し、たまたま袋に入っていた煎餅を一人で平らげた。ぐったりしながらアリスは遠い天井の一点を見つめて呟く。
「当分甘い物は御免だ……」
なんとか一命を取り留めたアリスなのであった。
さぁとりあえず調達したかった物も手に入ったことだし、そろそろここをお暇させていただきますか。荷物を持って挨拶をする。
「十分にお気をつけて」
「ありがとうございました。また来ます」
「それでは——」
——ドーンッ!
その瞬間、爆音と共に俺たちを地響きが襲った。何事かと思ったその時、薄暗かったホームセンターが一気に明るくなる。見ると出入口の天井が崩れ、そこには遊徒が十体程佇んでいた。
「ニンゲンヲハッケン。テワケシテ、オイツメルゾ!」
マズいことになった。ここには俺たちの他に一般人の人たちが子供を含めて十数人居る。小さい女の子は節分の時の如く泣き叫んでいる。この人たちをどうにか守り抜かなくては。遊徒は容赦なく殺意を持って距離を詰めてくる。
「二人、みんなを頼む」
菲針さんはショットガンを構えると、前に出る。俺たちは曲がり角に身を潜める。だがここは行き止まりだ。どうにかして脱出しないと。壁越しに銃声が聞こえてくるが、徐々にその音は離れていく。隙を見て安全な方へ避難する。陳列棚に身を潜めながら進んでいくが、体温検知で気づかれてしまった。
「みんな走れ!」
全員が必死に走り、その後ろを刃を携えた遊徒が追いかけてくる。こんなの子供の頃に体験してたらトラウマになるって。いや大人でもなるか。そんなこと考えてる場合じゃない。どうやってこの状況を打開出来るだろうか。すると前からもう一体の遊徒が。
「止まれ!」
マズい。完全に挟み撃ちだ。挟み撃ちなしとか、タンマとかそういう鬼ごっこ的ルールが適用されない限り確実に詰んでいる。しかしそれはあの機械兵器に立ち向かう術が無ければの話。こっちには居るんだよ、ヒーローが!
「アリス! 今こそだろ、お前の出番だ!」
「ふん、仕方ない。貴様ら庶民を救うとするか」
「本気ですか? これはごっこ遊びじゃ無理ですよ!」
「友樹、あんな巫山戯た玩具とは比べ物にならない代物を見せてやろう。これが本物のヒーローだ!」
アリスは自信満々に青い変身マスクを取り出すと、口元に当てる。
「変身!」
次の瞬間、ガシャンガシャンと青いスーツが展開され、オレンジのバイザーが目元に展開される。変身したアリスは浮かび上がるとお決まりの流れへと移る。
「私は! 正義のヒーロー、
「本当に……ヒーロー?」
「皆の者安心しろ。この窮地、私が救ってみせよう!」
アリスは前方へと飛び始めると、目の前の遊徒に切り掛かる。
『デイブレイクセイバー!』
高熱の刃によって切られた機械兵器はそのまま崩れ落ちた。
「今だ!」
俺たちはその瞬間を狙って走り出す。アリスに先導されてなんとか外へ出た俺たちはホームセンターから一度離れることにする。だだっ広い駐車場を走っていると、目の前に先程の知能系遊徒が立ちはだかる。
「ニガサンゾ!」
「貴様如きに敵う私ではない!」
そう。アリスはγ型の遊徒に一人で勝ったのだ。こんな知能系遊徒などお茶の子さいさいだろう。アリスは飛び出すと右腕の放射口を遊徒に向ける。
『ジャッジメントフラッシュ! からのデイブレイクセイバー!』
確実に仕留められるコンボをカマそうとした時、アリスと俺たちの視界に物凄いスピードで近づいてくる銃弾が映った。
「危ない!」
瞬時に反応してギリギリで回避したアリスはそのまま遊徒の足元へと墜落する。
「ツゴウガイイ。シトメル!」
——バゴーン!
そんな遊徒の真横からショットガンが撃ち込まれた。
「ふー、間一髪だったな。すまない、私の放った弾が跳ね返ってそちらに飛んで行ってしまったようだ」
「死んだかと思ったわよ! 菲針様っ!」
「もう! 弾道なんてちょっと考えたら分かるでしょ! ベクトルだよ!」
「いや、ムリじゃないか……?」
「簡単だろ! ショットガンは散弾なんだから有り得る角度考えて、予測して仮定立てて暗算するだけじゃん!」
「それは望兎の頭じゃないと無理なんじゃない……?」
「はぁ、これだから目を離す訳にはいかないんだよ……」
「えこれ私たちがっかりされるの?」
「常人は皆そこまで瞬時に計算出来るのか?」
その場に居た望兎以外の全員が首を横に振った。
やはりこの少年の頭脳は人並み外れているということを再認識させられたな。
「まぁとりあえず遊徒倒し切ったんなら早く行きましょう。はぁもうまったく」
そう言うと望兎はスタスタと歩き始めた。
「じゃ、じゃあ私たちはこれで……」
「は、はい。お気をつけて」
珍しく礼儀の正しい菲針とアリスなのであった。
「ま、待ってくれ望兎」
「ちょっと、今日足速くない?」
「いいからさっと進む!」
「「はい……」」
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