第11話 拿捕
終末以前にロシアは終末化していて、マフィアやら軍人崩れ、失脚したオルガリヒやらが大陸を逃れ、日本政府が口ばっかりで管理を怠っている千島列島に活路を見出した。ソ連ですら樺太だけで満足したのに。
一方の日本からもロシアとのパイプが無用の長物になった政治家の郎党やらヤクザやらが合流し、組織内の公用語がロシア語と日本語という海賊が現れるようになった。
なので、鬼を思わせる赤マダラな白肌の大男でも日本語が通じる。
向こうも日本語で話しかけてくれる。
銃を突きつけられては、終末になっても海賊やってるとか恥ずかしくねえのかと悪態もつけないが。
「お前、何、できる、なのか」
「機械、直す。船、直す。リペア。マシン」
どうやら船と燃料だけではなく労働力も欲しい欲張りさんらしい。
風呂に入れよひでえ獣臭だぞ。
こういう連中のことだから水と食糧も碌にくれないのだろう。こうなるとわかってたら妻木たちに降伏してた方が良かったかもしれない。
奴らのタンカーに連行されようとした時だった。何やら大声で叫んでいる。ロシア語はわからないが、何かが接近して来ているのかタンカーの上にいる何人かが漁船の後方を指差している。あれはフェリーだろうか。
「(ロシア語)、ああ!船!動く!動く!」
こんなに武装しててもあのフェリーがよっぽど怖いらしい。
終末のゴロツキの敵対勢力はゴロツキと相場で決まっているので、私が戦利品になるのは目に見えているしフェリーに助けを求める気はない。
はいはいと手錠されたままエンジンルームに潜り込み、セルモーターを動かす。
タンカー上から携行ロケット砲をフェリーに向けて撃つのが見える。そこまでするか。
もう非日常が極まり過ぎて驚く気も失せ、粛々とスロットルを入れる。拿捕時に奴らがかけた簡易の桟橋がへし折れ海に落下するが気にしない。動けって言ったのはオメエらだからなと返そうと思っていたが、海賊も気にしている場合ではないらしい。
ゴバッン
爆裂音が響いてきた。
ロケット砲の爆発を見物しようと振り返って初めて私は海賊が何を怖がったのかを理解した。
甲板が吹き飛び今も炎の上がる穴から、ネズミ色のウィンドブレーカーを着た人間たちがゾロゾロと這い出してくる。どう見ても可燃性の服だが全く燃え移る様子はなく、火を避ける気もなく次々と這い出してくる。
この距離ではズボンの生地まではわからない。
しかし、恐らくジャージなのだ。
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