第三節 紫微宮へ
第四話
「
父親に改まった物言いをされ、嘉乃は少し緊張しながら、父親の前に正座をした。
「はい」
「
「え? どうして?」
「……私にも分からない。
「そうなの……。
「
「東宮御所、皇太子さま……」
嘉乃は
「大変だと思うが、……頑張って欲しい」
嘉乃の父はそう言って頭を下げた。
「大丈夫よ、お父さん。わたし、きっとちゃんと出来るわ」
「嘉乃……」
嘉乃の父は嘉乃の手をぎゅっと握った。顔は下を向いていたから、表情は分からなかったが、父の震える手を見て、嘉乃は、父は泣いているのかもしれない、と思った。
*
「それで、うまく行ったのか?」
「は! 東宮御所に女官を一人入れさせることが出来ました」
「そうか……」
橘氏当主の
「……
「そうですね。
「残念だ、まったく。目のことさえなければ、
「しかし、
「そうだな。……全く、困ったものだ」
橘氏に生まれる能力者は年々減っており、
「――まあ、いい」
「うまくいくとよいですね」
「そうだな。……あの、
「美しいと評判でして。確かめに行ったところ、驚くほどの美しさでしたので、これは、と思いまして」
「……なんとか、
「あの美しさですから。天皇よりは皇太子の方がお力があるとのことですから、清原王の目にとまる方がよろしいかと」
「そうだな。……もともとは、橘と藤は並び立つ二大氏で、
夜空には満月手前の月が浮かんでいた。
月の光は、庭や屋敷の中に届き、影を濃くしていた。
部屋は
「――ともかく、嘉乃に十分な身支度をさせ、東宮御所に送り出しましょう」
月光が銀色の光を注ぎ込む。
庭木の影が黒く濃くなり、影は
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます