第24話 金属板
生きている人間は私だけになった。
人類再生の望みはなく、もはや復讐以外の目的などない。
武器もないのに復讐など滑稽だと、そう嘲笑うように、奴等は檻の中にいる私をトマト泥棒と呼んでから無視する。
ネズミ色に質問を繰り返すことで、九頭類が中国地方の大丘県赤牟地方にあることだけはわかった。そこに東雲光がいるのか。「来たんですよ」ということは移動した後なのか。
あてが無い以上、行ってみるしか無い。
そして、ネズミ色たちは自分が東雲光だという場合と、西条寺香だという場合がある。侵略作戦について主と副の関係なんだろうか。
奴らの知識に奴ら自身を破壊できるものはないかを探りたいが、人類が取得した技術ばかりだ。そう簡単にボロは見せない。
檻を製作する最終工程の作業場が、伸長してきた檻の林と混ざり出した翌日だった。
奴らはプラントを稼働させず、最終工程の側から機械を解体して、上流に運んでいく。それを見た中間工程も機械を解体しさらに上流へ、それを見た初期工程の機械を解体し....と続いていく。今日は引越しの日なのだ。
引越しの過程で、溶けた金属を型に流し込む中間工程のあたりに見慣れない金属板が積まれてる場所があった。金属板なんて何にも使ってない。あの薄さでは機械の部品にもならない。
金属板はそのまま中間工程の区画に運ばれていった。
その日は解体、輸送、組み立てで終わり、檻の生産が再開される前に日が沈んだ。
檻から這い出して、思い思いの態勢で眠るネズミ色共の間をぬって、金属板のところへ行く。
ネズミ色はまるで紙のように扱っていたが、その金属板は非常に重い。何か文字が隙間なく掘り込んであるが、月明かりでは読めない。1枚だけ持って翌朝に次郎丸へ戻った。
そこには西条寺と東雲の会話が記録されていた。
西条寺から白い飴をなぜ食べないのかと問われ、東雲は人形に後悔はなく、自分は未知が怖いと返すところで終わっている。
恐らくこれらの記録でネズミ色たちに植え付けた自分たちの記憶を強化し操りやすくしているのだろう。そこには様々なことが書いてあったに違いない。だから1枚持ち出しても有用な情報に触れられることはまずなかっただろう。
この終末にあってなんという幸運だろうか。
私はいきなり正解を引き当てたのだ。
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