第8話 整理整頓

いつもの時間だ。呼び出しのチャイムが鳴る。


私は、ナップザックに厳選した種と水1L、ナイフ、鉛筆、手帳、乾パンが入っているのを確認する。もっと持っていきたい物はあるが、これ以上持つと電気盤に隠れられない。


「みとちゃん。開けてくれるかい」

バイザーは目張りされたままだが、妻木と大内以外あり得ないだろう。


カチリッ


障害物の隙間からシリンダーロックを解錠し、階段を駆け降りる。

地上からは扉から外へ物が倒れ込むカン高い音が響いてくるが、怯んでなどいられない。

廊下の壁に立てかけていた炭酸ガスや冷媒のボンベを引き倒して事務室へ走る。


一度、事務室の中に並べたロッカーに体当たりして音を立ててから、戻って電気盤の中に入る。

あとは成り行き次第だ。


まっすぐ入ってくるかと思ったが一向に廊下に現れない。階段の方から音がするが物を崩している音にしては静かだ。


炭酸ガスにしろ冷媒にしろ7000Lのボンベは空でも60kg近い重さがある。一度倒れると起き上がらせるのは工夫しなければ2人作業だ。


見た目70代の老人が、片手で空のポリタンクでも持つようにボンベを正しく立たせていく。そこには老人なりに長年の経験を活かしたテクニックだとか、テコを組み合わせ工夫など何もない。

すっと、こともなげに立たせたのだ。

受け答えがおかしいだけではない。

人間ではないのだ。


奴らは事務室を一瞥しただけで、また廊下に戻ってくる。

電気盤の前に立つが、電気盤を見もせずキョロキョロしている。事務室とは違う、別の目的の部屋を探しているらしい。

「トマト泥棒は檻の中で震えている」

「暗い地下で逃げ惑えばいい」

なんの暗号だろうか。暗号で会話する理由の見当がつかない。

種子保管庫や空調室のある、施設のさらに奥へと入っていった。


恐る恐る、電気盤の扉を開けて、待ち伏せされていないか見るが、種子保管庫のエアロックの音がするので完全に区画に入ったらしい。


音を立てないよう、裸足の強歩で階段に向かうが、私が廊下に散らばらせた物は全て綺麗に壁に沿って並べられている。2つある物は廊下の左右に同じ向きで置かれシンメトリーになっている。


何の意味があるかは後でゆっくり考えればいい。


階段を登り切ると、廊下同様、ゴミ屋敷のようだったエントランスはホームセンターの園芸コーナーのごとく、散らばった物品が綺麗に整頓されていた。


ドアは開かれたままで外には誰もいない。桟橋には妻木の漁船が一隻停泊してるだけだ。

この島を脱出するぞ。

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