第18話 工業団地

立方体の林はどこまでも続いていて切れ目がない。ふたたび次郎丸で沿岸を北へ進んでみる。


すると、次第にあの機械音と臭いが強くなる。

そして、立方体の切れ目から向こうはネズミ色たちが忙しなく動き回る工業団地だった。


様々な機械が砂地に直置きされ、電力なり燃料なりを供給するパイプや導線のような物はない。埋設されているのだろうか。原動力を供給する中心らしいものがなく、工程ごとに機械はまとめて置かれ、林から順に層を作るように並んでいる。


ネズミ色たちは立方体の中には一切入ろうとしないので、再び船を南下して停泊させ上陸し、林の中を這うように団地へ進む。


より詳細に行われていることを観察する。


物の流れは林側が下流だ。

上流の炉には次々と砂が投入され、熱く溶けたガラスはパイプを伝って別の機械へ流れていく。残ったスラグは、別のネズミ色たちが真っ赤なまま運んで、溶鉱炉に投入し、そこから汲み出した溶融金属を砂地に掘った型に流し込む。

固まった物は取り出され、研磨され、綺麗な棒になると、溶接して立方体に加工される。

加工された立方体は、林の切れ目に並べられていく。よくみると、ガラスも同様の工程を経て立方体に加工されて並べられている。


何を作っているのかはわかるが、目的がさっぱりわからない。


海側に目を向けると、海賊船を襲撃したのと同型のフェリーが岩場に着岸し、中からネズミ色たちが次々と降りて来て、誰の指示を受けるでもなく機械に散らばって人員の少ない作業に取り掛かる。


そこで感じていた違和感に気がついた。

これだけのプラントで大量の機械と人員が動くというのに、工程を管理して指示を出す監督者がいない。


ネズミ色たちは何の指示も受けず、目の前の作業を反射的にこなしているのだ。

それもその手つきは付け焼き刃には見えない。どの工程でも完璧にこなせる。しかもネズミ色は頑丈なので安全対策もなく、金属蒸気を吸いながら素手で高温の物体を扱える。これが何か意味のある物の製造に割り振られていればとてつもない工業力だが、その結果がこの立方体なのだ。この虚しさはなんなのだ。


夜まで待って潜入することにした。

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