第28話 仇敵
雨が上がり、また空が晴れ渡る。
日は傾き空は赤い。
急激に水が引いて砂埃が立ち出す。
雨の間に見えた明かりに向けて歩く。
人形の集落だろう。
海で溺れて死ぬよりはいいだろう。
私はどんな思い出の世界に生きるのか。
川がある。
護岸は檻がない。
もう檻の中を這っていく気力もない。
助かった。
あの工業団地の臭いがする。
機械が動く音がする。
きっと人形よりも死体にそっくりなのだ。
ネズミ色たちは私に興味を示さない。
ただプラントの中を歩く。
ポケットに手を入れると包みがある。
そうか。
これをあいつに食わせに来たんだった。
どこにいるかもわからない。
適当に灰色に抱きついてから私が食うか。
ふと、目の前を見ると金属板置き場だ。
記録を奴らが参照する。
今も2人の人形がいる。
記録を彫り込んでいる。
転写じゃない。
新しい記録なのか?
2人の顔はそっくりで、男とも女ともつかない。歳は20代くらいか。10代にも40代にも見える不思議な顔だ。黒いジャージの上下でネズミ色のウィンドブレーカーは脱いで置かれている。なぜ格好が他の奴と違う。
「模倣者と違ってオリジナルはアイデンティティを変えられる」
だったか。
興奮が抑えられなくなり笑みが溢れる。
「すいません。お尋ねしたい」
2人が顔を向ける。
「あなたは誰ですか」
近い方から聞く。
「...多分、西条寺香だと思います。もう自信がないけれど」
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