第三節 別れ
第三十六話
生誕の儀のあと、
通常、生まれる前に乳母の選定がされるのだが、そもそもの政治的混乱と慌ただしい即位による政務の煩雑さにより、
「乳母は、
「どうして知っているのだ?」と
「よい方でしょう?」
自信たっぷりに言う嘉乃が、ふと消えてしまいそうで、
「月原さま?」
「嘉乃。どこにも行かないでくれ」
「……行かないわ。ずっと一緒にいるわ」
そう言う嘉乃はやはり透けて見えるのだった。
このごろの嘉乃は、美しさにさらに磨きがかかり、ずっと一緒にいる
出来る限り、嘉乃に触れていたいと、
嘉乃は、
どう考えても、幸せそのものであった。
素晴らしい力を備えていると。
そのことで、
だけど、と
嘉乃を抱き締めながら、どうしてこんなに不安が募るのだろう? と。
嘉乃はいつも、静かに微笑んでいる。
何かを決めてしまったかのように。
はいはいするようになり、立って歩くようになったそのころ、嘉乃は突然倒れた。
「嘉乃!」
「月原さま……」
嘉乃もまた、秘密の名前を口にしながら、
「嘉乃、しっかりしてくれ」
「月原さま……」
嘉乃は
「――
「嘉乃、駄目だ!」
嘉乃は静かに微笑んだ。
*
汝の命はもうすぐ尽きる。
しかし、魂は残る。
同じ
よかった、と嘉乃は思った。
月原さまが生きていらっしゃる限り、ずっと見守っていられる。
魂となっても、わたしは、自分よりも大切な愛しい二人を守ってあげたい。
嘉乃はしばらく、夢と
夢の中で嘉乃は、いくつもの未来を見た。
未来は近い未来も遠い未来も、交差して嘉乃の目前に現れた。
そして、ある未来を見たとき、嘉乃は急に理解した。
自分と
そして、同時に思った。
こんな幸せが起こりえるのかと。
ああ、なんて素晴らしいの、と。
*
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