第三十三話

 橘三人たちばなのみひとは歓喜に震えていた。

 天皇か皇太子のお手付きになり、側女そばめとまではいかずとも子でも成せばよいと思って皇太子のところに送り込んだ娘が皇太子妃となり天皇妃となり、さらに早々に子どもまで産み、その子はなんと。


「白い髪と金色の瞳を持つ、とは! なんという僥倖だろうか。なあ、角島つのしま

「さようでございますな。よもや、祥瑞鳥しょうずいちょうを表す姿であらせられるとは」

「生まれたときの、あの祝祭を見たか?」

「もちろんでございます。大変素晴らしいものでありました」

「間違いなく、文字の能力は高いだろう。祝福を持って生まれて来たのだから」

「さようでございますとも」

「……ふじにはずっと追いやられてきた。これで、我がたちばなも巻き返していけるぞ」

「楽しみですな!」



祥瑞鳥しょうずいちょうを表したお姿だそうだよ」と檜虎守ひのきのこもりが言うと、葦敦海あしのあつみが「それはそれは。……誕生の折は、素晴らしい祝祭であったな」と言って、ほうと溜め息をついた。

「まことに素晴らしかった……! 成人しないと能力の有無は分からないが、恐らく強い力を持っていることは間違いがないだろう」と葛宗茂かずらのむねしげは言い、さらに「私は清原王きよはらのおおきみをお支えし、ひいては清白王きよあきおうをお支えしたいと思う。あの祝祭は見事だった」と言った。


「それは確かにそうだの。――広成ひろなりどのはどうお考えじゃ?」

 敦海あつみが言うと漆広成うるしのひろしげは、ゆっくりと何かを考えるような仕草を見せながら言った。

「確かにあの祝祭は素晴らしかった。誕生の折、あのような現象が起こるのは、奇跡的なことである。ただ」

「ただ?」

「ここ何代かの天皇は病がちである。清原王きよはらのおおきみも近ごろ体調が悪いと聞く。激務ゆえ、やはり病の心配がない方がいいと思ってな」

「そなた、典薬寮てんやくりょうを取り仕切っているであろう? 何かいい薬はないのか?」

「なんとも。天皇家の血筋は病弱なのかと。――ときに、ふじ氏とたちばな氏はどうした?」

「橘氏は、孫のことで忙しいようだ」と虎守こもりが言い、「藤氏は腹を立てておるのじゃろ」と敦海あつみが笑いながら言った。


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