第17話 接近
溝口は陸に「できるだけ」近づかないでと言ったが、近づくなとは言っていない。
人形は襲ってきたりしないが、知らない間に感染させられることを警戒するのは当然だ。
船のトラブルでやむを得ず陸に上がることもあるという。
ネズミ色の本拠地は今のところ北海道だが、北方海賊が南下してきてるということは、ネズミ色も南下しているかもしれない。
敵の情報を収集するチャンスだ。
私はその日は漁を休んで、恐らく岩手県だったあたりに上陸することにした。
うっすら見えてきた陸地には緑が一切なく、暗色の砂と岩しかない。
コンクリート製の建築物はカビも苔もない真っ白な石灰岩のようだ。テラフォーミングが進んで水をたたえた火星はきっとこんな風景だ。
陸地が近づくにつれて嗅いだことのない臭いが漂ってくる。加熱したモーターから出てきたようなオゾン臭、腐臭を伴わない温泉のような硫黄臭、わずかな塩素臭。
ゴーッ...ゴーッ...バーッ...バーッ....
金属音やガスの吹き出す音が聞こえてくる。発生は断続的で、自然現象という感じではない。私の知ってる工業団地は物流に接続するために大抵、沿岸部にある。だから、海から接近して巨大な工業団地らしきものが音だけして見えないというのは異様だった。
さらに海岸に接近すると、なぜ砂が暗色をしていたのかがわかってくる。
「どうして?」
荒地一面にビッシリと黒い立方体状の格子で埋め尽くされているのだ。
格子の間から見える砂に格子の黒が混ざることで、遠目では砂が黄色から暗い黄色に見えているのだ。
着岸し次郎丸を停泊させる時には、これらの格子が全て、大人でも這えば中に入れる大きさで統一されていることがわかった。
なので、侵入を完全に阻むようなことはできない。そして風雨や銃弾などへの遮蔽物にもならない。もちろん見られたくない物を隠すこともできない。
平面に並べられたなんの面白みもないジャングルジムか、歯抜けした大型犬用の檻のようだ。
しかし、その執拗さからこれが「ここからは我々の領域だ」と言っていることだけはわかった。
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