第4話 選択肢

妻木は一言も声を発しない。

開けろとすら言わない。

光を当てられても、まばたき一つなく、ドアからこちらを凝視している。

窓ガラスに止まった蛾のようだ。


絶叫を飲み込み、事務区画に駆け下り、諸尾種子保管庫の設計図面を広げる。地下30mの縦坑のような構造をしており出入口は、地上の5m大の建屋だけ。常識的に侵入できるのは建屋のみ。


冷却システムの要である吸排気口は建屋の天井にある。ダクトの主幹は縦横50cmでギリギリ人間が侵入できるが、ターボファンにそのまま落ちることになる。


発電設備は屋外にあるので、設備を破壊しなくてもケーブルを外すだけで電力を止められる。緊急用のディーゼル発電機の稼働時間はせいぜい1週間。


そもそも籠城しても助けは来ない。


撃退するか、降伏するか、脱出するか。


施設にある機材でなんとか撃退するとしよう。正直手段が思いつかないことも棚上げする。

あの病的な執拗さと、妻木と大内が同じ格好をしていることから、なんらかの集団の命令で来ているのだろう。下手に撃退できたら次はもっと大勢で来るはずだ。危険すぎる。


“敵”の狙いが何だと私にとって最悪か。種や機材、燃料などこの施設が目的ならいくらでもくれてやればいい。もう管理をやめる気だったのだから。この場合、降伏が現実的な選択肢になる。


しかし、私を拉致して、例えば”彼ら“の奴隷にするか、もしくは島の外は無法の終末世界なので生きた保存食にする気だったらどうか。狙いが私自自身だった時が最悪だ。降伏して私の生命を要求されたらおしまいなのでこれもない。


脱出するしかない。

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