第35話035「決断を迫られているようです」



「つまり、マリーは私にリオ君の『後ろ盾』になれ⋯⋯という話ですね?」

「ええ、そうよ」


 シスター・マリーがオスカーの質問に即答する。


「なるほど。確かにそれならリオ君の名前を表に出さないようにするのは可能です。しかし⋯⋯」

「?」


 そう言って、オスカーがリオに顔を向けた。


「そうなると、商品登録と技術登録の手数料はリオ君には入らなくなりますよ? それでもいいのですか?」


 と、オスカーがシスター・マリーやウラノスにも聞こえるように俺に問いかける。


「そうですね。今はお金よりも自分の名前が表に出ないことが『最善』ですからね」

「! ふふ⋯⋯さすがです、リオ君。自分の状況がよくわかっているようですね」


 そう言って、オスカーがリオに「正解です」とでも言いたげな満足した笑みを送る。すると、


「わかりました。いいでしょう。では、私から提案があります」

「「「提案?」」」


 ここで、オスカーが突然「提案がある」と言い始めた。


「リオの名前を表に出さないまま、マヨネーズや今後生み出していくだろう商品の販売をスマートにこなしていく⋯⋯これらを成立させるものとして私が考えるのは、リオ君を私の下で働かせるというものだ」

「リオを⋯⋯オスカーの下で? それはどういう⋯⋯」

「はっきり言おう⋯⋯リオ君を私の『右腕』として雇い入れたい!」

「「「え?」」」

「「「ええええええええええええええっ!!!!」」」


 ガチャリ⋯⋯ドサ、ドサ、ドサ!


「あ! お、お前たち⋯⋯?!」


 オスカーの言葉に、シスター・マリーやウラノスだけでなく、外で待機していたペトラたちもドアの向こうで聞き耳を立てていたのか、3人の重みでドアが開き、中に流れ込んできた。


「「「え、えへ⋯⋯えへへへへ⋯⋯」」」


 3人ともとりあえず一生懸命ごまかそうと笑っていたが、当然そんなものでごまかされるわけもなく、シスター・マリーに説教されるのであった。



「⋯⋯はー、仕方ないわね。もうここまで話を聞いているのなら、いっそのこと中にいなさい」

「え? いいの?!」

「いいのも何も⋯⋯かえって、あなたたちを外に待機させたらまた同じことを繰り返しそうだもの。そして、そうなると他の職員なんかに不審がられる可能性があるし、話を盗み聞きされる恐れもあるからね。オスカー、悪いけどそういうことだけどいいかしら?」

「まあ、シスター・マリーが責任もって管理してくれるのであれば構わないよ」

「ありがとう」

「「「ごめんなさ〜い」」」


 こうして、ペトラ、ミトリ、ケビンたちもオスカーの部屋に入れた状態で話に続きとなった。



********************



「お、俺が商業ギルド長の⋯⋯右腕っ?!」


 突然の話に俺はもちろん絶賛混乱中だ。


「ああ⋯⋯とは言っても、公には私の『従者』という形にするけどね。そうすれば怪しまれないから」

「なるほど」

「そして、表向きにリオ君を目立たせないようにするには、どうしても商品登録と技術登録は私の名前になってしまうが、その分、そこから入ってくる手数料はすべてリオ君に『お給金』として渡す」

「えっ! い、いいんですか?!」

「良いも何も⋯⋯これは本来君に入るべきお金だからね」

「で、でも、私を隠すために色々と立ち回るのはオスカーさんですよね? それだとあまりに私だけが得しているというか、オスカーさんは負担だけしかないように思えるのですが⋯⋯」

「ふふふ、そんなことないよ、リオ君。だって、表向きとはいえ私がこのマヨネーズや卵殺菌用魔道具の開発者ということになるからね。これを利用して私は今よりもさらに商売を広げ、セイントファインを豊かにしていくつもりだ。まーつまりは得はあっても損など一つもないということだ」

「は、はあ⋯⋯」

「まとめよう。まずリオ君は今の身分である『孤児』のままでこれまでと変わらない。ただし、契約成立後はこの商業ギルド内の部屋に引っ越ししてもらう」

「えっ?! そ、それって、住み込みで働く⋯⋯ということですか?」

「そういうことになるね。あ、でも、別に商業ギルドから出たらダメとかはないからね。行動はこれまで通り自由で構わない。もちろん孤児院に行っても問題ないよ。重要なのはリオ君が商業ギルドに住むことだから」

「それって、つまり『保護』ということですか?」

「そうだ。君の敵は神殿だけじゃない。ヘチウマたわしのときに貴族と揉めたろ?」

「え? ああ⋯⋯」


 あれか⋯⋯ゲリーニ・バグズ卿。通称オットセイ卿。


「つまり、これからリオ君がマヨネーズやそれ以後も含めて売り出していくものは市場への影響が高いものとなる可能性が高いと踏んでいる。そのための『予防措置』だ」

「⋯⋯は、はい」


 つまり、「あれ? 僕なんかやっちゃいました?」による外部への影響に対する予防措置とも言えるわけね。


 まったく⋯⋯失礼な話だ。俺がそんなことするわけないじゃないか(※どの口が?)。


「とにかく、リオ君のこのマヨネーズが一度販売されれば人気商品となり、それはこのセイントファインを席巻するだろう。これは私も自信を持って言える。だから、リオ君にはできるだけ早いうちに商業ギルドこちらに住まいを移してほしい。どうだろうか?」


 そう言って、オスカーがシスター・マリーを見る。


「⋯⋯リオはどうしたいですか?」

「シスター・マリー⋯⋯」





********************


【毎日12時更新】

 明日もまたお楽しみください。

 あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


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https://kakuyomu.jp/works/16817330655156379837

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