第20話 アンモニア

夜明けとともにネズミ色たちは機械の調整をしだす。本格的には動かさず、清掃したり材料を持って来たり、製品を次の工程に運んだりしている。棺桶に灰色の1人が入ると機械が動き出し、炉に火が灯るので、棺桶は制御装置らしい。


陸の奥に進むと見た目の違うプラントが出て来た。巨大なタンクの下に棺桶が収納され、タンクから伸びたパイプが水路に浸かり冷やされている。水路からはアンモニア臭が漂ってくる。水が腐ったわけじゃない、純粋なアンモニア臭だ。


ハーバー・ボッシュ法に金属の精錬。一体燃料はなんだ。水素源も必要だ。そのために海賊船を襲い、石油の流通者も襲ったのか。しかしあまりにも奇妙だ。これだけ高熱があるのに物が燃えた臭いがない。完璧な脱臭装置があるのか。金属ガスを吸っても平気な連中が燃焼の排気ガスを気にするだろうか。


そもそも、アンモニアなど何に使う。ネズミ色どもが必要としてるようには見えない。


アンモニアの溶け込んだ水路を追うと、立方体の林の中に入っていっている。水路の護岸には立方体がないので、一旦水路に出て護岸を歩いて辿る。


水中の生態系は陸ほど破壊されていないので、この水路も水面下は水草や藻が生え、水棲昆虫や魚もいる。少しでも陸性がある物、例えばヤゴやアカムシに両生類、が全くいないのでやはり破壊されていないわけではない。


森の栄養がなければ彼等も餓死するはずだが、アンモニア以外にも水路にネズミ色たちが何やら投入していたので、若干富栄養化した、見た目綺麗なドブ川のようだ。


水路はただの自然河川になり、その部分の岸は立方体だらけだ。石畳の護岸は奴らの点検路か。


そして、信じ難い光景が広がっていた。川は池のような湖ほどじゃない水域に流れ込み、周囲の土地を湿らせて、また下流の川に繋がっているのだが、水域を取り囲む立方体の林の地面からは草が伸び、一部は樹木のような大きさになっている。ほとんどはアシやススキだが、トマト、大麦、ヒマワリ、カボチャ、ナスなどの農業植物も乱雑に生えている。


奴らが立方体を置いている理由がそこには広がっていた。食糧生産地の囲い込みだ。

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