第10話 燃料

この終末の世で妻木はどこから次郎丸の燃料を調達していたのか。

船の燃料が満タンなことから、備蓄を切り崩して細々と使っていたという感じではない。

大内はベーリング海まで遠洋漁業をしていたという。燃料が安定供給されていないとできない話だ。終末直前に日本近海で油田が出たという話は聞かない。ということは、アメリカ大陸とフィリピン海の油田が管理され、軽油に精製され、さらに北海道まで輸送する流通網が今もあるということだ。通信が10年以上遮断され、小樽に帰ったはずの春石から返事がないという事実がなければ、終末の到来に疑念を抱くほどだ。


南西に向かえば色丹島に着くはずで、少しずれてても根室か網走に着くはずだが、ずれが大きいと太平洋を延々と南下する羽目になる。北寄りになると国後島か択捉島に着く。その方が近い陸地ではあるが、海賊に遭遇する危険性が高くなるはずだ。私が終末の影響を大して受けていないくらいだから、連中が今も続いていると考えた方が良い。それこそ、今まで続いている燃料流通網に寄生し生きながらえているかもしれない。


船内に羅針盤などはない。北極星がどれかもわからないので、太陽の上り下りで方角を決める。真西より少し南、西南西くらいのつもりで船を進めてみよう。

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