第12話 救助活動
フェリーは全く減速せず、漁船とタンカーの間に入ってくる。
ネズミ色達が左右の船にフックワイヤーを投げつけてくる。海賊は船の縁に食い込んだフックを外そうともがくが、フェリーが急減速を始めてしまい、完全に縁に食い込んでしまっている。
ワイヤーの上をまるで雑技団かサーカスのようにネズミ色達がこともなげに歩いてくる。海賊達の銃撃もその進行をまるで抑止できない。ターミネーターか何かなのか。そんな頑丈で怪力でしかも平衡感覚抜群の宇宙人なんて聞いたこともない。盛りすぎだろう。
「訓練です。こちらは海上保安庁です。救助活動を開始します。」
最初に聞いたのがこの言葉なので、お前のような海上保安庁がいてたまるかと思った。
「根室市土木課です。工事のご連絡を」
「十勝川温泉へはガソリンスタンドを」
「仙台行きの切符は2番の窓口で」
ネズミ色達の言葉にまとまりはない。
海上保安庁のつもりの奴も「訓練」と前置きしていたので、内容と行動は関係ないのだ。
それぞれが相手に接触する時の言葉らしく、言葉を発するごとに海賊達の銃を片手で捻り折り、肩や首を掴む。
接触された海賊達は激しい痙攣を起こしてもがき回るが、ネズミ色達の空いている方の手でさらに押さえつけられ、そのまま小刻みに痙攣しながら昏倒する。
妻木たちに降伏しなかったのは正解だ。
このままでは私も殺される。あの怪力では操舵室のドアなど何の役にも立たない。
だが、他にできることもない。無駄だとわかっていても、ドアを閉め、鍵をかけた。
見晴らし抜群のフロント窓から操舵室の中にいる私は丸見えなのだ。滑稽にもほどがある。
今までの人生を思い返して祈りを捧げる時間をくれてもいいじゃないか。祈る相手は浄土宗だと誰になるんだ。まあ誰でもいいか。
操舵席に座って、「ああいう鉄扉が素手で捻り切られる時はどんな音がするのか」だけを最期の楽しみにマインドセットを整えた。
いつまで経っても扉のレバーさえ動かない。
どれだけ虐殺にかかってんだ。
早く入って来いよ、腹立つな。
何に怒ってるのか自分でもよくわからない。
ふと、フロント窓を見ると甲板のネズミ色達はいなくなっている。ああ、これからドアから突入してくるのか?
やはり、いつまで経っても突入してこない。
そして、前方の海域では、甲板の吹き飛んだフェリーと海賊達のタンカーが後方から現れ、次郎丸を追い越すようにそのまま西へ進んでいった。
操舵室の外に出ると、自動小銃の薬莢こそ落ちていたが、海賊達の死体は跡形もなく消えていた。
本土にいるゾンビもこんな風に駆除されているのかもしれない。ゾンビとどっちがマシか判断はつかない。
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