第6話 人工知能

翌朝、呼び出しの音に目が覚める。

“いつもの時間”だ。


降伏はしないぞ、という意思表示に行くか。


「みとちゃん。開けてくれるかい」


バイザーから覗くと妻木も大内もいる。あれは夢だったかというと、事務所には保管庫の図面が広げてあるし、その上に投げ置いたペンライトもそのままだ。


「昨晩は帰らなかったんですね」

「帰ったよ。お茶の後に。今朝も漁だからさ」


皮肉なのか。あれがお茶か。


「春石は小樽についた頃ですか」

「まだだろう。明日の早朝にターミナルに着いてるんじゃないかな」


ゾッとするほど昨日と全く同じ返答と仕草だ。

人を馬鹿にしてる。威圧してるつもりか。


「昨日言ったと思うんですが、今日で保管庫はもう閉めるんで帰ってください」

「そうか。やめちゃうのか」

「やめちゃうのは残念だ。三刀谷さん。開けてもらえますか」


昨日と全く同じことを言ってないか?


「妻木さん。私のフルネームは?」

「三刀谷悟ちゃんだよね。何かあったの?」


間違いない。フルネームを聞かれて昨日も「何かあったの?」と聞いていた。


「昨日も大内さんと来ましたよね?」

「大内さんね。いつも話してるでしょ。遠洋船でベーリング海に行ってる人だよ」


はぐらかしたのか、聞こえていないのか。


「昨日も来ましたよね、と聞いたんです」

「昨日も来たよ。お茶しに」


「大内さんはその時いましたよね」

「大内さんね。いつも話してるでしょ。遠洋船でベーリング海に行ってる人だよ」


質問の意図を理解できなくて単語に反応し続ける低レベルの人工知能がこんな感じだった。

もっとも高レベルの人工知能など創作の中のまま終末が来てしまったが。


受け答えの杜撰さに対して、目つきだけは耄碌していない。まばたき一つせず、ドアのバイザー越しに私を凝視している。


病気でもない。洗脳でもない。ゾンビにはどう見ても見えない。宇宙人に乗っ取られている、という線が1番ありそうだ。ゾンビに宇宙人。めちゃくちゃな終末だ。どっちかにしろ。そして宇宙人がなぜこの忘れられた種子保管庫に来る。


状況と相手の正体は掴めなかったが、改めて交渉可能性がないことを確認してお帰りいただいた。どうせドアに張り付いてるんだろうが。

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