第三話
「あたしたち、やっぱり、能力なかったね」
「……うん」
文字の能力は大変稀有な貴重なものなので、一人でも多くの能力者が見つかるようにと、少しでも
嘉乃は、空の高みを見た。
嘉乃のまっすぐで艶やかな髪が、風になびいて、嘉乃のすらりとした白い首筋が露わになった。嘉乃は眩しそうに眼を細めながら、風を感じていた。
そのようすを見ていた
「……嘉乃、ほんとうにきれいだね。文字の力があれば、嘉乃が皇太子妃だよね」
「そんなこと、ないよ。――文字の力は当然ないし。皇太子妃、なんて考えるだけでも畏れ多いわ。橘の傍流ではあるけれど、末端だし氏は名乗れないし。それに、橘は、今は
「そうなのよね。……橘はいま、力のある人、少ないのよね。藤氏が強くなっているわよね」
「……うん」
世界は不調に陥っている。
一つの御代だけなら耐えられたものが、数代続くとだんだん重く暗いものが溜まっていくのだった。
「とりあえずさ、早く
「そうだね」
祝詞が天に届けば、この世界の不調が少しは解消されるかもしれない。
「戻ろうか」
嘉乃は籠を手にして、立ち上がった。
もう一度、美しい景色を見る。
夕飯の支度を始めた家々があって、煙が立ち上っているのが見える。
人々の声が微かに聞こえた。
風が、ざあっと吹いて嘉乃の髪をさらった。長くて癖のない、美しい髪。
嘉乃は顔にかかった髪を細く白い指で払った。
抜けるような白い肌。長いまつ毛に縁どられた、切れ長の黒曜石の瞳。通った鼻筋に、紅を塗らずとも、赤く濡れているような唇。――嘉乃には儚げな美しさがあった。そして同時に若さの瑞々しさがあった。儚げな中にも前向きな強さがあり、手足はのびやかで、着物から伸びた脚は、大地をどこまでもゆけそうで、とてもしなやかだった。
「うん、帰ろう! ごはんの支度の手伝いしなくちゃね」
そして、愛すべき笑顔を嘉乃に向けると、二人は笑い合いながら、家へと向かった。
遠くで鳥の音と人々の笑い声が聞こえ、緑を撫でる風の音が優しく響いた。
家へと急ぐ、二人のあとに、ふわりと小さな白い花が舞っていた。
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