第二十一話
「
「ああ、まさかこうもうまくいくとは!」
「
「
くっくと笑い合う。
嘉乃はしばらくして、
「
嘉乃はそう言って、頭を下げた。美しいくせのない髪がさらさらと流れ落ちる。声は鈴の音のようだった。
「
「はい。……あの、家族に会うことは出来るのでしょうか?」
嘉乃はそう、思い切ったように言った。
「会えるように手配はしよう。しかし、一度だけだ。それ以降はもう二度と会えない。嘉乃、という存在は消えることになる」
「……はい……」
目を伏せて消え入りそうに答える嘉乃は、目に涙を滲ませているらしかった。
嘉乃は
見知った人もなく、一人だった。
何しろ、橘家の当主の娘となり体裁を整え、
嘉乃、という存在は消えることになる、と
名前も
天皇家や
しかし嘉乃にとって、それは雲の上のことで、よもや自分がそのような名になるとは思ってもみなかった。
お父さん、お母さん、
あの別れが、本当の別れとなってしまったとは。
嘉乃は
……父は何かを察していたのかもしれない、と思った。迎えの俥を見て、顔をしかめていた。
運命の子たる予言の王を、産み給ふ娘よ
運命の相手と
栄えたる瑞穂の国の
――嘉乃の目から涙がこぼれた。
そのとき、ひらひらとユキヤナギが舞い、鳥が窓から入ってきて、嘉乃の前に文を落とした。緑色の美しいその鳥は、一声鳴くと、すぐに去って行った。
嘉乃が、桜色の和紙の文を開くと、そこには清原王の手で「愛している」とだけ書かれていた。他に伝えたいことは山のようにあるが、その一言だけを書いたことが分かって、嘉乃は胸がいっぱいになりその手紙を胸に押し付けた。
頑張ろう、と思った。
家族よりも何よりも、大切な人を見つけてしまったのだから。
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