第23話 新幹線
「九頭類なんてここいらじゃないね」
「そうですか」
「東雲光という名前もご存知ないですか」
「知らないねえ。しかし、陸は危ないよ。三刀谷さんより若い連中が、檻から出なきゃ大丈夫って高くくってこの有様だからね」
「もしもなんですが」
「うん」
「もしも陸に帰れるなら、溝口さんは帰りたいですか?」
「...そうねえ。まあ帰るって言ってももうあんなんでしょ。あたし仙台の生まれなんだけど、終末が来るずっと前に、再開発で全部変わったのね。だから、砂漠になってなくても、もうあたしに“帰る”って実感はないの」
溝口はグレネードランチャーの残骸をさする。
「強いていうならこの灯台なんだ。帰る場所。三刀谷さんは自由に選んだらいいと思うけどね。あたしはここにいたいね」
「そうですか」
「何をしようとしてるのかは聞かないさ。無駄だとも言わないさ。ただ、まあ、気を強く持ってね。頭がしゃっきりしてる限り、燃料はいつでも注いであげるから。魚は、自分で食べちゃってね。もう三刀谷さんしか魚が要る人いないから」
そういえば、いつも付けてる帳簿もなくなっていた。
「...今まで、お世話になりました」
「元気でね」
溝口はパイプが剥き出しになった椅子に座って遠くを見つめていた。
後日、給油に立ち寄った際に聞いたところでは、東京行きの新幹線を待っているということだった。
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