第15話 中国人

「以前は、人形病なのにまともな受け答えができる奴がいた。あれは中国人だったな。治療法というほど劇的じゃないが、人形をまともな状態に近づける技術ができて、自分はその実験で甦ったんだと」

スキンヘッドをさする癖がある。眉毛が顔の輪郭の外に飛び出した老人で、舟入という名の漁師だ。オホーツク海までたまに出張るそうだ。50手前(だと思う)の生存者は私くらいだそうで、珍しいということで灯台で話しかけられた。



「生存者が、まあ俺ら見たいなジジイやババアか、人形と見分けがつくほど陰気な奴ばっかりだろ。ああ、あんたは両方の中間くらいさ。とにかく人形に人口のほとんどを取られたから再生産がいると。それで無事な若い奴を探して保護するのに太平洋中ぐるぐる回ってるってな」


「彼らにも燃料の配給を?」


「配給どころか、その中国人どもがベーリング海の無事な油田の供給ルートを作ったからあんたの船にも給油できてるのさ。もう油田も人形だらけで、生存者が行ったら一緒にボケちまう。“起きた人形”による操業と輸送の仲介が頼みなのさ」


「以前は、と言われましたが、今のその中国人はどうなったんですか?」


「突然来なくなったな。海賊どもが南下してくるようになったのと同時期だから、海賊にやられたのかもしれねえな」


「千島列島の沖合で海賊がネズミ色のカッパを着た集団に襲われてたんですが、何かご存知ないですか?」


「ネズミ色のカッパ?そいつらは知らんが、ネズミ色のカッパを着た奴はそういえば中国人の仲間にいたな」


「その人も人形?」


「まあそのネズミ色は若造なんだが、その時も“若い生存者を探してる”って中国人言ってたから、あれは人形だったんだろうな」


「そのネズミ色の人が怪力だったかとかはわかんないですよね」


「あん?にいちゃん知らんのか?本当にずっと引きこもってたんだな。人形はみんな怪力よ。壊れた建物とか素手で粉々にするわな」

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