第四節 娶しの儀は実に静かに
第二十二話
ただし、
妃の変更は当然、各所に波紋を及ぼした。
「私の妃は
「お待ちください! 聖子に何かご不満でもあったのですか? こんな直前になって、そんな!」
藤氏の当主
「橘の
「かつて愛した女性が、人知れず私の子を産んでいたのだよ」
「いったいどのような女性なのだ?
「
清原王が合図すると、その場に控えていた
嘉乃の姿をひと目見た瞬間、一同からほうっという溜め息が漏れた。
「これはこれは……女性のわたしでも、くらっとするぞ」
「
嘉乃はそう言って、静かに頭を下げた。その声も愛らしく仕草も美しく、みな、心を奪われた。
白い肌を引き立たせる色合いの衣は、薄い空色の生地に撫子色のやわらかい彩りで刺繍が施されていた。差し色の露草色と菖蒲色が、嘉乃を上品に美しく見せていた。不安気な、睫毛の長い目元も、繊細な美しさを際立せていた。
頭を上げて、六家の当主を見た嘉乃の顔を見て、
どこから探して来たのだ? このような娘を。
これまで、聖子を妃にするためにした努力を思うと、はらわたが煮えくり返った。手を強く握り過ぎて、爪が手のひらを傷つけた。
「ところで、
これまで発言しなかった、
「それは――ありません」
清原王が答えた。
「では、文字の力のある、私の娘、聖子の方が適任です!」
「しかし、過去には文字の力のない妃がいた事例もある」
「だけど!」
「――私は、
「あんまりです!」
「美しいだけでは、妃は務まりません!」
「清原王も、まるで自分の御意志がないかのような優等生だったが。わたしは逆に安心したぞ。人の子だったのだと思うて」
「
「……清原王は、これまでの天皇よりずっと力の強いお方。そのお方が自分でお選びになったのだ。きっと、この世界の不調もなんとかしてくれようぞ。な?」
「もちろんです。皇太子としても、いずれ即位して天皇となった折にも、この力で祈りを天に届け、世界に実りをもたらしましょう」
清原王はそう強い目線で言って、「妃は
清原王、
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