第13話 盆踊り

まっすぐ西に向かうとネズミ色達の本拠地に行くことになるので、進路を少し南に寄せる。

ロシア人で構成された海賊どもがフェリーを見ただけで恐慌状態になったことを考えると、ネズミ色達の勢力海域は相当に広いはずだ。


というよりロケット砲で武装したロシア海軍崩れを素手で制圧するような連中だ。

ゾンビ禍でめちゃくちゃになった日本政府が、仮に残ってたところでネズミ色達の侵攻を阻止できるとはとても思えない。


「この先には日本国憲法が通じない」なんていう標語の何かがあったな。ヤクザ映画だったか。


以前、宇宙人に何かされる前の妻木が「見たこともない豊漁」と言っていたけれど、実際、私のような素人でも、次郎丸の船倉にあった釣り道具一式で魚が取り放題なので食糧には困らなかったが、ただただ真水がない。

最悪のことを考え、尿も捨てずにバケツに溜めている。


進路がズレていたのか、そろそろ陸が見えるだろうという距離を走ったのに何も見えて来ないので次第に死を感じ始める。燃料は半分くらいだ。


海平線に人工物が見える。宇宙人のフェリーかもしれないが、どっちみち死ぬなら宇宙人じゃないことに賭けよう。


その船は、次郎丸の2倍くらいある大型漁船だった。甲板には船員らしき人々が行き交ってるがネズミ色ではない。助かった。


しかし、希望はすぐ困惑と失望に変わった。


漁船にはすぐ追いつけた。航行していないのだ。そして船員たちは各々違った服装で行き交っているが、よく見ると同じ人間が船尾から船首までを往復しているだけだ。


血色はよく、顔も明るいのでゾンビのようには見えない。だが、往復しているだけだ。


さながらそれは船上の盆踊りのようだ。


宇宙人に何かされた出来損ないはああなるのだろうか。こちらが接近しても誰も注意を払わない。


彼らについて行こうにも船は動いていない。可哀想だが、今の私は助けて欲しいくらいなので何もしてやれなかった。

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