第四節 未来に
第三十八話
幼い二人の子ども――男の子と女の子がいた。
すると、盲目の女性が「ということは、
「そうね。
幼い二人の子どもは、無邪気に遊んでいた。
すると、女の子が濡烏の髪の女性のもとに駆けて来て言った。
「ねえねえ、お母さま! あたし、花を飛ばせるのよ、見て!」
女の子は小さい白い花を飛ばし、自慢気に母親を見た。
濡烏の女性と盲目の女性が驚愕していると、さらに女の子は言った。
「あのね、
二人は、自分たちの周りに、小さい白い花を飛ばし、声を上げて喜んだ。
「ねえ、すごいでしょ? 同じ花なんだよ!」
「……ユキヤナギ……」
濡烏の髪の女性がつぶやくと、盲目の女性が「ユキヤナギ?
「ええ」
「それを、成人もまだ遠い、この二人が出した、というのですか?」
「ええ」
濡烏の髪の女性は目に涙を溜めて、幼い二人を見つめた。
濡烏の女性と盲目の女性は何事かを考えているようだった。
「もしかして、あの二人は――」
「そうですね、きっと――」
幼い二人の子どもはしっかりと手を繋いで、幸福そうに笑い合っていた。
「ともかく、見守りましょう。このことは内密にお願いします」
「はい。わたくしもそうお願いしようと思っておりました」
幼い二人は並んで座って、小さな白い花を出して遊んだ。
「ねえ、どうして同じ花なのかな?」
「それはね、仲良しだからだよ! あたし、ずっと
「うん、ぼくもそうしたい」
「ずっとずっと、いっしょなんだよ? 大人になっても」
「じゃあ、結婚するの?」
「そう、それでね、結婚してもずっといっしょなの!」
「うん!」
二人はふふふと顔を見合わせて笑い、濡烏の女性と盲目の女性はそんな二人をあたたかく見守っていた――
*
「
嘉乃がふっと目を開けると、涙を流す
ああ、愛しいあなた。
「……月原さま……」
嘉乃が伸ばした手を、
「嘉乃、いかないでくれ。頼む」
「泣かないで」
「嘉乃! お願いだ」
「……月原さま。わたし、
「嘉乃?」
「わたしたち、また逢えるわ」未来で、と嘉乃は心の中で付け加えた。
「嘉乃、嘉乃!」
「それに、わたしの魂は、あなたとずっといっしょにいるわ。だって、ユキヤナギで結ばれているから」
そのとき、ユキヤナギの小さくて白い花が部屋中を舞った。まるで意志があるかのように、うねりをもってぐるぐると踊るように。
「嘉乃、どういうことなんだ?」
「ずっと言えなかったけれど、わたしとあなたはユキヤナギで繋がっているのよ。わたし、肉体がなくなっても、魂は、ずっとあなたといるわ」
「……嘉乃!」
「泣かないで。――
ああ、でも、と嘉乃は思った。
わたしもあなたも、未来であの子の力になれる。
この
なんという幸せなのだろう。
なんと、素晴らしい未来を用意された運命なのだろう。
ねえ、だから、泣かないで。
だいじょうぶよ。
少しの間、待っていて。
その間、あなたは心に反する辛い行動を選択しなくてはいけないかもしれない。
でも、それは全て未来への布石なの。
泣かなくていいのよ。
辛いことにも意味があって、それから角度を変えれば幸せにもなる。
わたしの命はここで尽きる。
だけど、これでいいの。
あなたと、あなたとの子どもを守ることが出来るのだから。
それに、わたしたちには未来がある。
だから、泣かないで。
魂はずっとそばにいるから。
*
「ねえねえ、見て! あたし、花を出せるのよ」
小さな白い花が、女の子の前にふわっと舞う。
「あ、それぼくも出来るんだよ?」
小さな白い花が、円を描いて二人の前で踊った。
「同じ花だね!」
「うん!
「ぼくも大好き!」
健やかな笑い声が陽だまりの中に溶け込んで、小さな白い花が幸せそうに優しく舞い続けた。
*
白と黒 いや繁しげに
栄えたる
白の君 白き小さき
鳥が鳴き 花の舞ひをり ちはやぶる 人を
白と黒の世
栄え給ふぞ
「天翔る美しの国【零の巻】――あなたしか見えない」 了
天翔る美しの国【零の巻】――あなたしか、見えない 西しまこ @nishi-shima
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